最高裁判所第三小法廷 平成22年(行ヒ)489号 判決 2012年2月21日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人山川隆一ほかの上告受理申立て理由,上告補助参加代理人宮里邦雄ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,音響製品等の設置,修理等を業とする会社である被上告人が,被上告人と業務委託契約を締結してその修理等の業務に従事する業者(以下「代行店」という。)であって個人営業の形態のもの(以下「個人代行店」という。)が加入する上告補助参加人ら(以下「参加人ら」という。)から個人代行店の待遇改善を要求事項とする団体交渉の申入れを受け,個人代行店は被上告人の労働者に当たらないなどとして上記申入れを拒絶したところ,参加人らの申立てを受けた大阪府労働委員会から上記申入れに係る団体交渉に応じないことは不当労働行為に該当するとして上記団体交渉に応ずべきこと等を命じられ,中央労働委員会に対し再審査申立てをしたものの,これを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア 被上告人は,親会社であるa株式会社(以下「a社」という。)が製造する音響製品等の設置,修理等を業とする株式会社である。平成19年4月1日時点における被上告人の近畿支社の従業員102名(正社員56名,契約社員21名,パートタイマー25名)のうち,出張修理業務(被上告人から指示された特約店又は顧客宅等を訪問して修理を行う業務)に従事していた者は正社員3名,契約社員3名の計6名であり,出張修理業務のうち多くの割合の業務は個人代行店21店及び法人等の企業形態の代行店(以下「法人等代行店」という。)6店の計27店によって行われていた。なお,上記各代行店とは別に,同日時点において,持込修理業務(被上告人から指定された持込修理品につき被上告人又は代行店の作業場において修理を行う業務)に従事していた代行店も,個人代行店3店,法人等代行店1店の計4店存在した。
イ 上告補助参加人b労働組合c本部は,b労働組合(以下「本件組合」という。)の下部組織で,その組合員のうち大阪府内の者により組織された労働組合であり,上告補助参加人b労働組合d支部e分会(以下「参加人分会」という。)は,本件組合に加入する個人代行店により組織された団体である。
(2) 被上告人と業務委託契約を締結して個人代行店になろうとする業者は,被上告人による筆記試験及び面接を受け,これに合格した場合に,被上告人と研修契約を締結し,おおむね3か月間の被上告人による研修を受け,これを了することが必要である。上記研修の目的は,代行店に一定の水準に達する修理技術を習得させることにあり,上記研修に要する交通費,教材費,宿泊費等は原則として被上告人が負担し,研修日当も被上告人から支払われている。
(3) 被上告人と個人代行店との間の業務委託契約(以下「本件契約」という。)は,被上告人が作成した統一書式による業務委託に関する契約書及び委託料等に関する覚書に記載された内容で締結されている。本件契約の概要は,以下のとおりである。
ア 本件契約は,被上告人において個人代行店に被上告人が実施すべき修理サービス業務の一部を代行させ,個人代行店において市場におけるa社及びその製品の信用を高めるとともに被上告人及び個人代行店双方の繁栄を図ることを目的とする(1条)。個人代行店は,修理業務の実施に際し,被上告人が定める品質基準を守り適正な処理を行う(5条)とともに,修理に関する全ての事項を,被上告人の指定する修理報告書を使用して被上告人に報告する(8条)。被上告人は,個人代行店の業務担当地域を指定するとともに,業務の都合によりその業務担当地域を変更することができる(12条)。
イ 個人代行店は,保証期間を過ぎた修理品については,必要に応じて被上告人の定めた修理料金規程により,顧客に対し売上伝票又は請求書を発行し,直接代金の回収を指示されているものについては,発生の都度個人代行店の責任において代金を回収して被上告人に入金し,その際に使用する領収書は被上告人の指定のものを使用し,領収書の控え及び未使用分は毎週1回以上被上告人に提出して検収を受ける(3条)。被上告人は,修理業務に必要とする部品を個人代行店に有料支給し又は貸与し,個人代行店は,安全性及び機能上の理由から,原則として被上告人の支給する以外の部品を使用してはならない(7条)。修理業務遂行に必要な技術力及び被上告人が定めた設備(計測器等)の保有,被上告人が定めた修理安全確認事項の実施並びに被上告人が定めた保険等への加入は個人代行店の義務であり(10条),個人代行店は,被上告人から受託した業務を未契約の第三者に再委託してはならない(11条)。個人代行店は,所管の税務署に営業届を提出し,年度ごとの申告を行う(15条)。
ウ 本件契約は,その存続期間を1年間とし(17条),契約期間満了時3か月前までに文書で双方のいずれかから期間を延長しない旨の申出があった場合には契約期間満了日をもって終了するが,上記申出がないときは1年間ごとに更新される(13条)。
なお,本件契約には業務遂行の方法等について特段の定めは置かれていないが,被上告人は,個人代行店に対し,a社製品の機種ごとに,商品固有のサービス事項,分解方法,調整方法,修理の手引等が記載されているa社作成のサービスマニュアルを配布しており,個人代行店は,被上告人の従業員と同様に,上記マニュアルに従って修理業務を行っている。また,被上告人は,顧客訪問前の準備事項,訪問時の注意及びマナー等が記載された冊子やa社が同社の従業員の行動基準について定めた冊子等も個人代行店に配布している。
(4) 被上告人は,上記覚書の約定に従い,①特約店又は顧客に請求する修理工料(修理単価は,被上告人が定めた修理料金規程によるものとされている。)及び出張料に対して一定の比率を乗じた額並びに②附帯修理部品使用料(当該部品の価額の2%相当額),開発商品拡売料及び物件紹介料の額の合計額を委託料とし,これに消費税を加算した金額を個人代行店に対して毎月支払っているが,その際,源泉徴収や社会保険料等の控除はされていない。なお,被上告人の従業員には,上記②に相当する支払はされない。
(5)ア 被上告人は,個々の個人代行店の業務担当地域については,その所在地を考慮しつつ,他の個人代行店の業務担当地域となるべく重複しないように割り振っている。個人代行店は,被上告人のコールセンターに対し,毎月20日までに翌月の休業日を届け出るが,上記届出は,一般的に,被上告人からの要請により,出張修理業務の遂行に支障が出ることのないよう,あらかじめ個人代行店間で休業日を調整してから行われている。また,個人代行店が担当する各営業日ごとの出張修理業務については,被上告人において,個人代行店の出張修理実績を基にした出張修理業務に要する時間等を考慮して,1日当たりの受注可能件数を原則として8件と定めている。受注可能件数を8件とする場合の割り振りは,通常,午前中に1件,午後のうち午後5時までに6件,午後5時以降に1件とされている。個人代行店が当該営業日の受注可能件数を変更する場合には,あらかじめ被上告人のコールセンターに対し,その旨を届け出ることとなる。
個人代行店から休業日及びその変更の届出又は受注可能件数の変更の届出があった場合において,業務担当地域における出張修理業務の遂行に支障が生ずるときは,被上告人のコールセンター長から当該届出をした個人代行店に対し,当該届出の内容の変更を申し入れることがあり,この場合には,当該個人代行店と同センター長との協議を経て当該変更の成否が決まることとなる。
イ 被上告人は,顧客からの出張修理の依頼を電話又はファックスによってコールセンターで受け付けた後,顧客の住所地及び修理希望日時と個人代行店の業務担当地域及び訪問時間帯ごとの受注可能件数に従って当該依頼に係る出張修理業務を各個人代行店に割り振り,訪問先,故障状況,受付日及び訪問予定日時を記載した個人代行店ごとの出張訪問カードを作成する。
個人代行店は,タイムカード等による出退勤管理はされていないが,原則として,午前9時頃までに各業務担当地域を管轄するサービスセンターに出向き,同センターのパソコンで出張訪問カードを印刷するなどして,各個人代行店に割り振られた当日の出張修理業務の内容を確認する(なお,一部の個人代行店は,ファックス等を通じた通信により出張訪問カードに関する処理を行っている。)。個人代行店は,特別な事情のない限り,割り振られた出張修理業務を全て受注している。個人代行店が1日に処理する出張修理件数は,通常5件ないし8件程度である。
ウ 個人代行店は,出張訪問カードの記載に基づいて顧客に電話をし,訪問時間や順路を調整して決定し,顧客を訪問してその依頼に係るa社製品の修理を実施する。被上告人は,出張修理業務に従事する自社の従業員と同様に個人代行店を「サービスマン」と呼称し,「a社」のロゴマークが入った名札及び自社の従業員と同じデザインの作業服を着用させ,被上告人の経費で上記と同様のロゴマーク及び被上告人の社名の入った名刺を印刷して個人代行店に支給し,使用させている。
個人代行店は,顧客を訪問する際にはその保有する自動車を用い,ガソリン代等の諸費用を自ら負担し,a社製品の出張修理業務に必要な工具等のうちドライバー等の一般的な工具や計測器は自ら所有しているが,高価で使用頻度の少ない特殊な計測機器等については被上告人から無償で貸与されている。
エ 個人代行店は,出張修理業務が終了した後,顧客から修理代金を受け取り,顧客に対して被上告人から支給された被上告人名義の領収書等を手交する。
個人代行店の最終の顧客への訪問時間は,午後6時ないし7時頃になることが多く,その日に予定された出張修理業務を全て完了すると,通常,サービスセンターに戻り,伝票類の処理や,出張訪問カードの記録にその日の修理の進捗状況等を入力する作業をする。個人代行店は,顧客から受領した修理代金を受領日の翌日に入金処理することになっており,この手続が遅れた場合には,被上告人に対して遅延理由書を提出しなければならない。
オ 被上告人は,技術革新に対応するため,その従業員のみならず個人代行店も対象に含めて研修を適宜実施しており,受講した個人代行店に対し,営業補償の趣旨で研修日当(平成10年当時は1万円)を支払っている。また,被上告人は,その従業員の公的資格取得を奨励する制度を設け,個人代行店もその適用の対象としている。
カ 個人代行店は,被上告人以外の者からa社製品以外の製品の修理を請け負うことについては制約がなく,これを行っている個人代行店は2店存在するが,当該個人代行店が被上告人以外の者から請け負っている業務の内容やその業務全体に占める割合等は記録上必ずしも明らかではない。また,本件契約上,個人代行店がその従業員を修理業務に従事させることは禁止されてはいないが,そのような実例があるか否かは記録上明らかではない。さらに,被上告人は法人等代行店とも業務委託契約を締結しているが,委託料の算定方法等種々の点で本件契約とは異なるものもあり,その契約の内容は,必ずしも一様ではなく,その詳細も記録上明らかではない。また,法人等代行店の中には,複数の個人代行店が一つのグループを作り,これを代表する個人代行店が被上告人から修理業務を一括して受注し,これを各個人代行店に割り振って修理業務を分担する形態のものもあるなど,その業務の詳細な実態は記録上明らかではない。
なお,個人代行店は,いずれも事業者として所得税の確定申告をしており,被上告人の近畿支社における個人代行店のうち半数近くの者は,青色申告の承認を受けている。また,個人代行店は,被上告人が加入を求める自動車保険や所得補償保険等に自ら保険料を負担して加入している。
(6) 参加人ら及び本件組合d支部(以下「本件支部」という。)は,平成17年1月31日,被上告人に対し,個人代行店が本件組合に加入したことなどを記載した通知書とともに,最低保障賃金を月額30万円とすること,1日の就労時間を午前9時から午後6時までとし,年間総休日数は110日とすること,社会保険及び労働保険に加入すること,業務の遂行上必要な経費は被上告人が全額負担すること,その他については労働基準法に準拠すること等を要求する書面(以下,これらの要求事項を併せて「本件要求事項」という。)を提出し,同時に,本件要求事項について団体交渉の申入れをした。
被上告人は,本件支部に対し,参加人分会は被上告人の雇用する労働者をもって結成された労働組合とは解されないなどとして,参加人分会が出席する交渉及び個人代行店に関する事項についての交渉には応じられない旨を回答した。
その後も,参加人ら及び本件支部は,被上告人に対し本件要求事項に係る団体交渉の申入れを度々行ったが,被上告人は,その都度,上記と同様の回答をした。
(7) 参加人ら及び本件支部が,平成17年3月29日,大阪府労働委員会に対し,被上告人の上記(6)の各申入れに対する対応は不当労働行為に当たるとして救済申立てをしたところ,同委員会は,平成18年11月17日付けで,参加人らに対する被上告人の上記対応は不当労働行為に当たるとして,被上告人に対し本件要求事項に係る団体交渉に応ずべきこと等を命ずる旨の救済命令を発した。被上告人は中央労働委員会に対し再審査申立てをしたが,同委員会は,平成20年2月20日付けでこれを棄却する旨の本件命令を発した。
3 原審は,上記事実関係等の下において要旨次のとおり判断し,個人代行店は被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たらず,したがって,参加人らによる上記各申入れに対する被上告人の対応について不当労働行為が成立する余地はないとして,本件命令を取り消すべきものとした。
被上告人が対外的に個人代行店を自らの従業員と区別せずに業務を遂行させたり,個人代行店を対象とする研修等を行っているなどの事情は,個人代行店の企業組織への組込みを根拠付けるものであるとはいえないし,本件契約の内容は個人代行店の意思が反映されたものとなっているから,本件契約及びそれに基づく出張修理業務の内容が被上告人によって一方的に決定されたものということもできない。また,個人代行店が特別の事情のない限り被上告人により割り振られた出張修理業務を拒むことができないのも,個人代行店があらかじめ受注可能件数等を提示し,被上告人がこれに合わせて出張修理業務を発注していることによるものであって,個人代行店に諾否の自由がないことによるものではない。さらに,被上告人と個人代行店との間において,本件契約の内容及びそれに基づく業務の性質上当然に必要と認められる範囲を超えた労務管理上の個別的,具体的な指揮監督とみることのできる事情等はうかがえない。加えて,個人代行店に支払われる委託料は,修理業務等を完了した結果に対する対価としての性質を有し,労務提供そのものに対する対価としての性格は希薄である。むしろ,個人代行店は,独立の事業者としての実態を備え,その立場で被上告人と本件契約を締結して出張修理業務を行っている。したがって,個人代行店は,被上告人から業務を受注する外注先とみるのが相当であって,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たるということはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記事実関係等によれば,a社製品に係る出張修理業務のうち被上告人の従業員によって行われる部分は一部であって,被上告人は,自ら選抜し,約3か月間の被上告人が実施する研修を了した個人代行店に出張修理業務のうち多くの割合の業務を担当させている上,個人代行店が担当する各営業日ごとの出張修理業務については,被上告人が1日当たりの受注可能件数を原則8件と定め,各個人代行店とその営業日及び業務担当地域ごとの業務量を調整して割り振っているというのであるから,個人代行店は,被上告人の上記事業の遂行に必要な労働力として,基本的にその恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられているものとみることができる。加えて,本件契約の内容は,被上告人の作成した統一書式に基づく業務委託に関する契約書及び覚書によって画一的に定められており,業務の内容やその条件等について個人代行店の側で個別に交渉する余地がないことは明らかであるから,被上告人が個人代行店との間の契約内容を一方的に決定しているものといえる。さらに,個人代行店に支払われる委託料は,原則として被上告人が定めた修理工料等に一定割合を乗じて算定されるなど,形式的には出来高払に類する方式が採られているものの,個人代行店は1日当たり通常5件ないし8件の出張修理業務を行い,その最終の顧客訪問時間は午後6時ないし7時頃になることが多いというのであるから,このような実際の業務遂行の状況に鑑みると,修理工料等が修理する機器や修理内容に応じて著しく異なることからこれを専ら仕事完成に対する対価とみざるを得ないといった事情が特段うかがわれない本件においては,実質的には労務の提供の対価としての性質を有するものとして支払われているとみるのがより実態に即しているものといえる。また,個人代行店は,特別な事情のない限り被上告人によって割り振られた出張修理業務を全て受注すべきものとされている上,本件契約の存続期間は1年間で被上告人から申出があれば更新されないものとされていること等にも照らすと,個人代行店があらかじめその営業日,業務時間及び受注可能件数を提示し,被上告人がこれに合わせて顧客から受注した出張修理業務を発注していることを考慮しても,各当事者の認識や本件契約の実際の運用においては,個人代行店は,なお基本的に被上告人による個別の出張修理業務の依頼に応ずべき関係にあるものとみるのが相当である。しかも,個人代行店は,原則として営業日には毎朝業務開始前に被上告人のサービスセンターに出向いて顧客訪問予定日時等の記載された出張訪問カードを受け取り,被上告人の指定した業務担当地域に所在する顧客宅に順次赴き,a社作成のサービスマニュアルに従って所定の出張修理業務を行うのであり,その際には,被上告人の親会社であるa社のロゴマーク入りの制服及び名札を着用した上,被上告人の社名が印刷された名刺を携行し,毎夕の業務終了後も原則としてサービスセンターに戻り,伝票処理や当日の修理進捗状況等の入力作業を行っているというのであるから,上記のような通常の業務に費やされる時間及びその態様をも考慮すれば,個人代行店は,基本的に,被上告人の指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも相応の拘束を受けているものということができる(このことは,サービスセンターとのやり取りをファックス等を通じた通信により行っている一部の個人代行店についても同様である。)。
(2) 上記(1)の諸事情に鑑みると,本件における出張修理業務を行う個人代行店については,他社製品の修理業務の受注割合,修理業務における従業員の関与の態様,法人等代行店の業務やその契約内容との等質性などにおいて,なお独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り,労働組合法上の労働者としての性質を肯定すべきものと解するのが相当であり,上記個人代行店について上記特段の事情があるか否かが問題となる。しかしながら,a社製品以外の製品の修理業務を行う個人代行店が2店存在する一方で,その業務の内容や割合等は明らかではなく,また,個人代行店はその従業員を修理業務に従事させることが禁止されていないものの,その従業員の有無及びその従業員が行っている業務の内容が日常的に補助的業務の範囲を超えているか否か等は明らかではなく,さらに,被上告人は法人等代行店とも業務委託契約を締結しているところ,法人等代行店の業務の実態やその契約の内容等の詳細は明らかではない。このように,前記事実関係等のみからは,個人代行店が自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているか否かは必ずしも明らかであるとはいえず,出張修理業務を行う個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な上記の諸点についての審理が十分に尽くされていないものといわざるを得ない。なお,個人代行店は,出張業務に際して自ら保有する自動車を用い,その諸費用を自ら負担しているが,一方で高価で特殊な計測機器等については被上告人から無償で貸与されているなどの事実にも鑑みれば,それだけでは上記のような機会が確保されていると認めるには足りないというべきである。また,個人代行店が被上告人から支払われる委託料から源泉徴収や社会保険料等の控除を受けておらず,自ら確定申告を行っている点についても,実態に即して客観的に決せられるべき労働組合法上の労働者としての性質がそのような事情によって直ちに左右されるものとはいえない。
5 以上によれば,前記4(1)の諸事情があるにもかかわらず,出張修理業務を行う個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情の有無を判断する上で必要な上記の諸点について十分に審理を尽くすことなく,上記個人代行店は被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,前記4(1)の諸事情がある以上,出張修理業務を行う個人代行店は独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情のない限り被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解すべきであることを前提とした上で,参加人らに加入する個人代行店の修理業務の内容,当該個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるか否か,仮に当該個人代行店が労働組合法上の労働者に当たると解される場合において被上告人が本件要求事項に係る団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否か等の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 那須弘平 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)