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最高裁判所第三小法廷 平成13年(受)1759号 判決 2004年4月27日

上告人

日鉄鉱業株式会社

同代表者代表取締役

高橋三郎

同訴訟代理人弁護士

山口定男

関孝友

三浦啓作

松崎隆

伊達健太郎

被上告人

池田ノブ子

外51名

上記52名訴訟代理人弁護士

馬奈木昭雄

小宮学

安部尚志

安部千春

荒牧啓一

有馬毅

伊黒忠昭

池永満

諌山博

石井精二

石田明義

出雲敏夫

井手豊継

伊藤誠一

稲村晴夫

猪狩康代

井上聡

岩城邦治

岩田務

岩本洋一

ほか

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

1  上告人は,筑豊地区に所在する二瀬炭鉱,嘉穂炭鉱等を経営していた会社であり,被上告人らは,これらの炭鉱で粉じん作業に従事したことによりじん肺にり患したと主張する者又はその承継人である。本件は,被上告人らが,上告人は,雇用者として,坑内作業場における適切な粉じん対策を講ずるなどして従業員がじん肺にり患し又は増悪させることのないように配慮すべき義務があるのにこれを怠ったと主張して,上告人に対し,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を求める事案である。

2  上告代理人山口定男,同関孝友,同三浦啓作,同松崎隆,同伊達健太郎の上告受理申立て理由第2点について

雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行すると解すべきであるが(最高裁平成元年(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁),じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。なぜなら,その者が,じん肺法所定の管理区分についての行政上の決定を受けている場合であっても,その後,じん肺を原因として死亡するか否か,その蓋然性は医学的にみて不明である上,その損害は,管理二〜四に相当する病状に基づく各損害とは質的に異なるものと解されるからである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,論旨は採用することができない。

3  同第3点について

論旨は,じん肺法所定の管理二の行政上の決定を受けた後,10年以上を経過してからじん肺により死亡した元従業員に関し,管理二に相当する病状に基づく損害賠償請求権は,時効により消滅しているから,認容すべき慰謝料額は,じん肺による死亡に基づく損害の慰謝料相当額から管理二に相当する病状に基づく損害の慰謝料相当額を控除した金額とすべきであるというものである。

そこで,この点について判断するに,原審の確定した事実関係の下で,原審は,当該元従業員の損害を,管理二に相当する病状に基づく損害とは別個のものであるとして,これを,じん肺による死亡それ自体に係る損害として評価し,その額を定めたものであり,このような場合についてまで,上記の消滅時効に係る慰謝料相当額を控除しなければならないものではない。所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができ,論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・藤田宙靖,裁判官・金谷利廣,裁判官・濱田邦夫,裁判官・上田豊三)

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