最高裁判所第三小法廷 平成2年(ク)127号 決定 1991年2月21日
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告理由中、破産法所定の免責規定、特に免責の不許可決定の要件を規定した同法三六六条ノ九の規定が憲法二九条に違反すると主張する部分があるが、右免責規定が憲法二九条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三六年(ク)第一〇一号同年一二月一三日大法廷決定・民集一五巻一一号二八〇三頁)、右論旨は理由がない。
また、右抗告理由中、破産裁判所が審訊の手続により破産者に対し免責の決定をすることができる旨を定めた破産法三六六条ノ四の規定及び免責の申立てにつき異議の申立てがあつた場合に破産裁判所が異議申立人の意見を聴くことを要する旨を定めた同法三六六条ノ八の規定は、詐欺破産及び過怠破産等の事実について債権者の証言等による立証の機会を奪うもので憲法三二条に違反すると主張する部分がある。
しかしながら、破産法における破産者の免責は、誠実な破産者に対する特典として、破産手続において、破産財団から弁済できなかつた債務につき特定のものを除いて破産者の責任を免除し、破産者を更生させることを目的とする制度である(前記大法廷決定参照)ところ、右免責の裁判は、当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判ではなく、その性質は本質的に非訟事件についての裁判であるから、右免責の裁判が公開の法廷における対審を経ないでされるからといつて、破産法の右規定が憲法三二条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和三六年(ク)第四一九号同四〇年六月三〇日大法定決定、民集一九巻四号一〇八九頁、昭和三九年(ク)第一一四号同四一年三月二日大法廷決定・民集二〇巻三号三六〇頁、昭和四一年(ク)第四〇二号同四五年六月二四日大法廷決定・民集二四巻六号六一〇頁)の趣旨に照らして明らかである。
右論旨は理由がなく、その余の抗告理由は、実質は原決定の単なる法令違背を主張するものにすぎないから、いずれも民訴法四一九条ノ二所定の場合に当たらない。
よつて、本件抗告を不適法として却下
(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 坂上寿夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)