最高裁判所第三小法廷 平成12年(あ)823号 判決 2004年6月15日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人齋藤裕一、同三浦繁樹の上告趣意のうち、死刑に関して憲法13条、36条、31条違反をいう点は、当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁、最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁、最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)に徴して理由がない。また、同上告趣意のうち、違法な別件逮捕、勾留に関して憲法違反をいう点は、実質において単なる法令違反の主張であり、自白の任意性に関して憲法違反をいう点は、自白の任意性を肯定した原判断は相当であると認められるから前提を欠き、その余は、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお、所論にかんがみ記録を調査しても、刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
付言すると、本件は、(1)窃盗の共犯者であった仲間が、被告人の下から現金を盗んで逃走してしまい、返済の要求にも容易に応じなかったことなどから、裏切られたとしてその殺害を企て、人気のない路上に誘い出して殺害し、(2)学校帰りの女子高生に声をかけて知り合い、共に遊園地に行くなどして交際したが、その後被告人の人柄を知った同女が交際を避けるようになったため、心変わりされた腹立たしさとなお交際を求めたい気持ちが入り混じった感情から、無言電話やいたずら電話でいやがらせをしたり、遊園地で同女のために使った金の返済を要求したりして、執拗に同女につきまとっていたところ、ますます疎まれて同女とその家族から強く交際を拒まれ、やがて110番通報されて同女方から逃げ帰るまでの事態となったため、怒りを募らせて同一家の殺害を企て、仲間と共謀の上同女方を襲い、被告人において同女とその母親及び妹の3名を殺害し、(3)上記(2)の共犯者であった仲間が、被告人から離反しようとしたため、口封じのためその殺害を企て、たまたま目に留ったマンションの人気のない階段踊り場に誘い込んで殺害し、(4)10回にわたって、ひったくりや事務所荒らしの窃盗に及んだという事案である。各殺人の犯行についてみると、被害者の言動により被告人がその心情を害されることがそれぞれ多少はあったにしても、被告人が殺害を決意し、実行していく過程は、誠に短絡的かつ身勝手であって、動機に酌量の余地はない。殺害は、いずれの場合も、あらかじめ凶器として殺傷能力の高い鋭利な刃物を複数準備して計画的に行われており、攻撃の態様は、確定的な殺意をもって、各被害者に対し、身体の枢要部をこれらの刃物でめった刺しにするというものであり、甚だ執拗かつ残虐である。殺害された被害者は合計5名に及んでおり、生じた結果は極めて重大である。被告人は、わずか8ヶ月の間に相次いで各殺人の犯行を敢行していったものであって、安易に殺人に及ぶ傾向が顕著に認められる。これらの犯行が社会に与えた衝撃は大きく、遺族の被害感情も厳しい。さらに、被告人は、定職に就かず、常習的に窃盗に及ぶなど、日ごろの生活態度も芳しいものではなかった。
以上のような犯情に照らすと、本件各犯行についての被告人の刑事責任は、極めて重大であるといわざるを得ない。そうしてみると、被告人が本件各犯行当時いまだ若年であり、罰金刑以外に前科はなく、被害者らを殺害したことについては一応反省の弁を述べていることなど、被告人のために酌むべき情状を考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって、刑訴法414条、396条、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)