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最高裁判所第三小法廷 平成11年(あ)1411号 判決 2002年6月04日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

1  弁護人一木明及び同福田哲夫の上告趣意第1について

所論は、酒類販売業について免許制を定めた酒税法九条一項が憲法二二条一項に違反するというのである。

職業の許可制は、職業の自由に対する規制措置のうち、職業選択の自由そのものに制約を課する強力な制限であるから、その憲法二二条一項適合性を肯定するためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)。他方、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねられるべき性質のものであり、裁判所は、基本的にその裁量的判断を尊重すべきである(最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照)。そうすると、酒税法による酒類販売業の免許制規制についても、その必要性と合理性についての立法府の判断が、著しく不合理であって、上記の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するものでない限り、憲法二二条一項に違反しないと解される。

酒類販売業免許制は、昭和一三年に採用された当時、酒税の国税収入全体に占める割合が高く、酒類の販売代金に占める酒税の比率も高率であったこと等に照らして、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために、税負担の消費者への円滑な転嫁を実現する目的で実施されたものであって、その必要性と合理性があったということができる。その後の社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合が相対的に低下するに至ったことから、免許制を存続させることの必要性及び合理性については、議論があるところであり、また、近時、酒類販売業に関するいわゆる規制緩和論が高まり、これを受けて、免許制の運用が大幅に緩和されるに至っていることも、明らかである。しかしながら、本件当時(平成二年六月一日から平成五年五月一八日まで)における酒税の国税収入全体に占める割合、その収入総額、販売代金中の酒税比率等の諸状況に加え、景気の動向の影響を比較的受けにくく、安定した税収をもたらすという酒税の性質等に照らすと、酒税の重要性が低下したとはいえ、酒類販売業免許制自体を維持することの合理性が失われるには至っていなかったと考えられる。したがって、本件当時において、酒類販売業免許制自体を存続させていたことが、著しく不合理であって、前記のような立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するものとまでは断定し難いところであり、酒類販売業免許制を定めた酒税法九条一項の規定が憲法二二条一項に違反するものということはできない。

以上は、当裁判所の判例(最高裁昭和四五年(あ)第二三号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五八六頁、前記最高裁昭和五〇年四月三〇日大法廷判決、前記最高裁昭和六〇年三月二七日大法廷判決)の趣旨に徴して明らかなところというべきであり(最高裁昭和六三年(行ツ)第五六号平成四年一二月一五日号第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁、最高裁平成五年(あ)第一一三五号同一〇年三月二四日第三小法廷判決・刑集五二巻二号一五〇頁参照)、所論は、いずれも理由がない。

2  弁護人一木明及び同福田哲夫のその余の上告趣意について

所論は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当たらない。

よって、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・濱田邦夫、裁判官・金谷利廣、裁判官・奥田昌道、裁判官・上田豊三)

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