最高裁判所第三小法廷 平成20年(あ)865号 決定 2008年11月04日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人奥村徹の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でないか,実質において単なる法令違反の主張であり,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,本件における組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)違反の罪について,職権で判断する。
1 記録によれば,本件組織的犯罪処罰法違反に係る事実関係は,次のとおりである。
(1) 被告人は,「18歳に満たない児童を相手方とする性交に係る児童の姿態等を撮影し記録した児童ポルノであるDVDを不特定多数の者に有償で提供していたものであるが,別紙犯罪事実一覧表記載のとおり,平成18年10月16日ころから同年12月1日ころまでの間,9回にわたり,Aほか8名をして,犯罪収益である前記DVDの提供代金合計22万8000円を,大阪府八尾市所在の甲銀行X出張所ほか8か所から大阪市中央区所在の乙銀行Y支店に開設され被告人が管理する借名口座であるB名義の普通預金口座に振込入金させて同口座に預け入れ,もって,犯罪収益等の取得につき事実を仮装した」旨の組織的犯罪処罰法違反の公訴事実で起訴され,同公訴事実を記載した起訴状には,別紙として,購入者,提供価格,代金振込日,振込元銀行名等を記載した「犯罪事実一覧表」が添付されていた。
(2) 第1審判決は,被告人について,本件組織的犯罪処罰法違反に係る犯罪事実として上記公訴事実を引用し,同法10条1項前段所定の犯罪収益等の取得につき事実を仮装した罪(以下「犯罪収益取得事実仮装罪」という。)の成立を認めた上,併合審理していた児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反の事実も認定してこれらにつき関係法令を適用し,被告人を,懲役2年6月(保護観察付き執行猶予3年)及び罰金100万円に処するとともに,22万8000円を被告人から追徴した。
(3) ところで,被告人は,上記Aらから注文を受けた児童ポルノであるDVDの代金合計22万8000円を同人らをして上記借名口座に振込入金させた後,同人らに対し当該DVDを送付して提供しているが,原判決が是認する第1審判決は,この提供行為が児童ポルノ法7条4項前段所定の犯罪行為(以下「児童ポルノ提供行為」という。)に該当するとし,上記(1)の22万8000円は組織的犯罪処罰法の「犯罪収益」に当たる(同法別表59号)ところ,被告人から没収することができないとして同額を被告人から追徴したものであることが明らかである。
2(1) 所論は,被告人が上記Aらをして児童ポルノであるDVDの代金を上記借名口座に振込入金させたのは,被告人が犯罪収益の生じる前提となる犯罪(以下「前提犯罪」という。)の実行に着手する前であって,その時点では,上記代金は組織的犯罪処罰法2条2項の「犯罪収益」に当たらないから,「犯罪収益」の取得につき事実を仮装したとはいえないのに,犯罪収益取得事実仮装罪の成立を認めた第1審判決及びこれを是認した原判決には法令違反があり,また,原判決が是認する第1審判決が,罪となるべき事実として前提犯罪の内容を摘示していないことには理由不備の違法があるなどと主張する。
しかしながら,「犯罪収益」を定義する組織的犯罪処罰法2条2項にいう「犯罪行為により得た財産」(同項1号)とは,その文理,同法の立法目的(1条)等にも照らせば,当該犯罪行為によって取得した財産であればよく,その取得時期が当該犯罪行為の成立時の前であると後であるとを問わないと解すべきであるから,前提犯罪の実行に着手する前に取得した前払い代金等であっても後に前提犯罪が成立する限り,「犯罪行為により得た財産」として「犯罪収益」に該当し,その取得につき事実を仮装すれば,犯罪収益取得事実仮装罪が成立するというべきである。そして,同罪の罪となるべき事実の摘示に当たっては,上記財産が同法所定の「犯罪収益」であることを示せば足りると解すべきであるところ,原判決が是認する第1審判決は,被告人が管理する借名口座に入金された合計22万8000円が,児童ポルノ提供行為により得られた財産であることを示した上で,その財産の取得につき事実を仮装したことを示して犯罪収益取得事実仮装罪が成立するとしているのであるから,同罪に係る罪となるべき事実の摘示として欠けるところがないことは明らかである。
(2) 所論は,被告人は,前記Aらから振込入金された代金のうち,1件につき500円を同人らへのDVDの送料に充てているから,その分(9件分の合計4500円)は追徴の対象とならないのに,22万8000円全額を被告人から追徴した第1審判決を是認した原判決には法令違反があるなどと主張する。
しかしながら,注文に応じて有償で児童ポルノを送付して提供する場合において,提供者が注文者から当該児童ポルノの代金を送料込みで取得したときであると,その代金とは別に送料を取得したときであるとを問わず,児童ポルノ提供行為によって取得したと認められる金員の全額が「犯罪行為により得た財産」として「犯罪収益」に該当するのであるから,提供者が現実に児童ポルノを提供するに際して取得した金員の一部を送料として支出したとしても,その分を控除して追徴の金額を算定すべきではないと解するのが相当である。
(3) 以上の(1)及び(2)と同旨の原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 近藤崇晴 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫)