最高裁判所第三小法廷 平成11年(行ヒ)206号 判決 2004年2月24日
上告人
鹿児島県監査委員 小島政利
同訴訟代理人弁護士
和田久
同訴訟復代理人弁護士
蓑毛長史
同指定代理人
田口昇
德重惠美子
被上告人
X1
同
X2
上記両名訴訟代理人弁護士
蔵元淳
主文
1 原判決中第1審判決別紙一文書目録の(三)の部分のうち鹿児島県職員以外の出席者に関する部分を破棄する。
2 前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人和田久の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、被上告人らが、旧鹿児島県情報公開条例(昭和63年鹿児島県条例第4号。平成12年鹿児島県条例第113号による全部改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき、本件条例所定の実施機関である上告人に対し公文書の開示を請求したところ、上告人から公文書の一部非開示処分を受けたため、その取消しを求めている事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 鹿児島県(以下「県」という。)の住民である被上告人らは、本件条例に基づき、上告人に対し、平成5年度、同6年度及び同7年度に鹿児島県監査委員事務局が執行した食糧費の支出に係る支出負担行為・支出命令票(以下「本件支出負担行為・支出命令票」という。)及び請求書(以下「本件請求書」という。)の開示を請求したところ、上告人は、平成10年3月24日付けで本件条例8条2号、3号及び8号所定の非開示情報が記載されているとして上記各文書の一部非開示処分(以下「本件処分」という。)をした。
(2) 本件支出負担行為・支出命令票には、担当課、年度、歳出科目、金額、懇談等の相手方等出席者が識別され得るもの、債権者(飲食店等)の住所、氏名、支払先金融機関及び口座番号、支出の内容等が記載され、本件請求書には、飲食日時、請求の内訳(料理や飲物等の品名、数量、単価、奉仕料等)、請求額、債権者の住所、氏名、印、支払先金融機関及び口座番号等が記載されている。
(3) 本件条例8条は、「実施機関は、開示の請求に係る公文書等に次の各号のいずれかに該当する情報が記載されているときは、当該公文書等の開示をしないことができる。」と定めており、その2号には、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。ア 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報 イ 実施機関が公表を目的として作成し、又は取得した情報 ウ 法令等の規定による許可、届出その他これらに類する行為に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの」と規定されている。
3 原審は、上記事実関係等の下で、第1審判決別紙一文書目録の(三)の部分(本件支出負担行為・支出命令票及び本件請求書のうち、懇談等の相手方等出席者が識別され得る部分が記載されている部分。以下「本件非開示部分」という。)について、次のとおり判断した。
本件非開示部分に係る情報は、懇談会等の出席者である特定の個人が識別され得るものであって、本件条例8条2号本文所定の情報に該当するが、食糧費が行政事務又は事業の執行上直接的に費消されるものであり、かつ、本件において開示を求められている各文書からの情報では具体的な懇談の内容は明らかにはならず、出席者個人のプライバシー等の権利利益の侵害が生じる可能性が少ないことなどからすれば、出席者が県職員、県職員以外の公務員、公務員以外の者のいずれの場合であっても、社会通念上公表されることを予定して作成され、又は取得された情報と認められるので、同号ただし書イ所定の情報に当たり、同号所定の非開示情報には該当しない。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 本件条例8条2号本文にいう「個人に関する情報」は、事業を営む個人の当該事業に関する情報が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから、個人にかかわりのある情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものは、原則として、同号所定の非開示情報に該当するというべきである。
もっとも、同条3号が法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報及び事業を営む個人の当該事業に関する情報について、個人に関する情報と異なる類型の情報として非開示事由を規定していることに照らせば、本件条例においては、法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人の職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、専ら法人等に関する情報としての非開示事由が規定されていると解するのが相当であり、同条2号所定の非開示情報には該当しないというべきである。また、本件条例の趣旨、目的に照らせば、公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、公務員個人が同号本文にいう「個人」に当たることを理由に同号所定の非開示情報に該当するとはいえないと解するのが相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第54号同15年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10号登載予定参照)。
(2) これを本件についてみると、本件支出負担行為・支出命令票には懇談等の相手方等出席者が識別され得るものが記載されているというのであるから、本件非開示部分に係る情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得るものである。しかしながら、本件非開示部分に係る懇談会等は、県の食糧費が支出されたものであって、いずれも県の行政事務又は事業の施行のために行われたものとみることができるものであるから、その懇談会等に出席した県職員は、その公務の遂行として出席したものということができる。そして、本件非開示部分には当該県職員個人の私事に関する情報が含まれているものとは認められないから、本件非開示部分のうち県職員に関する部分に係る情報は、本件条例8条2号所定の非開示情報に該当しないというべきである。
本件非開示部分に係る懇談会等の出席者に県職員以外の公務員が含まれているかどうかは原審によって確定されていないが、同懇談会等が食糧費を支出して開催されたものであることからすると、出席者に県職員以外の公務員が含まれていた蓋然性は高いと考えられる。そして、出席者が県職員以外の公務員である場合においても、当該出席者がその公務の遂行として懇談会等に出席したのであれば、その出席者に関する情報は、同号所定の非開示情報に該当しないというべきである。これに対し、本件非開示部分に係る懇談会等の出席者が公務員以外の者である場合には、その出席した行為が法人等の行為そのものと評価される場合を除き、その出席者に関する情報は、原則として、同号所定の非開示情報に該当するというべきである。
(3) ところで、本件条例8条2号ただし書は、同号所定の非開示情報から除外される情報を規定しているが、同号ただし書イの「実施機関が公表を目的として作成し、又は取得した情報」とは、本件条例の目的、趣旨からすれば、実施機関が公表することを直接の目的として作成し、又は取得した情報に限られず、公表することが本来予定されているものをも含むものと解される。しかしながら、本件非開示部分に係る懇談会等の県職員以外の出席者に関する情報のすべてにつき、食糧費が行政事務又は事業の執行上直接的に費消されるものであり、かつ、本件において開示を求められている各文書からの情報では具体的な懇談の内容は明らかにはならず、出席者個人のプライバシー等の権利利益の侵害が生じる可能性が少ないことなどを理由に、公表することが本来予定されていたということは困難であり、また、これらの情報が同号ただし書ア又はウ所定の情報に該当すると認めることもできないから、本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報につき、同号ただし書所定の情報に当たることを理由として同号所定の非開示情報に該当しないということはできない。
(4) そうすると、本件非開示部分のうち県職員に関する部分に係る情報は本件条例8条2号所定の非開示情報に該当しないというべきであるが、本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報については、当該出席者が公務員であってその公務の遂行として懇談会等に出席したものであるのかどうか、当該出席者が公務員でない場合には、懇談会等に出席した行為が法人等の行為そのものと評価されるものであるのかどうかについて事実を確定しなければ、同号所定の非開示情報該当性について判断することはできないというべきである。
5 以上によれば、原審の判断中、本件非開示部分のうち県職員に関する部分に係る情報が本件条例8条2号所定の非開示情報に該当しないとした部分は結論において是認することができるが、本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報のすべてが同号所定の非開示情報に該当しないとした部分には法令の解釈適用を誤った違法がある。原判決は、本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報は同条8号所定の非開示情報にも該当するとは認められないとして、本件処分中上記情報に係る部分を非開示とした部分を違法として取り消した第1審判決を是認して上告人の控訴を棄却しているから、原審の判断の上記違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこれと同旨をいう限度で理由があり、原判決のうち上記判断に係る部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところに従って、本件非開示部分のうち県職員以外の出席者に関する部分に係る情報が同条2号所定の非開示情報に該当するかどうかにつき更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。
なお、本件処分のうち、第1審判決別紙一文書目録の(一)の部分につき同条3号により非開示とした部分に関する上告人の上告は、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 濱田邦夫 藤田宙靖)