最高裁判所第三小法廷 平成24年(し)534号 決定 2012年10月26日
主文
原決定を取り消す。
本件準抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
しかし,所論に鑑み,職権により調査する。
本件公訴事実の要旨は,「被告人が,平成22年10月,路上で,当時12歳の女児に対し,いきなりその背後から抱きつき,着衣の上から左乳房を右手で触って押さえつけるなどのわいせつな行為をした」というものである。一件記録によれば,被告人には刑訴法89条3号及び4号に該当する事由があると認められ,常習性も強い事案であると考えられるが,被告人は,本件公訴事実について捜査段階から認める供述をしており,弁護人も本件公訴事実を争わない予定であるとしていること,被告人は,本件の起訴に先立ち,平成22年7月から平成24年5月までの本件と同種の5件の強制わいせつ事件(以下「先行事件」という。)でも起訴されているところ,本件は,それらの事件の間に行われた事案であること,被告人は,先行事件の公判で,先行事件全てにつき公訴事実を認めており,検察官請求証拠についても全て同意をして,その取調べが終了していること,本件の原々審が被告人の保釈を許可したのと同日付けで,先行事件の公判裁判所も先行事件につき保証金額を各75万円(合計375万円)と定めて被告人の保釈を許可する決定をしていること(なお,各保釈許可決定に対する検察官の抗告はいずれも棄却され,確定している。),被告人に対する追起訴は今後予定されていないこと,被告人の両親らが被告人の身柄を引き受け,公判期日への出頭確保及び日常生活の監督を誓約していること,被告人は,釈放後は本件犯行場所からは離れた父親の単身赴任先に母親と共に転居し,両親と同居して生活する予定であること,被告人は,現在勾留先で受けている臨床心理士のカウンセリングを釈放後も受け続ける意向を示していること,これまでに前科前歴がないこと等の事情がある。
以上のような本件事案の性質や証拠関係,先行事件の審理経過,被告人の身上等に照らすと,保証金額を75万円とし,本件の被害者及びその関係者との接触禁止などの条件を付した上で被告人の保釈を許可した原々審の裁判は,その裁量の範囲を逸脱したものとはいえず,不当ともいえないから,これを取り消して保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判すると,上記のとおり本件については保釈を許可した原々審の裁判に誤りはないから,本件準抗告は,同法432条,426条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春)