最高裁判所第三小法廷 平成10年(行ヒ)85号 判決
上告人
パルファン ニナ リッチ
右代表者
ジャック ジョラン
右訴訟代理人弁護士
森内憲隆
近藤純一
古賀貴泰
同弁理士
照嶋美智子
被上告人
マドラス株式会社
右代表者代表取締役
岩田栄七
右訴訟代理人弁理士
野原利雄
主文
原判決を破棄する。
特許庁が平成四年審判第一二五九九号事件について平成九年二月二四日にした審決を取り消す。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人森内憲隆、同近藤純一、同古賀貴泰、同照嶋美智子の上告受理申立て理由について
一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
1 被上告人は、昭和六一年五月二一日、「レールデュタン」の片仮名文字を横書きした商標につき、指定商品を商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの)別表第二一類「装身具、その他本類に属する商品」として、商標登録出願をし、右商標は、昭和六三年一二月一九日、登録された(登録第二〇九九六九三号。以下「本件登録商標」という。)。
2 上告人は、指定商品を同別表第四類「香料類、その他本類に属する商品」とする「L'AIR DU TEMPS」の欧文字を横書きした商標(登録第六六一四二四号。以下「引用商標」という。)についての商標権者である。上告人は、香水に「L'Air du Temps」及び「レール・デュ・タン」の商標(以下、併せて「本件各使用商標」という。)並びに引用商標を使用しているところ、本件各使用商標及び引用商標は、本件登録商標の登録出願当時、我が国において香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するものとして著名であった。
3 上告人は、平成四年七月三日、商標法四条一項一五号に違反することを理由として、本件登録商標の指定商品中「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」につき本件商標登録を無効にすることについて、審判請求をした(平成四年審判第一二五九九号)。
4 特許庁は、平成九年二月二四日、上告人の審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をした。
二 本件は、上告人が本件審決の取消しを請求するものであるところ、原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、上告人の請求を棄却した。
本件登録商標の登録出願当時、本件各使用商標及び引用商標は、我が国において香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するもの(いわゆるペットマーク)として著名であったものの、一般的に周知著名であったとまでは認め難く、また、本件登録商標と引用商標は称呼を同じくするものとはいえないから、商品の出所について混同が生ずるおそれがあるとはいえない。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。
そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
2 本件登録商標は、本件各使用商標のうち「レール・デュ・タン」の商標とは少なくとも称呼において同一であって、外観においても類似しており、しかも、引用商標の表記自体及びその指定商品からみて、引用商標からフランス語読みにより「レールデュタン」の称呼が生ずるものといえるから、本件登録商標は、引用商標とも称呼において同一である。また、本件各使用商標及び引用商標は、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、上告人の香水の一つを表示するものとして著名であり、かつ、独創的な商標である。さらに、本件登録商標の指定商品のうち無効審判請求に係る「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」と香水とは、主として女性の装飾という用途において極めて密接な関連性を有しており、両商品の需要者の相当部分が共通する。以上の事情に照らせば、本件登録商標を「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」に使用するときは、その取引者及び需要者において、右商品が上告人と前記のような緊密な関係にある営業主の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるということができる。なお、本件各使用商標及び引用商標がいわゆるペットマークとして使用されていることは、本件各使用商標等の著名性及び本件各使用商標等と本件登録商標に係る各商品間の密接な関連性に照らせば、前記判断を左右するに足りない。
四 以上のとおり、これと異なる見解の下に上告人の本件審決取消請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上告人の本件審決取消請求はこれを認容すべきものである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)
上告代理人森内憲隆、同近藤純一、同古賀貴泰、同照嶋美智子の上告受理申立て理由
一 総論
原判決は、①相手方の商標登録出願当時である昭和六一年頃において上告受理申立人の日本国内における香水の販売高がシャネル社に次ぐ第二位であって、特に「レール・デュ・タン」、「L'AIR DU TEMPS」との商標を付した香水の売上は上告受理申立人の香水全体の売上の内七割ないし八割を占めていたことを認め、当時において上告受理申立人の「レール・デュ・タン」、「L' AIR DU TEMPS」との商標が我が国において香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者にとって著名であったことを認定したにもかかわらず、②相手方の商標が出所の混同を生じる恐れがないとする原特許庁の審決の判断を維持したものである。
しかしながら、右②の判決は、商標法第四条第一項第一五号の解釈適用を誤ったものであり、また、東京高裁昭和四四年六月一七日判決(判例タイムズ第二三八号二七三頁)、東京高裁平成元年三月一四日判決(無体財産権関係民事・行政裁判例集第二一巻一号一七二頁)及び東京高裁平成八年一二月一二日(判例時報第一五九六号一〇九頁)の各判決にも違反する(なお、この点に関連する最高裁判所の判例はなく、以下高等裁判所の裁判例との相反性に限定して検討する。)。
二 控訴審判決の要旨
東京高等裁判所平成九年(行ケ)第一六四号審決取消請求事件につき、同裁判所が平成一〇年五月二八日に言い渡した判決の要旨は以下の通りである。
1 原裁判所における上告受理申立人の主張
原裁判において、上告受理申立人は、「レールデュタン」の片仮名文字を横書きにした商標で、指定商品を商標法施行令(平成三年政令第二九九号による改正前のもの)に定める商品区分第二一類「装身具、その他本類に属する商品」とする登録第二〇九九六九三号商標(昭和六一年五月二一日登録出願、昭和六三年一二月一九日設定登録。以下「本件商標」という。)の登録無効審判請求を棄却した審決(以下「本件審決」という。)の取消を求めたが、その根拠とするところは以下のとおりである。
すなわち、本件審決は「L' AIR DU TEMPS」の欧文字を横書きしており、上告受理申立人により、昭和三八年一一月三〇日に登録出願、第四類「香水類、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和三九年一二月一二日に設定登録され、その後、三回にわたって商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続する登録第六六一四二四号商標(以下「引用商標」という。)につき、その周知著名性を否定し、本件商標をその指定商品中「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」について使用しても、商品の出所について混同を生ずるおそれはないと認定・判断しているが、これは、その周知著名性及び誤認混同のおそれの認定を誤ったものである。
具体的には、①引用商標は、我が国の化粧品市場において昭和六一年当時すでに、原告の商品を表すものとして極めて著名となっており、かつ、引用商標の指定商品である第四類「香水類、その他本類に属する商品」に含まれる商品と、本件商標の指定商品である第二一類「装身具、その他本類に属する商品」に含まれる商品とは互いに強い関連性を有している以上、化粧品と強い関連性を有する第二一類の商品に対して、極めて著名な引用商標と呼称を同じくする本件商標を付した場合には、それらの商品が原告の業務に係る商品と混同を生じることは必至であり、また、②本件商標の「レールデュタン」という言葉の選択は引用商標と無関係になされたものではなく、被告は、その商品に外国語の商標を多く使用しているので、被告の製品は外国からの輸入品かライセンス商品のような印象を受ける状況にあることから、被告が引用商標と同一の商標を使用すれば、原告の営業との間に混同を生じることは必至である以上、本件審決の判断にはその周知性及び誤認混同のおそれに関する認定につき誤りが存する旨主張した。
2 原裁判所における判断
原裁判所における右1記載の上告受理申立人主張の審決取消理由に対し、原裁判所は、「昭和六一年頃の日本国内における原告(上告受理申立人)の香水の販売高はシャネルに続き二番目であったが、『レール・デュ・タン』は原告の香水を代表するものであって、原告の香水の売上高の七割ないし八割を占めていたことが認められる」などの諸事実に鑑みると、「本件商標の出願時である昭和六一年当時、我が国においては、香水を取り扱う業者や高級な香水に関心をもつ需要者には、『レール・デュ・タン』、『L'air du Temps』又は「L'AIR DU TEMPS』は原告の香水のうちの一つを表示するものとして著名であったものと推認される」としながら、第一に、「『レール・デュ・タン』、『L'air du Temps』又は『L' AIR DU TEMPS』は原告の香水のうちの特定のものを表示する商標であるうえ、これらの商標が、原告の香水を表示するものとして一般的に周知著名であったとまでは認められないことからすると、本件商標をその指定商品中『化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物』について使用した場合に、これらに接する取引者、需要者が、原告又は原告と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとは認められない。」とし(「判示第一」)、第二に、「我が国の香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、『レール・デュ・タン』、『L'air du Temps』又は『L' AIR DU TEMPS』の商標が、原告の香水のうちの一つを表示するものとして著名であったものと推認されるが、化粧品市場において、昭和六一年当時既に一般的に極めて著名であったとまでは認められ」ない以上、化粧品と強い関連性を有する第二一類の商品に対して、極めて著名な引用商標と呼称を同じくする本件商標を付した場合には、それらの商品が原告の業務に係る商品と混同を生じることは必至である旨の主張は採用し得ないとし(「判示第二」)、第三に、原告の商標である「レール・デュ・タン」、「L'air du Temps」又は「L' AIR DU TEMPS」の一般的な周知著名性を認めがたいことに照らすと、たとえ、「レールデュタン」という言葉の選択は引用商標と無関係になされたものでなく、むしろ、被告が、引用商標の存在を知って、本件商標を採択、出願したことは明らかであり、また、被告がその商品に外国の商標を多く使用していたとしても、「被告が本件商標をその指定商品中『化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物』について使用した場合に、原告又は原告と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとまでは認められ」ないとした(判示第三)。
三 商標法第四条第一項第一五号に関する判例
商標法第四条第一項第一五号の解釈につき、本件と関連を有する高等裁判所裁判例は以下の通りである。
1 東京高裁昭和四四年六月一七日判決(判例タイムズ第二三八号二七三頁)要旨
同判決は、時計等を指定商品とする商標とライターを指定商品とする商標(以下「出願商標」という。)間における出所混同の可能性につき、①時計等を指定商品とする原告の登録商標「オメガ」は広く取引者及び需要者間に周知著名であった事実が認められること、また、②原告の商標の指定商品である時計と出願商標の指定商品のうちライターとは、出願商標の登録出願当時、その形状、製法、使用目的、製造者が相違し並びにその数量は、さほど多くなかったとはいえ、取引の実際において、しばしば同一店舗で取り扱われるものであるという程度において関連性を有している以上、当該商標を商品ライターに使用するときは、取引者、需要者間において、時計についてオメガを使用する者の製造、販売にかかる商標であるかのように誤信し、商品の出所について混同を生ずるおそれがると認められる旨判示している。
2 東京高裁平成元年三月一四日判決(無体財産権関係民事・行政裁判例集第二一巻一号一七二頁)要旨
原告は、昭和四六年九月六日、「PIAGE」の欧文字と「ピアゼ」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、第一七類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品とする商標について登録出願(昭和四六年商標登録願第九六八一五号)を行ったが、これに対し、商標登録異議申立てがなされ、昭和五八年一月一三日拒絶審査を受けたため、原告は、同年三月二二日、これを不服として審判の請求をし、さらに、その後特許庁による審判請求を不成立とする審決の取消を求めたのが本件である。
この件につき、東京高裁は、まず、引用商標の周知著名性につき、「原告は、商標法第四条第一項第一五号が適用されるためには、引用商標が本願商標の登録出願日である昭和四六年九月六日当時、少なくとも本願商標の指定商品『被服、布製身回品、寝具類』の需要者、すなわち全国民に知れわたっていることが必要である旨主張するが、問題とされるべきは、本願商標をその指定商品中の被服等に使用した場合に、引用商標を付した時計の需要者が右被服等がピアジェ社又は同社と経済的もしくは組織的に何らかの関係がある者の業務にかかる商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあるか否かということであるから、被服等の需要者について出所混同を論ずる原告の右主張は、その前提において誤っており、採用することができない。」とする。
また、右判決は、時計と被服間の商品の出所混同可能性につき、「『時計』は、時刻を表示し又は測定するという実用的な面と同時に、装飾のために身につける装身具としての面を持ち合わせており、時計等を衣服等に合わせて、あるいは衣服等に時計を合わせて用いられるものであって、しかも、本願商標の指定商品中の被服等とは当然高級品も含むものであるから、時計と本願商標の指定商品中の被服等とは使用状態、使用目的等において密接な関係を有していると解するのが相当であ」るとし、さらに「原告は、時計等と被服等が密接な関係を有するものといい得るためには、商品『被服』と『時計』とが、少なくとも同一製造所での製造、同一流通経路の利用あるいは同一販売店での取扱いなどの共通要素を備えておる等の関係がなければならない旨主張するが、原告の主張の場合に限らず、被服と時計のように、コーディネートの対象となる商品同士、換言すれば、同一の用途に使用されるような商品同士であれば、原告主張のような共通要素がなくとも出所の混同を生ずるおそれのあることは否定できないのであるから、原告の右主張は採用することができない。」としている。
3 東京高裁平成八年一二月一二日判決(判例時報第一五九六号一〇九頁)要旨
イタリー国に所在する靴等の製造販売会社(原告)が、指定商品を被服等とする「TANINO CRISCI」(昭和四八年一二月一三日出願登録)の商標権者を被告として、商標法第四条第一項第一五条違反等を主張して、本件商標の登録の無効審判請求を不成立とした審決の取消を求めた裁判につき、東京高裁は「原告の靴のように小売価格が高い高級靴については、それを購入できる顧客層が限られ、販売量が少なくなることは当然のことであると認められるところ、本件商標の登録査定時はもちろん、本件商標の登録出願時においても『TANINO CRISCI』との商標は、原告の靴製品に使用される商標として高級靴の取引業者及び高級靴を使用する顧客層に属する人々に周知著名となっていた」とした上で、「原告の商標である『TANINO CRISCI』は、本件商標の登録出願時において、原告の靴製品に使用される商標として高級靴の取引者及び需要者に周知著名であったところ、これと同一である本件商標を被服に使用すれば、その被服製品が原告又はその者と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかとその出所について誤認混同されるおそれがあるものと認められる。製品の性質上、取引業者及び顧客層が一部の範囲の者に限られる場合は、そのような取引業者及び顧客層の中で周知著名であるかを判断すべきであり、消費者一般に周知著名であることを要するとする見解は、高級品等の理由で取引業者及び顧客層の限られる製品について出所の混同を放置するに等しく、到底採用できない。」ものとしている。
4 商標法第四条第一項第一五号に関する高裁判決の要点
以上概観した三つの高等裁判所裁判例を総合考慮すると、以下の結論を導くことができる。
すなわち、第一に、商標法第四条第一項第一五号における当該商標の周知著名性を認定するに当たっては、一般的に周知著名であったか否かを問題とするのではなく、当該商品の取引者・需要者(顧客層)にとって周知著名であるかを判断すべきであること、第二に、商品の出所に関する混同のおそれを論ずるにあたっては、同一製造所での製造、同一流通経路の利用あるいは同一販売店での取扱いなどの共通要素を備えている場合は勿論、取引の実際において、しばしば同一店舗で取り扱われるものであるという程度の関連性、または、同一の用途に使用されるような商品同士であるという関連性があれば足りることとなる。
四 本控訴審判決の判例違反
1 そこで翻って本控訴審判決を検討するに、同判決は、第一に、「『レール・デュ・タン』、『L'air du Temps』又は『L' AIR DU TEMPS』は原告の香水のうちの特定のものを表示する商標であるうえ、これらの商標が、原告の香水を表示するものとして一般的に周知著名であったとまでは認められないことからすると、本件商標をその指定商品中『化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物』について使用した場合に、これらに接する取引者、需要者が、原告又は原告と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとは認められない。」(判示第一)としている。しかしながら、これは商品の出所の混同誤認性の判断の前提となる商標の周知著名性に関して、当該商標の一般的周知著名性を要求するものであり、これは前記三記載の各高裁判決の趣旨に明らかに違反するものである。
また、同判決は、引用商標の指定商品と本件商標の指定商品間の前記三記載の関連性の有無を検討することなく、本件商標をその指定商品中「化粧用具、身飾品、頭飾品、かばん類、袋物」について使用した場合にも、これらに接する取引者、需要者が、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとは認められないと結論づけている点で、前記三記載の各判決の趣旨に明らかに違反するものである。
2 また、同判決の「我が国の香水を取り扱う業者や高級な香水に関心を持つ需要者には、『レール・デュ・タン』、『L'air du Temps』又は『L' AIR DU TEMPS』の商標が、原告の香水のうちの一つを表示するものとして著名であったものと推認されるが、化粧品市場において、昭和六一年当時既に一般的に極めて著名であったとまでは認められ」ない以上、化粧品と強い関連性を有する第二一類の商品に対して、極めて著名な引用商標と呼称を同じくする本件商標を付した場合には、それらの商品が原告の業務に係る商品と混同を生じることは必至である旨の主張は採用し得ないとの部分(判示第二)に関しても、一般的周知著名性を要求している点及び商品の出所に関する誤認混同の可能性を引用商標の指定商品と本件商標の指定商品間の前記三記載の関連性の有無を検討することなく否定している点で、前記三記載の各判決に明らかに違反している。
3 さらに、判示第三に関しても、前記2と同様の明らかな判決違反が認められる。
4 なお、前記三記載の各高等裁判所裁判例はいずれも、いわゆる商号商標に関するものであり、この点で、本件とは前提事実を異にする。しかしながら、右の判決はいずれも、商標法第四条第一項第一五号適用の前提となる周知著名性を論ずるに当たっては、商品の取引者・需要者(顧客層)にとって周知著名であるか否かを判断すべきであるとしている以上、当該商標がいわゆる商号商標か否かにより周知著名性の判断は左右されえないことになる。換言すると、判断の対象母体が一定の取引者・需要者(顧客層)に限定されているからこそ、当該商品の製造者の商号を離れて商品の商標自体が周知性・著名性を有することは多々あるのであって、そうであれば、当該商標が商号商標か否かにより周知著名性の判断は左右されえないと言える。したがって、右の高等裁判所裁判例と原裁判所の判断とは、前提事実を異にするものとして区別されるべきでないことは明らかである。
五 結論
以上、東京高等裁判所平成九年(行ケ)第一六四号審決取消請求事件につき、同裁判所が平成一〇年五月二八日に言い渡した判決には、商標法第四条第一項第一五号の解釈適用につき判例違反が存するので、上告受理を申し立てる。