最高裁判所第三小法廷 平成21年(ク)1027号 決定 2011年3月09日
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
1 本件は,Aが平成14年○月○日日に死亡し,その遺産分割が未了の間に,Aとその夫であるB(昭和○年○月○日死亡)との間の子の一人であるCが平成19年○月○日に死亡したため,Aの遺産である原々審判別紙遺産目録1記載の遺産及びCの遺産である同遺産目録2記載の遺産につき,AとBとの間の子である相手方が,Aとその夫ではない者との間の子である抗告人に対し,遺産分割の審判を申し立てた事件であり,抗告理由は,Aの遺産相続及びCの遺産相続につき適用される民法900条4号ただし書の規定は憲法14条1項等に違反するというものである。
2 本件は,当小法廷から大法廷に回付され,大法廷において弁論期日を指定するために,相手方と連絡を取ったところ,相手方は,本件抗告がされた後に,抗告人との間でAの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争を全面的に解決する旨の和解が成立しており,本件抗告事件は終了しているはずであると申し立てた。その趣旨は,本件抗告の適法性を争うものと理解することができる。
3 職権により調査したところによれば,本件抗告以降の事実経過は,以下のとおりである。
(1) 抗告人は,抗告代理人弁護士に委任して本件抗告を申し立てたものの,争いを続けるよりも本件を早期に解決した方がよいと考え,抗告代理人弁護士に相談することなく,相手方との間で直接和解交渉を行い,平成22年6月頃,相手方が支払う代償金の額を原決定が定めた867万0499円から増額し,1050万円とするなどの合意をし(以下「本件和解」という。),相手方は,同月7日頃,抗告人に対し,本件和解の履行として,原々審判別紙遺産目録2,2②記載の定期預金につき,所要の手続を執った上,その預金通帳(預金額1000万円)を交付するとともに,現金50万円を交付した。本件和解に際し,抗告人は,これが成立しても本件抗告を維持するなどの発言をすることはなく,相手方は,本件和解によって本件抗告事件は終了するものと考えていた。
(2) 抗告人は,平成22年7月,抗告代理人弁護士から本件が大法廷に回付された旨の連絡を受けた際,同弁護士に対し,初めて,相手方との間で和解が成立し,和解の履行として代償金も既に受領した旨を告げたが,本件抗告が取り下げられることはなかった。本件和解が成立したにもかかわらず本件抗告を維持することにつき,合理的な理由があることはうかがわれない。
4 以上によれば,本件和解は,Aの遺産相続及びCの遺産相続に関する紛争につき,原決定を前提とした上,相手方が支払う代償金を増額することなどを合意してこれを全面的に解決する趣旨に出たものであることは明らかであって,抗告人において本件抗告事件を終了させることをその合意内容に含むものであったというべきである。仮に,抗告人が,本件抗告の結果,自らの主張が容れられる可能性の程度につき見通しを誤っていたとしても,本件和解が錯誤により無効になる余地はない。
そして,抗告人と相手方との間において,抗告後に,抗告事件を終了させることを合意内容に含む裁判外の和解が成立した場合には,当該抗告は,抗告の利益を欠くに至るものというべきであるから,本件抗告は,本件和解が成立したことによって,その利益を欠き,不適法として却下を免れない。
よって,大法廷から本件の回付を受け,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦)