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最高裁判所第三小法廷 平成10年(行ツ)265号 判決 1999年1月29日

千葉県船橋市習志野台一丁目一四番一八号

選定当事者

上告人

上野千津子

(選定者は別紙選定者目録記載のとおり)

千葉県船橋市東船橋五丁目七番七号

被上告人

船橋税務署長 松本正春

右指定代理人

米山匡志

右当事者間の東京高等裁判所平成八年(行コ)第一二五号所得税の更正処分取消等請求事件について、同裁判所が平成一〇年六月二三日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文)

選定者目録

千葉県船橋市習志野台一丁目一四番一八号

上野千津子

同所

上野彰子

千葉県船橋市習志野台二丁目二八番九号

岩永穎子

(平成一〇年(行ツ)第二六五号 上告人 上野千津子)

上告人の上告理由

○ 平成一〇年九月四日付け上告理由書記載の上告理由

第一点 被上告人の本件更正処分は、憲法八四条 租税法律主義に違反する。

一、(一) 被上告人は、平成三年三月六日付けで、上告人上野千津子に対しては別表一の(一)の通り、又上告人上野彰子に対しては同別表一の(二)の通り、又上告人岩永穎子に対しては同別表一の(三)の通り、夫々、昭和六二年分及び同六三年分並びに平成元年分について、夫々、申告所得税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした。(以下、本件更正処分という)

本件更正処分は、所得税法一五七条(以下同法という)を適用して行われたものである。

そして本件更正処分には二重課税が存在する。二重課税は、法人税と所得税の二重課税、また所得税に於いても不動産所得と給与所得の二重課税がなされている。

(二) 之についての問題点は次の通りである。被上告人は、同法の解釈上同法は実体法とは別個に関係なく課税できる法律であるから、二重に課税されても止むを得ないとする。

然しながら、之は法解釈を誤ったまま適用し、その結果上告人等に対して法人税及び所得税の二重課税をなし更に所得税についても同一の収入を二回カウントし、同一の収入に対して不動産所得と給与所得の二重課税を行ったものである。

然しながら、この二重課税は架空所得に対する課税であるから、実質的には税務署長の裁量による課税であり即ち法律によらない課税と同一であるから、憲法八四条の租税法律主義に違反する。

以下同法についての解釈二重課税の事実についてのべる。。

二、同法を適用するという事は、納税者が選択した実体法上の法形式(取引行為や経理上の計算)を前提に課税されている所、税法上税額計算の上に於いてのみ、例外的に納税者が選択した法形式を否認した上で課税する事を認めた制度である。(税理九年八月号七十八頁 岡山大学教授 石島弘)

換言すれば、同法を適用する事は実体法を否認するという事である。

即ち、納税者が選択していた実体法の形式による課税を取り消すという事であるから、同法の税法上の計算をなす場合に於いては納税者の選択していた課税方式は一旦全て取り消されて白紙状態になるという事である。その上で税法上の擬制された計算による課税を行うという事である。

従って税法上の計算に会わないものは全て取り消され、又は修正されなければならないという事である。即ち、同法を適用する場合には対応的調整が必要である。

若し、被上告人の言う様に同法を適用する事は、実体法と関係なく擬制するというのであれば、同法の適用を受ける納税者は論理的にみた場合に、実体法に基いて申告した課税と、擬制された税法上の計算による課税の所謂、二重課税を必然的に受ける事になる。

之は、税務署長は合理的に解釈して適用すべきであるという同法の趣旨に反する。

三、次に二重課税の状態について説明する。

(一) 本件に於いて上告人等が選択した実体法上の法形式並びに之に対する課税関係は次の通りである。

上告人らはその所有するA・B・Cの各建物を上野商事に賃貸し、上野商事は第三者にA・B・C各建物を賃貸し、第三者より転貸料を受け取り、その中から賃貸業務に必要な経費を差し引き、更にその余から上告人等に家賃、給料等を支払い、それ等を差し引いた残額が利益(法人所得)となり、之に対して法人税が課税されるという仕組みである。又利益があった場合には配当支払がなされる。

一方上告人等は上野商事より受け取る給料、賃貸料、配当等を合計したものを以て上告人各自の総所得金額として、之に対する所得税を算定し確定申告をしていた。この場合、給料、賃料は上野商事の法人税法上の損金となるが、配当所得は利益処分により出されていたもので利益がなければ出ない。

之を図示すれば次の通りとなる。

<省略>

即ち、A-〔B+(C+D)〕=E 法人所得である。

この場合AとBは一定である。又上野商事の収入金額は、A・B・C各建物より生ずる賃貸料(転貸料)以外にない事は被上告人も認めている所である。この図式から明らかな様に法人の所得Eと個人の所得(B+C)は一方が増加すれば他方が減少する関係にある。B(給料)とC(賃貸料)も相互に相反する関係にある。

即ち、賃借料が増加すれば給料はその分だけ減少せざるを得ない関係である。

実体法上、上野商事及び上告人各自が選択して納税していた。

右形式は一定の調和の下に合理的に計算されていたのである。

(二) 被上告人の処分は、右の上告人等の選択していた法形式(取引行為や経理上の計算)を税法計算上のみに於いて否認する事である。従って税法計算上のみであるから実体法上何ら関係がないとされている。然しながら、否認は合理的になされなければならない。之は文理上みても「計算する事ができる」とある事からもうかがえる事である。

即ち、国税通則二四条(更正)同法二五条(決定)の場合には「更正する」「決定する」とあるのに対して、本条の場合にはできるとなっているからである。

又合理的に解釈し適用すべきである事について学説上も異論がない所である。否認は納税者の採用した法形式そのものを否認する事であるという点から判断するならば、取引全体即ち、法人と個人所得の関連する全取引を全て対象とするのが合理的である。之は相互に関連するものについての一つのみを否認すれば、他に矛盾を生ずる事が一般的原則理論である事から考えられる事である。

本件についてみれば、法人上野商事と関わりのある給料・配当・賃借料並びに上野商事の所得も否認の対象とすべきである。上野商事の所得と上告人各自の所得は、一方が増加すれば他方が減少するという関係にあるからである。又給料と賃料は原資が同一であり、相互に関連し密接な因果関係を有し、片方が増加すれば他方が減少する関係にあるためである。

(三) 本件は、実現された経済的事実(効果)からみるならば、新たな利益を摘出する事は全くないので、分配の問題である。即ち、法人(上野商事)に分配された額、上告人各自に分配された賃借料(不動産収入)の額、給与の額が是か否かの問題である。上告人等は、実体法に基いて上告理由書添付の別表二、の通りに収入金額を上野商事又上告人各自に分配された給与、賃借料を基にして、夫々法人税・所得税の課税所得を算定し申告したものである。

之に対し被上告人の擬制の方法は、上告人等に分配すべき賃借料を極端に多くし(九五%)以上)、上野商事には管理料収入が配分されるべきであるという理論である。

即ち、上野商事は管理料収入しか計上し得ない事となる。上野商事は之より法人経費、上告人等に対する給与配当を支払うのであるから、被上告人の擬制による賃借料を増加させる方法では、実体法に於いて計上されていた給料、配当等を支払う事は当然不可能であり、法人所得も減少し欠損金額となる。

(四) 参考までに、上告人等の実体法による配分金額(Ⅰ欄)と被上告人の税法上の計算による配分金額(Ⅱ欄)を対比させた別表二を作成した。

(1) この表で明らかな通り、税法上計算によるものは支出(配分)金額が収入金額以上である。税法上の計算が成立するためには給料(C)か税引前法人利益(F)を減少させる以外にはない。

(2) 実体法によるFと税法上計算に於けるFの差額は二、八一五、九三四円と、△八、七〇二、九五八円であるから、合計額一一、五一八、八九二円がⅠ欄とⅡ欄の差額である。従って賃借料増加によるヒズミを是正するには、Fを減少する事では足りず、Cも減少させなければならない。然し、Cを減少させる場合には、Fはそのままにして差し支えない。よって試案としてC(給料)を減少させる方式を作成してみた。

即ち、給料一三、二〇〇、〇〇〇円から、実体法上のFと税法上計算のFとの差額一一、五一八、八九二円を差引いた額が、税法上計算に於いて成立する給料となる。

(3) この様に分配の問題の場合には、片方(例えば法人税)が増加すれば他方(所得税)が減少する関係にあるから適用しても効果がないのである。同法は、元来法人が不合理な行為をなす場合に個人にも不合理がみられる場合に、隠れた利益を摘出して法人と個人の両方に課税するというのが同法の本来の目的であった。

(五)(1) 原審も、被上告人が本件更正に於いて不動産収入を増加させる擬制が行われた場合には、更正の給与所得配当所得はあり得ない事を明確に判定している。

控訴審判決文九頁五行目以下で、被上告人の上告人等に対する不動産収入の擬制の結果、上野商事の収入金額は、上告人上野千津子についての適正管理料九三万九五四六円及び上告人上野彰子についての適正管理料九万七七八三円、合計一四三万七三二九円しか計上し得ない事になるとしている。即ち、擬制による法人上野商事の収入金額は、一四三万七三二九円となるのである。

原審は之等を全て給与所得、配当所得に充てたとしても、合計金額は一一、九八七、〇〇〇円にははるかに満たない事になるとしている。更正による給与所得、配当所得は一〇、五四九、六七一円も過大である事を是認している。

(2) 然しながら、ここで原審が給与、配当所得の合計金額とした一一、九八七、〇〇〇円は所得であり、実際には給与については所得ではなく、その収入金額が法人上野商事から上告人等に支払われるのである。

この場合、三人分の給与所得の収入金額は、別表二、又は三で一三、二〇〇、〇〇〇円であるから、これに配当所得の収入金額二、〇八〇、〇〇〇円を加算して一五、二八〇、〇〇〇円となるので、このうち管理料相当収入金額一四三万七三二九円を超過する額一三、八四二、六七一円が過大給与若しくは過大配当となるのである。

(3) 更に原審は言及していないのであるが、実際には法人経営に必要な法人経費を支払わなければならない。この法人経費は、別表三の(一)によれば、公租公課三四七、五七〇円、その他経費二、三四六、七七四円、合計して二、六九四、三四四円である。

この金額も、上野商事は管理料収入金額から支払わなければならない。

即ち、被上告人の擬制により税法上の上野商事の収入金額は、管理料収入金額一四三万七三二九円となるのであるから、給与、配当は勿論の事、法人上野商事は必要経費さえ支払えない収入金額である。

上野商事の法人所得は欠損(赤字)となり、給与所得、配当所得は〇となる。

四、本件の違憲及び違法について

(一) この様に被上告人が擬制した方法では、実体法に基いて申告していた法人所得は欠損金額となり給与所得、配当所得は〇となる筈である。即ち給与所得及び法人所得の減額処分が必要である。之が対応的調整である。換言すれば、本件のごとき配分関係を擬制により変更するという事例では、実体法に基いていた課税関係について税法上計算に対応してその対応的調整をしなければ、架空所得に対する課税、二重課税が発生し、合理的計算は成立しない。

従って被上告人は、行為計算の否認により不合理となった実体法に基いて申告した課税分である法人税、過大な給与配当等は当然取り消されなければならない。

取り消されない場合には、実体法に基く課税と税法上の課税が二重になされる。二重課税は社会通念上も許されないし、二重課税の内の一方は実質的には法によらない課税と同じであり、憲法八四条の租税法律主義に違反する。

(二) 然しこの様な結果になったのは、被上告人が同法の解釈を誤っている事にも原因がある。

同法は税務署長に所得発生の擬制を認めるものであるが、擬制は合理的でなければならないとされている。擬制は架空所得の算定及び之に対する課税を認めるものではない。架空所得に対する課税は、実質的に新たな税の課税であり、法律によらない課税であり、憲法第八四条の租税法律主義に反するからである。

同法を適用するについてまず第一に、課税の原則である課税の公平を旨としなければならない。課税の公平は実質的に租税力を有する所得に課税する事によって得られるのである。之は実質的に収益を享受する者に課税する事により得られるものである。架空所得等に課税する事は公平の原則に反する。次に所得税法の趣旨に則して課税されなければならない。所得税法の原則は、実際に得られる所得に課税し、架空所得には課税しないという事である。之は、所得税法十二条(実質所得者課税の原則)、所得税法三六条(収入金額)、同三六条(必要経費)、同百五十五条(青色申告による更生)等の解釈から導き出される趣旨である。右の趣旨から考えた場合、法一五七条は所得の発生を擬制するものであるとしても、架空所得を算定するものであってはならない。或る種の条件を前提にしたならば、通常得られるであろうと考えられる所得に課税する事である。

擬制は或る種の過程に立って行われるものである。擬制しようとする条件と合わない条件は取り消されなければならない。一つの債権の上に二つの債権を成立させる事は許されないからである。

本件の場合に於いて、例えば給与部分としていたものを、擬制により賃料部分とするからには、給与部分と賃料部分と重複する部分については一方を取り消さなければならない。

被上告人は、給与・配当等の所得は擬制計算を行う場合の対象にならないというが、之は同法の趣旨に反する事である。

同法をみた場合、法文上総所得金額及び税額についての記載はあるが、一取引又は或る種の所得のみを増加させるものであるという事をうかがうものは一切ない。又税務署長が増加させる処分のみを指すという文字もない。税務署長は計算する事ができると記載されているのみである。計算する事ができるというのは、増加させる処分のみを指すものでもなく、同法は合理的に解釈され又運用されなければならないという趣旨からみるならば、減少する処分及び増加する処分の両者を含むものと解するのが最も合理的である。公平な課税を実現するためには、増加する処分も必要であるし、減額する処分も必要であるからである。

本件の場合、不動産収入が増加する場合には、反対効果として給与所得及び配当所得が減少する関係にあるにも拘らず、実体法の効果を理由に、或は定款又は株主総会等決議を理由に、給与所得、配当所得等の減額処分を行わないのは、同法の趣旨を誤って解釈し誤ったまま之を適用したもので違法である。給与所得、配当所得の減額処分を同法を適用して行う場合には、擬制による減額が行われるもので、実体法上何ら影響を及ぼすものではなく、不動産所得を擬制とする同じ手法により行うものであり、不動産所得を擬制する事により重複する事となる。給与所得の収入金額を減少させ、所謂税法上の計算による給与所得を算定する事である。

税法上の計算のみにより給与所得を減額する事は実体法とは何ら関係ない。

同法を適用するという事は、実体法上の取引を否認するという事にあるのであるから、給与所得を減額する事も実体法とは何ら関係なく行われる事である。被上告人は税法上の計算を一部のみに行い関連する他の部分については実体法上の取引を維持しようとする、いわば税法上の計算と実体法上の計算を混同させている。然し之は矛盾した取り扱いであり法の趣旨に反する。その結果二重課税、重複課税の矛盾した処分を行っている。本件に於いては、収入金額から予想される事実(債権)には、全て課税されているのである。所謂課税もれはないのである。

所得税法一五七条が私法上の発生していない債権を認定できるとしても、前に成立している債権の上に重ねて新しい債権を成立させる事は不可である。或る種の取引に対してすでに債権が成立して、それがすでに課税されている場合には、債権の内容を変更して認定し、それに対して課税される事が許されるのみである。そして変更は前の課税済みの債権を取り消す以外に方法はない。被上告人の処分は、上告人等が実体法上は給与債権或は法人の収入として申告していたにも拘らず、計算上擬制して賃貸料債権とみなして課税したのであるから重複する部分は擬制して取り消すのが法に適合する方法である。実体法を無視して擬制によって私法上の債権を認定したのであるから、重複する部分については、之に見合った即ち前の債権を取り消すという調整が必要である。被上告人は、役員報酬を減額する事は実体法上の効果に基づいて課税は行わなければできないとするが、之は同法を適用する事は実体法上の法形式を否認して税法上の計算のみで行うものであるという、同法の趣旨を理解していないからである。同法を適用して給与所得を減額する事は、税法上の計算のみの事であって何ら株主総会の議決等は必要ではない。不動産所得を税法上計算する事によって、実体法による計算でやれば合理的であった給与所得が、税法上計算によれば不合理になったので、之を計算し直し実体法に基づいてなされていた。課税をやり直すというだけである。同じ収入に対して、不動産所得と給与所得が二重に課税される事は法の予定しない事であり違法であるからである。従って同法を適用するに当たっては、増額処分をすれば重複するという現象があれば、減額処分をして全体が合理的になる様に調整しなければならない。

又被上告人は、所得税法一五七条は所得税を増加させる部分のみを対象とし、之を減額する事態となるものは対象外であるから、役員報酬等二重課税部分を減額する事は不可能とする。然し、この様な解釈方法は同法の趣旨に反する。同法の行為計算の否認は、実質的に公平な課税を行うために適正な所得を正確に把握しょうとするためのものであるから、現実になされた相互に関連し、一応整合性を有する一連の行為計算を否認して、別の行為計算に引き直すものであるから、現実になされた行為計算の一部のみを取り上げて否認する場合は、矛盾を生ずるもので、之と必然的に関連する他の部分をも否認して計算をし直さなければ、合理的な結果は得られない。

即ち、本件のごとき分配の問題の場合には、不動産所得と密接な関連を有する給与所得、法人所得をも否認の対象として計算をやり直さなければ、適正な所得を算定する事は不可能である。

(三) 又同法を文言上からみた場合にも、否認は総所得金額の算定に関連する全ての事項に及ぶ事が考えられるのである。即ち、同法の文言上所得税法一五七条が対象とするものは、総所得金額・退職所得金額及び山林所得金額の合計額及びそれらに対する税額である。本件の場合には、退職所得及び山林所得はあり得ないのでその対象となるのは、総所得金額からそれを構成する不動産所得、給与所得、配当所得となるべきである。

その場合の総所得金額というのは租税負担能力を有する所得であるのが原則である。即ち、実際に収益を享受しているものである。架空の所得というものは、担税力を有しないのであるから課税の対象とならないものである。従って不動産所得の擬制により減額する事が明らかである給与所得、配当所得及び法人所得は、税法上計算に於いては架空所得となるから、取り消すか変更すべきである。

(四) 次に、同じ収入に対して法人税と所得税の二重課税が存在する。この事は、原審も控訴審判決文一五頁以下に述べている。即ち、被上告人の擬制方法では、上野商事の転貸料収入金額は管理料収入しかないとしている。之は上野商事の所得がなくなる事を意味しているのである。

然しながら被上告人は、上野商事の減額処分をしないので、法人税もそのままであり、所得税と法人税が二重に課税されている。

別表四は、所得税額についての上告人等の法人不介在の場合と、更正の場合の対比表である。この表に於いて法人不介在というのは、上告人等が法人を介在させないで直接賃貸したと仮定した場合の税額である。従って通常の正常な行為による場合の税額である。この表で明らかな通り、被上告人の更正による所得税額は、上野千津子に対しては毎年通常の税金の四〇%以上高額であり、金額にして三年間四百五拾五万五千円高額であり上野彰子に対しては毎年通常の税金より二二〇%、金額にして三年間一百九拾七万八千円高額である。

又岩永頴子に対しては毎年通常の税金より一七〇%以上、金額にして三年間二百五拾万八千円高額である。

又法人税も何も減額しないのであるから、法人を利用したために、被上告人が課税した部分に該当するから、法人税も更正額に入れて対比すると、昭和六十二年分四、一二八、六三四円、昭和六十三年分三、三九六、八三四円、平成元年分三、七〇一、三五〇円、三年間合計して一一、二二六、八一八円多く支払った事になる。法人不介在の場合の三年間の合計税額は一六六七万八千円であるから、之を対比すると九七%の増額である。之は通常の税金のおおむね二倍近い税金を課税されている事になる。之は事実上新たな税を課したと同じ効果である。所謂法律によらない課税を実現したのである。之は憲法八四条の租税法律主義に違背する事が明らかである。之は不動産所得を増額擬制し、之に対応して減額擬制しなければならない筈の給与所得及び配当所得並びに法人所得を減額しなかった事によるものである。

第二点 被上告人の処分は、憲法一四条、全ての国民は、法の下に平等であって、経済的関係に於いて差別されないという条項に違反する。

被上告人の処分には、第一点で述べた様に法人税と所得税の二重課税があり、又所得税についても不動産所得と給与所得の二重課税があり、別表四、で明らかな通りその額は通常の税金に比較しておおよそ倍額である。之は被上告人が、同法の解釈と適用を誤った結果であると考えられるが、若し誤っていないとするならば、同法が憲法一四条に違反する法律である。

第三点 給与所得・配当所得等に対する原審の判断(控訴審判決文九頁、三)は、民事訴訟法 三一二条 二項六号に違反する。

給与所得、配当所得に対する原審の判断には、審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法がある。その結果、被上告人の本件更正処分が、所得税法一五七条の解釈並びにその適用を誤ったものであるにも拘らず、之を是認したもので、その違背は判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、(一) 原審は、被上告人が更正通りの不動産所得の更正を行う場合には、更正通りの給与所得・配当所得は存在しない事を明確に判定している(控訴審判決文九~一〇頁三行目)。

(二) 更に同法の趣旨として、同族会社の行為・計算の否認は、適正所得の把握のために行われるものであって、現実の行為の結果に影響させようとするものではない。しかしながら、行為・計算の否認は、実質的に公平な課税を行うために所得を適正に把握しようとする制度であり、かつ、現実になされた相互に関連し一応整合性を有する一連の行為・計算を否認して、別の行為・計算に引き直すものであるから、現実になされた行為・計算の一部のみを取り上げて否認するのは必ずしも妥当ではなく、これと必然的に関連する他の部分をも否認して計算をし直すことが妥当な場合が多いと考えられる。したがって、行為・計算を否認することにより、全体として所得の正確かつ実質的把握に資するようにすべきであって、一部の行為・計算のみの否認が全体として正確且つ実質的把握を損なう場合には、問題があるとしなければならないとして被上告人を解釈したのである。

(三) 従って原審の判定した事実並びに同法の解釈によれば、明らかに被上告人の更正した給与所得・配当所得は存在しないのであるから、給与所得・配当所得についてその計算をやり直さなければならないのに、被上告人の処分を是認した原審の判断は、判定事実と異なるもので、理由不備、理由齟齬の違法がある。

二、(一) 原審は「役員報酬は定款又は株主総会の決議によって支給額が決定され、支給原資の有無に関わらず、支払債務が発生するものであるから、之を否認する事はできない」との被上告人の解釈について、疑問があるとして明確な判断を避けているが、被上告人のこの解釈は、実体法上の役員報酬の定義である。然しながら、同法を適用する事は、実体法とは関係なく、即ち実体法上の行為・計算の効果に触れずに所得税の課税上のみ否認し、別の計算に引き直すものであるから、何ら定款、株主総会の決議等必要ではない。税法上、給与所得・配当所得の減額処分を受けても、現実に受け取った給料・配当を返還する必要はないのである。

更に具体的に述べるならば、実体法に基づいて計算していた不動産所得を税法上計算でやり直した結果、実体により計算していた給与の収入金額が、減少する結果となったので、給与所得・配当所得を擬制により計算し直すというだけである。やり直さなければ、同じ収入に対して不動産所得と給与所得が課税される如き不合理が生じるので、之を是正するために、擬制により給与所得の計算をやり直して減額するという事である。

この点についての原審の判断は、明確でなく理由不備である。

(二) 又原審は、同族会社の行為・計算を否認するにあたり、関連する全ての事項を否認して計算をし直す事は、相当の困難を伴うから、否認しなくてもよい様な判断をしている(控訴審判決文一三頁)が、上告人等からすれば、全く困難でないし、即ち上告人等は、第一審に於いても 甲六号証添付 別表二(1)~(3)で、被上告人が不動産所得を更正した場合に、支払可能な給与を算定した。又課税に携わっている人ならば、何ら技術的には困難な事ではない。又たとえ困難であっても、公平な課税を実現するためにある同法の趣旨からするならば、否認し直すのが当然であるのに、否認するについては、何が困難であるか、何が障害であるかについて、何ら審理せずに、結論として被上告人の主張に同意したのは、審理不尽、理由不備の違法がある。

三、(一) 被上告人は、架空の給与所得を課税するのは、同法が、予防的、警告的機能を有するものであるとする。(被控訴人 平成九年十月三十日付け 準備書簡二六頁)

若し同法が警告的、予防的機能を有するというのであれば、同法は通常以上の税金を課す制裁的規定である。同法が制裁的規定であるとするならば、同族会社にのみ、特別の重い税金を課すもので、同族会社が経済的に差別される事で、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反する。又、合理的な裁量の範囲をこえて、税務署長に重税を課す特別の権限を与えるもので、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する。

(二) 之に対し、原審は実質課税ないし課税の公平の原則からみると、同法が予防的、警告的機能を強調し過ぎるのは妥当でないとしながらも、同法は予防的、警告的機能を有するものとしている(控訴審判決文一三頁)。

然しながら、警告的・予防的機能というのは、通常以上の税金を課す、制裁的な規定である事を意味するもので、この様な判断は、通説に反する判断である。

学説として次のものがある。

同法の適用の限界は、不当性を是正する範囲(右山昌一郎 税理九年八月号一一三頁)

租税回避があった場合に、当事者が用いた形式を法形式上無視し、通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う範囲(金子 拾 租税第六版)

隠れた利益処分の範囲(田中勝次郎 法人税の研究)

(三) 以上原審は結論として、本件、給与所得・配当所得等の二重課税が行われても、苛酷でなければ違法とするのは困難であるとして、明確な判断を避けているが、第一点で、上告人等が主張した事実からすれば、通常の税金の倍近くになるのであるから、かなり苛酷であるのに、どの程度苛酷であるかについて、何ら審理しないのは、審理不尽、理由不備の違法がある。

四、原審は、最後に基本的に同一の問題として、福岡地方裁判所、平成元年行(ウ)第二七号を例にあげ、この判決に同調したものと考えられるが、原審の判断と福岡高裁の判断には、かなりの温度差がある。即ち、原審は二重課税の存在を明確に断定しており、又この様な事実は妥当でないとしているのに対し、福岡高裁は、その様な事実があっても同法が予防的、警告的機能を有するものであると是認している。

乙三号証の二 福岡高裁判決は、次の通り矛盾がある。

判決要旨に於いて同法は、租税負担の公平を維持するために、不当に減少させる様な行為・計算が行われた場合に、それを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を、税務署長に認めるものであって、あくまで租税負担の公平を図るのが目的であって、租税負担を回避しようとする者に、通常以上の税を負担させようとする制裁的規定はないとしながら、同法の趣旨とは全く異なる判断をしている。

先ずXの役員報酬は、その原資いかんに拘らず代表取締役としての役務の対価とするが、之は実体法に於ける役員報酬の定義であり、之をそのまま税法上の計算をなす同法に適用するのは不適当である。

即ち、Xの行為・計算の否認をした場合にも、実体法の計算と同じ給料の額が、存在し得るか否かの点を検討しなければ、適正な給与所得を認定したとは言えない。

又二重課税がなされたための高額の課税は、同法の警告的、予防的機能であるとする点については、通常以上の税金を課すものではないとする、当初の趣旨とは全く異なる判断をしているもので矛盾する。

同判決は、実体法を否認して税法上の計算をなすという、同法の趣旨を十分に理解していない判決である。即ち、実体法によるものと、税法上のものとを混同して解釈した結果、矛盾した判断となったのである。

第四点 二重課税について、民事訴訟法第三一二条 二項 六号 に該当する。

右について、原審が事実関係に於いて妥当でないと判定しながら、違法と迄は解されないとしたのは、判断に矛盾があり、之は法解釈について審理を尽くさない結果、理由不備、理由に食い違いが生じたものであり、判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、(一) 所得税と法人税の二重課税について、原審は本件更正処分に於ける擬制方法は、論理必然的な結果として、上野商事の転貸料収入は発生せず、管理料収入のみが発生するものと認定している。即ち管理料収入は、被上告人の計算によれば、転貸料収入の五%しか計上し得ないから、実体法に於ける収入は、九五%減少する事を認定しているのである。換言すれば、同法を適用する事によって、之と関連する上野商事の収入金額は、実体法に基づいて申告していた収入金額より、九五%減少する事を意味している。従って之をそのまま放置する事は架空所得に対する課税であるので、実質課税の見地からすると妥当でないが、上野商事に対して、更正処分がなされていない事から、本件更正が違法となるとまでは解されないとする。

(二) この原審の判断は明確でなく、審理不尽・理由不備の違法がある。即ち、この様な不合理な結果となるものについて、被上告人の法解釈並びにその適用が、妥当であったか否かについて更に審理を尽くし、真に同法の趣旨に則った解釈をすべきであったのに、之をしなかった事には、審理不尽・理由不備の違法がある。

(三)(1) 法人税と所得税の二重課税の不合理が存在する等という事は、平和憲法が存在し基本的人権が尊重されている日本国に於いては、社会通念上も全く考えられない事である。

(2) 又敢えてこの不合理を是正しようとしない被上告人の姿勢にも問題があるとしなければならない。

(3) 又何が不合理であるかを充分審理し、正義を実現するのが裁判の究極の目的であるから、法解釈について充分審理し、合理的解釈をして、事実関係の判定と明確に合致する判断をすべきである。

二、(一) 租税正義に於いて、不合理な二重課税が許される法理は存在しない。

(二) 同法は、合理的に解釈し、且つ合理的に之を適用されなければならないと解されている。この場合の合理的というのは、処分に関連する全てが合理的でなければならない事を意味する。

一部の不合理を是正しても、他に関連する他の部分に不合理を生ずるならば、不合理を是正した事にはならない。仮に所得税の不合理をなくすための処分を行った所、それと表裏をなす法人税に、新たな不合理を生じるならば、不合理を是正した意味がない。

(三) 同法を適用する事によって、重複する法人税を取り消さない限り、二重課税が存在する。同法を適用した所不合理な二重課税が生ずる事は、合理的に之を適用するという同法の趣旨に反するから、適用そのものが違法であるといわなければならない。即ち、瑕疵ある処分ともいうべきものである。

(四) 同法は、実体法による課税方式を否認する事にあるから、同法を適用する場合には、関連する全ての事項を否認して、計算をやり直さなければ、合理的計算は成立しない。

(五) 所得税の更正をなす場合に於いて、実務上は、法人税と重複する場合には、法人税を取り消すのが一般的な取扱いである。又取り消さない場合には、納税者側から、国税通則法 二三条 二項 に基いて、その取消しを請求する事ができる。然しながら、之はいずれも実体法に於ける取扱いであり、この規定は、同法を適用した場合には、適用できないと考えられている。

即ち、実体法に於いては、納税者は、権利が侵害された場合には、自ら救済を申立てる事ができる救済規定があり、ある程度合理的な法整備が存在する。

(六) 之に対し、同法を適用する場合には、同法が擬制をなすという特殊な法性格から、救済をする明文上の救済規定がない。又被上告人は、明文上の規定がない事を理由に、不当な二重課税を是正する事を拒否している。然しながら、之は同法の解釈を誤っているからである。納税者の権利が侵害された場合、実体法には救済規定があるが、同法による処分に救済規定がないのは、同法の擬制をなすという特殊な法性格上、同法に救済規定が含まれていると解釈さなければならない。即ち、同法について合理的というのは、関連する全てを合理的に処理しなければならないという意味が、含まれていると解されなければならない。

この事は、仮に同法を適用する事により、関連する法人税と重複する部分を生じた場合には、之を取消さなければならない。因みに、旧所得税法 基本通達 一ノ七一四 は、「法六七条の規定については、法人税法第三一条の規定との統一的適用につき留意するものとする」と規定していた。

右法条は、改正前の右六七条・三一条 であるが、現行の一五七条(所得税法)一三二条(法人税法)に相当する規定がある。

この通達は、現在は廃止されているが、その合理性は、現在も税務処理に於いて、取扱われて然るべきである。

第五点 現行所得税法 一五七条 が適用された場合に、重複する実体法上の課税が是正されないと解されるならば、同法は、同族会社及び同族会社の株主等にのみ、通常以上の税金を課する事を認容するもので、同法は、憲法一四条の、全て国民は、法の下に平等であって、経済的関係に於いて差別されないという条項に反する条項である。

第六点 本件更正処分の、青色申告書に係る更正の場合の、理由不備について

右について、原審の判断は、審理不尽の結果、所得税法 一五五条 二項 の趣旨及び、最高裁判例(昭和三六年(オ)八四号、昭和三八年五月二三日 判決民集 一七巻 四号 六一七頁)の趣旨に照らし、民事訴訟法 三一二条 二項 六号 判決に、理由を付せず、又は理由に食い違いがある事に、該当する。

右違反は、判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、(一) 本件更正処分の通知書には、

(1) 上野彰子を例にとると、昭和六二年分について、不動産所得の総収入金額に加算すべき金額三、七四五、四四二円、上野商事にて建物を賃貸し、三、六六四、四〇〇円の賃貸料を得ているが、所得税の負担を不当に減少させているものと認められる。

又賃貸料から管理料相当額を差引いた金額は、その賃貸料に占める割合が五二%、又平均管理料割合は、九・三三%である事。

上野商事は同族会社であり、あなたは上野商事の株主であり取締役であるから、賃貸料の金額について、恣意的に定められる立場にあるから、次の算式で計算した収入すべき賃貸料の金額七、四〇九、八四二円との差額、(七、四〇九、八四二円-三、六六四、四〇〇円=)三、七四五、四四二円は、所得税法一五七条一項 の規定により、不動産所得の金額の計算上、総収入金額に加算して計算します。

算式 <1>+<2>-<2>×<3>-<4>=七、四〇九、八四二円

<1> 上野商事が得ている、又貸料のうち、礼金、更新料の金額

<2> 上野商事が得ている又貸料のうち、礼金、更新料を差引いた金額 七、六二九、〇〇〇円

<3> 同業者の管理割合 九・三三%

<4> 上野商事が負担している修繕費等の実質分 三一五、三七三円

以上により、不動産所得の金額は、

総収入金 七、四〇九、八四二円 から、必要経費 四、三六二、〇七七円 及び青色申告控除 一〇〇、〇〇〇円 を差引いた 二、九四七、七六五円 となります。

(2) 以上、昭和六三年分、平成元年分についても、金額は異なるが、同じ様式で記載されている。このうち、同業者の管理割合については、六三年分が、八・四六%であり、元年分については、九・一一%となっている。

(二) 岩永頴子については、右と同じ要領で記載されているが、一般に、この管理料相当額は、単に賃貸建物を、管理委託した場合の管理料と、同程度であるが、本件ガソリンスタンドについて、上野商事は、具体的な業務提供を行っていないので、管理料相当額の発生は、通常行われる経済取引の形態に照らし、異常、不合理なものであると記載されている点が、右上野彰子と異なる。

岩永頴子については、昭和六三年分及び平成元年分についても、同じ要領で記載されている。

(三) 又上告人、上野千津子についても、上野彰子と同じ要領で記載されている。

(1) 昭和六二年分について言えば、管理料割合は、九・五〇%、平均管理料は、九・六九% なっている。

他の項目については、金額は異なるが、同じ要領で記載されている。

(2) 昭和六三年分について

管理料割合は、九・五九% であり、平均管理料割合は、九・三二%

他の項目については、金額は異なるが、同じ要領で記載されている。

(3) 平成元年分については、管理料割合 九・五二%、平均管理料割合 九・九九% となっている。

他の項目については、金額は異なるが、同じ要領で記載されている。

二、(一) 上告人らは、青色申告書を提出する者である。所得税法 一五五条 二項 には、総所得金額の更正をする場合には、その更正の理由を付記しなければならないとされている。

(二) 本件の場合、上告人等の総所得金額は、不動産所得・給与所得・配当所得により構成されているが、被上告人の更正通知書には、不動産所得については、(右、一)に記載されている程度の理由が記載されているが、給与所得・配当所得似ついては、更正額が適正である理由が、何ら記載されていない。

(三) 本件更正処分は、第二点、第三点で述べた様に、本件の擬制の方法によれば、消滅若しくは大幅に減額する事が明らかである。

それにも拘らず、本件各更正の通知書には、更正に係る所得が存在する理由が、全く記載されていない。

原審の判決にも、この点については、何ら記載されていない。之は正に判決に理由を付せずに該当する。

よって原審の判断は、所得税法 一五五条 二項の判断を誤ったもので、破棄されなければならない。

三、(一)(1) 不動産所得については、更正理由が右一の通りに記載されている。然しながら、記載されている理由は、最高裁判例(昭和三六年(オ)八四号)に違反する。

この規定の趣旨は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制すると共に、更正の理由を相手先に知らせて、不服申立ての便宜を与えようとするものであるから、更正通知書に理由を記載する場合には、更正した根拠を、帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示して、具体的に明示する事を要するとされている。更にこれを敷衍するならば、更正はいかなる事実関係に基き、いかなる法規を適用して処分がなされたかを、納税者が、具体的に予知し得るものでなければならないのである。

しかるに被上告人の更正理由書には、単に不動産所得の収入金額について、加算すべき金額の計算方法、課税について記載するのみで、加算すべき金額が、具体的にどの様な勘定科目で存在するのか等に、何らの具体的な証明がない。

又、平均管理料割合の算定方法、上野商事が負担している修繕費等の実費分の明細等について、証明する事項が記載されていない。

(2) 然し原審は(一審判決 九九頁に於いて)本件に於いては、帳簿書類の記載を否認するのではないから、不服申立の便宜のための理由を記載すれば足りるものとして、その加算すべき金額及びその算出方法、並びに加算すべき理由が、簡潔に記載されているから、平均管理割合の算出、根拠や比率、同業者等については記載する必要がないとする。然しこの判断は、帳簿記載というのが何を指すかについて判断を誤っている。

帳簿書類の記載というのは、帳簿書類に記載されている事実によって証明される事を指すのである。従って更正通知書に記載されている、不動産所得の総収入金額に加算すべき金額、礼金・更新料の額、「上野商が負担している修繕費等の実費」は、いずれも帳簿によって証明される事項であり、訴訟に於いてもその額が争点となるものである。

(3) 頭書の最高裁判例(昭和三六年)及び一審判決が例にあげた、最高裁 昭和六〇年四月二三日判決の趣旨にも反する。即ち、一審判決が例にあげた「最高裁 昭和六〇年四月二三日 判決も、(帳簿書類の記載自体を否認する事なしに更正する場合に於いても、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に、具体的に明示する事が必要である)旨を判示している」のであり、更正通知書には、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立の便宜という、理由付記制度の趣旨・目的を充足する程度に、記載する必要がある事には、両判例とも変わりはないのである。

(4) また本件更正処分は、擬制をなすという特殊な事例であるが、擬制は、合理的になされなければならないから、所得税法 一五五条 二項 の適用を受けるのは当然である。

従って同法を適用する場合にも、更正の妥当・公正・慎重・合理性が要求されるものであり、又同時に、納税者の権利を侵害しないという、保障的機能も考慮されなければならない。

(二) 以下具体的に、理由不備の問題点について述べる。

(1) 不動産所得の収入金額についていえば、この収入金額の増加部分は、税務計算上、上野商事より支払いを受ける金額の増加部分とみなすのか、或いは上野商事の転貸先からの直接収入とみなすのかについて、上告人各自の更正通知書には何ら記載がない。之は不服申立の便宜の要請に対して全く反する。若し仮に、上野商事からの賃貸料の増加部分とみなすとするならば、上告人等は、法人税との関連、給与所得との関連についても、明白な不服申立の理論が主張できるのである。所得税と法人税との二重課税の問題、同一収入に対する給与所得と不動産所得の重複課税の問題等について、明白な論議がなされないのは、この点についての理由不備が原因である。上告人各自の更正通知書には、礼金・更新料を計算上、又貸し料から除いて、直接上告人等に帰属するものであるとする点について、何ら具体的理由が示されていない。管理会社によっては管理料、礼金、更新料を受取る所もあるのであり、之は不服申立の便宜の要請に反する事である。

(2)(a) 平均管理料割合は、本件に於いては売上増加の算定の基礎をなすものであるから、之がどの様な根拠に基いて算定したから正当であるか、明らかにする必要がある。之は、不服申立の便宜及び処分庁の恣意抑制という両方の要請に応じるものでなければならない。

(b) 然しながら、管理料相当額を算定する基礎となった平均管理料割合は、単に数字を記載しているのみで之がどのような根拠に基いて算定したから正当であるかの記載がない。(法律の規定によるのか、通達の規定によるのか)担当者の私見によると考えられるが、管理料割合の算定の基礎となった同業者は、不動産賃貸会社なのか、純粋な管理会社であるのかさえ明らかでない。その同業者は、上野商事と具体的にどのような点で同一視されるのかの説明もない。この記載がないという事は、不服申立の便宜の要請および処分庁の恣意抑制の両方の要請に反し、明らかに理由不備である。

(c) 更に上告人が、本件更正に使用した平均管理料割合は、瑕疵がある事が判明したのである。

即ち、被上告人が使用した平均管理料割合を正当とした場合には、被上告人が算定した実費負担相当額には、共用電気代の計上もれがあるため、更正額を減額せざるを得ないのである。

(d) 従って処分庁は、審査請求に於いて、やむを得ずこの平均管理料を、本件更正処分より低くした。即ち別表四の(二)の通り、被上告人の算定した平均管理料割合と、不服審判所の算定した平均管理料割合には、かなりの開きがある。

(e) この様な被上告人の恣意により算定された、本件管理料割合には、正当性がなく、之により更正した、本件処分は違法であり、之を是認した原審の判断は、審理不尽、その結果理由に食い違いがあり、破棄されなければならない。

(三) 上告人各自の更正通知書には、上野商事が負担している実費負担相当額について、具体的にどの様にして、算定していたかについて、何らの説明もない。之は不服申立に対して、全く便宜を与えていない。上告人等は上野商事の経費のうち、どの部分が税法上計算に於いて認められるかについて、全く不明であるからである。このうち、共用電気代が脱漏している事を、審査請求に於いて指摘されている。

上野商事が負担している実費負担相当額について、上野商事の帳簿上のどの部分が、上告人等の実費負担相当額となるかの記載がない。之は不服申立の便宜に役立っていない。即ち、実費負担相当額については、上告人等は、上野商事の帳簿より算定した額は、被上告人の算定した額とかなり開きがある。

判決文添付 別表一一で、上野千津子分について、昭和六二年分を例にとれば、上告人の算定した額は、一、六七二、〇三五円 であるのに対し、被上告人の算定した額は、一、一〇〇、八五九円である。

その差額は、五七一、一七六円 である。

之について、被上告人の主張額 一、一〇〇、八五九円 が正しいか否か、被上告人の方から、明細の証拠を示して、その理由を更正通知書に記載しなければならないのが、最高裁判例の、不服申立に便宜を与えようとする趣旨である。即ち、単に金一、一〇〇、八五九円 が、上野商事の帳簿に記載されているどの部分を指すのか、明らかにしなければ、更正付記の要件が満たされているとは解されないのである。

第七点 控訴審判決文 四頁「控訴人 の総所得金額について」原審の判断は、審理不尽、理由に食い違いがあり、民事訴訟法 三一二条 二項 六号 に該当する。

原審は、上告人等の総所得金額について、原判決の判断を是認している。然しながら、一方に於いて原審は、上告人等が本上告理由書 第三点 で述べた様に、被上告人が擬制により、不動産所得の更正を行う場合には、給与所得・配当所得はなくなる事を明確に判定している。之は、上告人の主張とも一致するもので、事実はその通りである。之は、不動産所得は増加するが、給与所得・配当所得は減少し、若しくは消滅するので、総所得金額は減少する事を意味している。

然るに原審が、本項に於いて、被上告人の更正による総所得金額を是認したのは、判決文 配当所得・給与所得の欄(九頁以下)で、判定した事実と異なり、前後判断が矛盾する。之は、審理を充分尽くさなかった結果、理由に食い違いを生じたものであり、判決に影響を及ぼす事明らかである。

第八点 所得税が不当に減少したか否かを判断するについて、被上告人の更正した総所得金額に基いて算定された税額によったのは審理不尽その結果理由に食い違いが生したもので民訴法三一二条二項六号に該当する。

一、所得税の負担を不当に減少させるものであるか否かを判断する場合に比較対象とするものを何れにするかが最も重要な事項である。

之について原審は被上告人の更正による総所得金額により算定された税額と上告人等の申告税額との対比によって、不当に減少しているか否かを判断した。然しながら上告人の更正による総所得金額は、被上告人の犠牲により算定した不動産所得と上告人等が実体法に基いて申告した給与所得と配当所得により構成されたものである。

そしてこの実体法により算定した給与所得と配当所得は第三点でのべた様に被上告人が本件更正の様に不動産所得を擬制する場合には現象若しくは消滅する事が明らかになった所得である。即ち、架空の給与所得・配当所得となるものである。

隋って上告人の更正による総所得金額と比較して所得税が不当に減少しているか否かを判断するのは不合理である。最も公平で合理的な方法は被上告人も同法の目的が正常な行為計算に引き直して計算し直す事にあるといっているのであるから正常な行為計算にやり直して算定した税額により比較するのが最も合理的である。

本件に於ける正常な行為というのは法人を介在させないでいわば上告人等が賃借人に直接賃貸したとして仮定した場合に算定される税額である、隋って之を比較するのが最も合理的である。

参考に法人不介在(上告人等が直接賃借人に貸付けた場合)と申告税額を比較した別表六の(一)(二)(三)を作成した。

又関連する上野商事所得金額納付税額表を作成した。(別表六の(四))原審は何を比較対象とすれば最も合理的であるかについて何ら審理をせず漫然と被上告人の算定した所得金額をもって比較対象としたのは審理を尽さずその結果判決に食い違いを生じたもので民訴法三一二条二項六号に該当し判決に影響を及ぼす事明らかである。

第九点 上告人等と上野商事との間の、取引全体を考慮するという場合、配当所得・給与所得をも考慮するのが妥当であると言いながら、転貸料に比較する賃貸料には、給与所得・配当所得をも含めて比較するべきであるのに、給与所得・配当所得を除いて、賃貸料のみと転貸料を比較して、所得税の不当に減少したか否かを判断したのは、審理不尽・経験則違反であり、その結果理由に食い違いを生じたものであり民事訴訟法 三一二条 二項 六号 に違反し、判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、原審は、控訴審判決文(六頁)に於いて

同法の適用に当っては、株主等と同族会社との間の取引行為を全体として把握し、その両者の取引が客観的にみて、個人の税負担の、不当な減少の結果を招来すると、認められるかどうかと言う観点から判断するのが妥当であるという。

ここで原審の言う、株主等と同族会社との取引行為を全体として把握すると言う、全体の意味は、本件に於いては、上告人等の上野商事に対する賃貸料並びに、上告人等が上野商事から受取る給料、配当などを合算したものであると解されなければならない。即ち、取引行為全体というのは、全ての取引を指すものである。

そして、上告人等と上野商事の取引には、上野商事に対する賃貸料の他、上野商事から受取る給料・配当等がある。そうすると、上告人等の上野商事に対する賃貸料額というのは、上告人等と上野商事の間の取引に於ける全体の中の一部と考えるのが妥当である。よって個人の税負担が不当な減少であるか否かは、上野商事から受取る賃貸料の他に、給料・配当等も含めて、所謂全体として計算し、それが不当であるか否かによって、判断するのが妥当である。更に上告人等は、法人を介在させる事によって、法人税も負担しているので、法人税も合わせて不当か否かを判断しなければならない。

然るに原審が、本件の上告人等の上野商事に対する賃貸料が不合理、不自然というのは、上告人等と上野商事の間の全体の取引を把握するのではなく、単に賃貸料額のみを指していると考えられる。然しながら之は、上告人等と上野主事との間の取引の一部のみを取り出しているのであり、前段で取引行為全体として把握すべきであるとする考え方と矛盾する。即ち理由に食い違いがある。

二、次に原審は、上告人等は上野商事の収入を原資として、上野商事から給与・配当の支払を受けて、之等をも所得として申告しているから、配当所得・給与所得も考慮するのが妥当とする。しかしながら、考慮しても、賃貸料が転貸料に比べて余りに低額であるという。然しながらここで考慮するという事は、単に賃貸料のみでなく、低額な賃貸料の代償として受取った。給与所得・配当所得をも含めて計算しなければ、考慮した事にはならない。

上告人ら各自が、上野商事より受取った賃貸料・役員報酬及び配当金の合計額と、上野商事が、賃借人から受領した転貸料額との間には開差はない。(別表の五(一)、(二)参照)

原審は、給与所得・配当所得を考慮すると言いながら、事実上考慮しない計算をしている。経験則から言うならば、考慮するという事は、給与所得も配当所得も賃借料も、上野商事から受取る収入である事には変わりないのであるから、同一の収入として転貸料と比較しなければならない。之をせず単に賃貸料と転貸料の金額の比較のみを行った、原審の判断は、審理を尽くさず、そのため前後の判断に食い違いを生じたものであり、その結果、被上告人の本件更正処分の誤りを、是認したものであり、違法である。

よって、原判決は破棄されなければならない。

以上

別表一の(一) [原告上野千津子関係]

<1>昭和62年分所得税

<省略>

<2>昭和63年分所得税

<省略>

<3>平成元年分所得税

<省略>

<4>過少申告加算税(昭和62年分から平成元年分まで)

<省略>

別表一の(二) [原告上野彰子関係]

<1>昭和62年分所得税

<省略>

<2>昭和63年分所得税

<省略>

<3>平成元年分所得税

<省略>

<4>過少申告加算税(昭和62年分から平成元年分まで)

<省略>

別表一の(三) [原告岩永頴子関係]

<1>昭和62年分所得税

<省略>

<2>昭和63年分所得税

<省略>

<3>平成元年分所得税

<省略>

<4>過少申告加算税(昭和62年分から平成元年分まで)

<省略>

別表二 収入金額について 法人 給料 賃借料の配分について

実体法と税法計算によるものとの比較

<省略>

上野商事損益計算書

昭和61年11月―昭和62年10月

<省略>

法人税等申告額明細

<省略>

別表三の(一)

備考 昭和61年11月―昭和62年10月期

<省略>

家賃増額分は先づ法人の所得金額から減算し、残額は給料計

上額から減算する以外に方法がない。

法人の所得金額から減算する額 3,270,586

給料から減算する額

13,046,578-3,270,586=9,775,992

円未満は切捨て

よって給料額は3,430,000となる。

各人別給料は、上野千津子 1,560,000

上野彰子 935,000

岩永頴子 935,000

別表四 法人が介在しない場合と更正の場合の税額比較表

<省略>

別表四の(二) 平均管理料割合対比表

<省略>

別表五の(一)

<省略>

別表五の(二) 転貸料と上野商事より受取った賃貸料・給与・配当等金額との差額

<省略>

別表六の(一)

<省略>

上野千津子の法人が介在した場合の<1>不動産収入の上段カッコ書きの数字は上野商事以外からの不動産収入である

別表六の(二)

<省略>

上野千津子の法人が介在した場合の<1>不動産収入の上段カッコ書きの数字は上野商事以外からの不動産収入である

別表六の(三)

<省略>

上野千津子の法人が介在した場合の<1>不動産収入の上段カッコ書きの数字は上野商事以外からの不動産収入である

別表六の(四) 有限会社上野商事所得金額及び納付法人税額

<省略>

○ 平成一〇年九月七日付け上告理由書記載の上告理由

第十点 本件に於いては、同法の解釈について充分な審理がなされていない。

そのため、被上告人の不合理な二重課税を是認する判断をしたもので、理由に食い違いがあり、民事訴訟法 第三一二条 二項 六号 に違反する。その違背は、判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、(一) 本件更正処分に於いては、被上告人自身が、同法の趣旨を全く理解していない。同法は、法律上の効果とは関係なく、税法上の計算のみに於いて、正常な行為・計算に引き直して課税をやり直すものである。然るに、本件に於いて正常な行為とは何かについて、全く審理がなされていないのは異常である。

(二) 本件に於いて正常な行為というのは、被上告人が、上告人等が法人上野商事を利用して、不当な所得を減少したと判断したのであるから、法人を介在させないで、上告人等が直接賃借人に賃貸したものとして、計算をやり直して、課税をし直せばよい事である。そして之が客観的に合理的な方法であり、しかも、課税技術上も最も簡単である。即ち、その方法は次の通りである。上告人等に対しては、不動産所得のみを課税し、給与所得・配当所得は取り消す。法人についても法人税を取り消す。しかし之は、税法上の計算のみで行うのであるから、実体法とは何ら関係ない。この処分だけで充分であり最も合理的である。この方法は、法人格否認に類似しているが、法人格否認そのものではない。法人格否認の方法により、擬制して課税を行うものである。この方法で行えば単純で判り易く、しかも合理的である。

被上告人は、同法の趣旨を全く理解していないため、実体法による計算と税法上の計算を混同して、まわりくどい課税を行ったのである。即ち、不正確・不合理な平均管理料等という、元来、白色申告者に適用される方法を用いて、上告人等に不動産所得の課税をしたのである。

(三) この様な不合理な課税を是認した原審の判断は、正常な行為・計算について審理を尽くさず、その結果、被上告人の不合理な課税をそのまま是認したものであり、民事訴訟法 三一二条 二項 六号理由に食い違いがある に該当する。

二、(一) 次に同法は第一項に於いて、「同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には、その……社員である居住者……の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、……その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の……(確定申告書の記載事項)に掲げる金額を計算する事ができる」と規定しているので、否認されるのは同族会社の行為又は計算であって、社員(又は株主)である居住者の行為計算ではない。この事は、次の(二)の事項から考えてもその様に解されるべきである。

(二)(1) 同法は創設当時の規定では、「法人とその株主等又はその特殊関係者との間の行為」となっていた箇所が、現行法では「法人の行為・計算」と改められた。之は、最初は法人と個人相互の行為が夫々否認の対象となっていたものが、法人の一方的行為のみが対象となった事に、改められたものと理解される。

即ち、法人の合理性、経済性の基準を、相手方である個人の行為に適用する事が誤っていると判明したために、変更されたと理解されるのである。即ち、法人の行為に経済的合理性がない場合にのみ法人の行為・計算が否認され、その結果、個人も同法の課税対象となるものと、改められたと解されるのである。

(2) そもそも法人は、合理的経済人として行動するのに対して、自然人である個人は、様々な人間模様の中で取引をするので、経済的合理性で割り切れない場合が多いのである。自己の経営する法人、或いは友人親子関係に対しては、低い賃料で貸す事はやむを得ない事であり、之が一般的な取引行為である。

(3) 又課税実務上も、個人が法人に無償で土地を使用させていた場合は、個人に何ら所得税の課税がなされない

(4) 又同族会社の行為・計算について、所得税法 一五七条 と、法人税法 一三二条 がいずれも「同族会社の行為・計算」という文言を使用している。そしてこの場合、法人税にあっては、同族会社が合理的経済人の営利法人として、通常行われない行為又は計算により、課税要件の充足を回避し、法人税を不当に減少した場合に、之を否認するという論理を採用している。従って法人税と所得税の整合性を考慮した場合、所得税法に於いては、同族会社の経済的合理性のある行為が否認されるという論理は、文理解釈上違和感がある。(中央大学教授 大渕博義 税理九年八月号)

(三)(1) 右(二)から判断すると、法人が不合理な行為をした場合に、法人の行為・計算が否認され、その結果個人も同法の適用の対象となると解するのが、最も法の趣旨に合致する。これは、同族会社に不合理な行為があり隠れた利益がある場合に於いて、之を摘出するのが本来の目的であった事からも伺える事である。従って、法人の行為に不合理性がない本件の如き事例に、同法を適用するのは不向きであり、之をそのまま適用すると、かえって二重課税等の不合理が生じる。

(2) 以上であるから、原審が、自然人である上告人等の行為が不合理・不自然である場合に、同法が適用できるとするのは、同法を誤って解釈しているものである。即ち、理由に食い違いがあるに相当する。

(3) 本件の場合、上告人等より、通常より低額な賃料で本件A・B・C建物を借受け、より多くの利益を得て上告人等により多くの給料・配当等の支払をしょうとした上野商事には、経済的合理性があるので、同法の適用対象とする事は違法である。

(四) 又原審が、上告人等の行為を、通常の経済人の行為として不合理・不自然であると判断したのは、経験則上重大な誤りがある。即ち、上野商事が低い賃料で賃借した事には経済的合理性がある。又上告人等が、上野商事に低い賃料で貸したとしても、その代償として高額な報酬・配当を受取っているのであり、上告人等と上野商事の間の取引を全体としてみるならば、上告人等は通常の賃貸料に相当する金額を受取っているものであり又本来賃貸料で受取るべき金額を、報酬・配当等で受取った場合には、その分は、賃貸料で受取るよりも節税(不当に減少させるものではない)できるので、より経済的合理性がある。

この様に原審が、経験則上からみて事実と相違する判断をしたのは、民事訴訟法 三一二条 二項 六号 理由に食い違いがある に該当する。

三、(一) 次に同法条項中、所得税を不当に減少させたか否かについては、第八点で述べた様に、正常な行為・計算でやり直した、所謂法人不介在の場合の税額と、申告税額を比較した 別表七 を参考迄に作成した。

(二) 申告税額と法人不介在の場合の税額には、或る程度の差がみられるが、之は安い賃借料の代償として受取った給料には給与所得控除があるため、収入金額に比較して税額が減少するためである。なお、不当に減少したか否かについては、上野商事の法人税額も考慮すべきである。また増額分について、上野商事の法人税を差引くと、増加額は不当と迄は言えない額である。この申告税額に、上野商事該当年度に納付した法人税額を加える意味は、上告人等が法人を介在させたために発生した税額であるから、上告人等の申告税額と密接な関連を有し、上告人等の申告税額と同一視すべきものであるからである。

原審は、控訴審に於いては、税額の不当に減少したか否かについては何を基準に判断したか明らかにしていないが、之は一審が採用した更正税額によったものと考えられるが、然しながら第八点で述べた様に、更正税額は架空所得に基いて算定した税額であるから、所得税が不当に減少したか否かを判断する対象としては不適当である。

従って、税額が不当に減少したか否かについて審理不尽、この結果、民事訴訟法 三一二条 二項 六号 理由付せず に該当する。

第十一点 原審が上告人岩永頴子(以下岩永という)について上野商事は岩永が所有するC建物について管理や修理を行っていないとする判断は経験則上重大な事実誤認があり之は審理不尽の結果であり民訴法三百十二條二項六号理由に食い違いがあるに該当する。

一、原審は第一審判決文P824行目以下に於いて上野商事は本件建物の管理や修理等を行わず転借人の有限会社三友商事にまかせていたと判断しているが之は経験則上重大な事実誤認である。

二(一) 経験則上転貸借契約が行なわれている場合には原則として転借人(本件では上野商事)が賃借人に対して賃貸業務及びその管理業務を行うのが原則である。

従って賃借人が管理業務を行う等という事はあり得ず仮に賃借人が若干の修理業務を行っていたとしても之は賃借に必要な最小限の行為であって之を以て賃借人が管理業務を行っていたとするのは不動産管理業務についての経験則上の判断を誤っているものである。

(二) 又本件C建物については次の事実からも上野商事が管理業務を行っていたという事は明白である。

(1) 賃借人である三友商事は、賃貸借契約を岩永ではなく上野商事とてい結している。(乙八号証別添一)

(2) 賃借人三友商事は、家賃を岩永穎子ではなく上野商事へ持参していた(乙八号証別添八)

(3) 判決文てん附別表九によれば上野商事からC建物についても平成元年分二三一、七五〇円の修繕費がある。

(4) 平成元年分には上野商事より三浦商事(三友商事の親会社)の会長の葬式に二万円の香典が支給されている。(甲十一号証の四四枚目左側交際接待費らん上から三行目)

(三) 之等の事実からみるならば賃貸借契約は三友商事と上野商事との間にてい結され種々の管理業務も上野商事が行っていた事は明らかである。なお賃借人三友達商事が若干の修理業務を行っていたとしても之は賃借人として必要な最小限の修繕業務であり、之を以て上野商事が全く修繕業務を行っていない又管理業務を行わないとするのは、不動産管理業務が何であるかを解しない判断であり

(四) 又本件更正に於いては平均管理料割合を用いて更正をしている。

之は個別の建物について管理割合を具体的に算定する事が困難であるために平均管理料割合を用いているのであるから、C建物の管理割合が少いとみられる場合にも平均管理料割合を用いて賃貸料を計算すべきではないかと考えられるのにその点原審の判断は之を無視しており管理料割合についてもその意義を誤っている。

(五) 原審のこの判断は経験則に違反する判断であり民訴法三百十二條二項六号理由に食い違いがあるに該当しその違反は上告人岩永頴子の判決に影響を及ぼす事明らかである。

第十二点 実費負担相当額について原審の判断には、審理不尽その結果経験則違反の事実誤認があり民訴法三一二条二項六号理由に食い違いがありに該当する。之は判決に影響を及ぼす事明らかである。

一、右についての問題点は判決文別表九に記載されている上野商事の実費負担相当額については、被上告人の認定額が実際の支出額より過少であるので之を増額して適正にすべきであるという主張である。

本件では賃貸会社である上野商事を単なる管理会社としての地位に置き換えて、各上告人の所得金額並びに所得税額を更正したものであるから賃貸会社上野商事が上告人等各自の建物のために支出等していた経費、原判決の言葉を以てすれば(P59)修繕費等の額(共用電気料修繕費等減価償却費及び雑費)は上告人各人に帰属されなければならないものである

一審判決はP95で判決てん附別表九で算定した金額以外に上野商事が本件建物のために支出した費用はないとするが上野商事が上告人各自の建物のために支払等した経費は、甲第九号証の一・二(上野商事の減価償却明細表)及び甲第十一号証の一・二・三(上野商事の帳簿)で明らかな通りかなりの額が認定もれである。

税務会計上の経験則によれば、この様な経費は帳簿或いは領収書等の証拠により確認するのが原則である。そして被上告人が算定した実費負担相当額を上野商事の帳簿により算定したものであるが見落しがかなりあるので計算をやり直せと上告人等が原審で主張したのである。之に対して上告人の提出した帳簿書類等の証拠資料について何ら審理をせず被上告人の言い分をそのまま信用したのは審理不尽その結果理由に食い違いを生じたものであり民訴法三一二条二項六号に該当する。

第十三点 被上告人の本件更正処分に於いては、法人税と所得税の二重課税又所得税についても給与所得と不動産所得の二重課税があるが之を是認した原審の判断は憲法三十条に違反する、判断をしたといわなければならない。憲法三十条には国民は法律の定める所により納税の義務を負ふと定められている。之は原則として実体法上の法形式により申告すればよいという事である。上告人等は実体法上に基いて、申告したのであるが被上告人は之を取消す事なく同法を適用して独自の計算により課税を行った、隋って上告人等は実体法による課税と同法の適用による被上告人の裁量による課税の両方の課税を受けた。即ち二重課税を受けた。詳細は第一点でのべた違りである。同法が被上告人の云う様に実体法による課税を取消すのではなくて、別に課税できるというのであれば同法を適用した場合には論理必然的に常に二重課税が発生する。隋って同法を適用された場合には実体法による課税の外に税務署長の裁量による課税を受ける事による、税務署長の裁量による課税は法律によらない課税と同一であるから上告人等は法律の定めによらない課税をうけた事になる。即ち上告人等は法律によらない納税義務を負ふ事になった。即ち被上告人の本件更正処分は憲法三十条に違反する。之を是認した原審の判断は憲法三十条に違反する。

以上

別表七 法人が介在しない場合と申告額の税額比較表

<省略>

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