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最高裁判所第三小法廷 平成28年(行ヒ)233号 判決 2017年12月12日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

第1事案の概要等

1  被上告人は,上告人を含む事業者らがテレビ用ブラウン管の販売価格に関して国外で合意をすることにより,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項所定の「不当な取引制限」(価格カルテル)をしたとして,上告人に対し,同法7条の2第1項に基づく課徴金納付命令(公正取引委員会平成22年(納)第23号。以下「本件課徴金納付命令」という。)を発した。本件は,上告人が,当該合意について独禁法を適用することはできないなどとして本件課徴金納付命令の取消しを求める審判請求をしたものの,これを棄却する旨の審決(公正取引委員会平成22年(判)第7号。以下「本件審決」という。)を受けたため,被上告人を相手に,本件審決の取消しを求める事案である。

2  原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。なお,以下において,法人の名称は別表記載の略称により表記する。

(1)ア  上告人は,マレーシアに本店を置き,テレビ用ブラウン管の製造販売業を営む者であり,大韓民国(以下「韓国」という。)に本店を置く事業者であるサムスンSDIの子会社である。

イ  MT映像ディスプレイは,我が国に本店を置く事業者である。インドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)に本店を置くMTインドネシア,マレーシアに本店を置くMTマレーシア及びタイ王国(以下「タイ」という。)に本店を置くMTタイは,いずれもMT映像ディスプレイの子会社であり,少なくとも平成19年3月30日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。

ウ  中華映管は,台湾に本店を置く事業者である。マレーシアに本店を置く中華映管マレーシアは,中華映管の子会社であり,少なくとも平成19年3月30日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。

エ  LGフィリップス・ディスプレイズは,韓国に本店を置き,少なくとも平成19年3月30日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。インドネシアに本店を置くLPディスプレイズ・インドネシアは,LGフィリップス・ディスプレイズの関連会社であり,少なくとも同日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。

オ  タイCRTは,タイに本店を置き,少なくとも平成19年3月30日までテレビ用ブラウン管の製造販売業を営んでいた。

(2)ア  オリオン電機,三洋電機,シャープ,日本ビクター及び船井電機(以下,これらを併せて「我が国テレビ製造販売業者」という。)は,いずれも,我が国に本店を置き,東南アジア地域にブラウン管テレビの製造を行う子会社若しくは関連会社又はその製造を委託する会社を有して(以下,これらの会社を併せて「現地製造子会社等」という。),少なくとも平成19年3月30日までブラウン管テレビの製造販売業を営んでいた。

イ  我が国テレビ製造販売業者は,それぞれ,サムスンSDI,MT映像ディスプレイ,中華映管,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT(以下,併せて「サムスンSDIほか4社」という。)等のテレビ用ブラウン管製造販売業者の中から1社又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の仕様のほか,おおむね1年ごとの購入予定数量の大枠や,四半期ごと等の購入価格及び購入数量について交渉していた(以下,上記の選定及び交渉を「本件交渉等」という。)。なお,本件交渉等は,サムスンSDIが選定された場合には上告人が,MT映像ディスプレイが選定された場合にはMTインドネシア,MTマレーシア及びMTタイ(以下,併せて「MTインドネシアほか2社」という。)が,中華映管が選定された場合には中華映管マレーシアが,LGフィリップス・ディスプレイズが選定された場合には同社及びLPディスプレイズ・インドネシアが,タイCRTが選定された場合には同社が,それぞれ現地製造子会社等にテレビ用ブラウン管を販売することを前提として行われていた。

ウ  我が国テレビ製造販売業者は,本件交渉等を経て,現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管の購入先,購入価格,購入数量等の取引条件を決定し,現地製造子会社等は,それぞれ我が国テレビ製造販売業者から指示を受けて,主に上告人,MTインドネシアほか2社,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ,LPディスプレイズ・インドネシア及びタイCRT(以下,併せて「上告人ほか7社」という。)から原判決別紙3記載のテレビ用ブラウン管を購入していた(以下,本件交渉等を経て現地製造子会社等が購入する上記ブラウン管を「本件ブラウン管」という。)。

(3)  我が国テレビ製造販売業者によるブラウン管テレビの製造販売業の遂行状況,現地製造子会社等との関係,本件ブラウン管の購入の経緯等は,以下のとおりである。

ア オリオン電機

(ア) オリオン電機は,かつては国内においてブラウン管テレビの製造を行っていたが,遅くとも平成7年頃以降は国外におけるブラウン管テレビの製造拠点としてタイにおいて設立された現地製造子会社等であるワールド及びコラート(以下,併せて「ワールド等」という。)に対し,その製造を委託していた。オリオン電機は,ワールド等に出資していなかったが,ワールド等を自社の製品を製造するグループ企業と位置付け,ワールド等の設立以来,自社の従業員をワールド等の代表者,役員及び従業員として派遣していた。オリオン電機は,ワールド等と技術援助契約を締結した上,設計や仕様を指示してブラウン管テレビの製造を委託していた。

(イ) オリオン電機は,価格交渉力を向上させることや販売価格を管理することを目的として,原価計算をした上,ワールド等に製造を委託するブラウン管テレビに使用するブラウン管等の部品の選定やその購入価格及び購入数量の決定等を行っていた。なお,上記の技術援助契約において,ワールド等は必要な資材についてオリオン電機を通じて購入することに協力する旨が定められていた。

オリオン電機は,ワールド等が本件ブラウン管を用いて製造したテレビを全て購入し,国内外で販売していた。なお,ワールド等は,オリオン電機以外からも委託を受けるなどして製品を製造していたが,その割合は売上げの1割にも満たない程度であった。

(ウ) オリオン電機は,平成15年5月22日頃から同19年3月29日までの間,主にサムスンSDIほか4社の中から1社又は複数の事業者を選定し,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定するとともに,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を決定し,これを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。そして,オリオン電機は,ワールド等に対し,本件ブラウン管の仕様,購入価格,購入数量等を記載した部品表又は仕様書を送付するなどして,本件ブラウン管をオリオン電機が選定した事業者又はその子会社等から購入するよう指示していた。ワールド等は,この指示に従って,オリオン電機により選定された事業者又はその子会社等(上告人ほか7社の関係では,MTマレーシア,MTタイ,中華映管マレーシア,LGフィリップス・ディスプレイズ及びタイCRT)に本件ブラウン管を発注し,購入していた。

イ 三洋電機

(ア) 三洋電機は,かつては国内においてブラウン管テレビを製造していたが,平成8年にインドネシアに現地製造子会社等である三洋電子インドネシアを設立し,同社にその製造業務を移管した。シンガポール共和国(以下「シンガポール」という。)に所在する三洋電機の完全子会社は,三洋電子インドネシアの議決権につき平成14年4月から同16年3月までは82%を,同年4月以降はその全てを保有していた。

(イ) 三洋電機は,平成18年9月30日まで,三洋電子インドネシアを含む子会社(以下「三洋電子インドネシア等」という。)が使用するテレビ用ブラウン管の仕様,製造するブラウン管テレビの仕様,製造方法等に関する規格や検査基準を設定し,毎年の事業計画,四半期ごとの確認,月次の報告等を通じて三洋電子インドネシア等に対して事業上の指示及び管理を行うなど,三洋電機及び三洋電子インドネシア等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。また,三洋電機は,同社及び三洋電子インドネシア等が使用するテレビ用ブラウン管について,購買業務の効率性を高めること等を目的として,まとめて購買業務を行い,一括して交渉を行っていた。

三洋電機の我が国及びインドネシア所在の販売子会社は,三洋電機が承認した事業計画に従って三洋電子インドネシアが本件ブラウン管を用いて製造したテレビを購入し,国外で販売していた。

(ウ) 三洋電機は,平成15年5月22日頃から同18年9月30日までの間,主にサムスンSDI,MT映像ディスプレイ及びLGフィリップス・ディスプレイズの中から1社又は複数の事業者を選定し,本件ブラウン管の仕様を交渉して決定し,おおむね1年ごとに本件ブラウン管の購入予定数量の大枠を決定し,これを踏まえて,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量を交渉して決定していた。そして,三洋電機は,三洋電子インドネシアに対し,上記のとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を伝え,三洋電機が選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。三洋電子インドネシアは,この指示に従い,三洋電機により選定された事業者又はその子会社等(上告人ほか7社の関係では,上告人,MTインドネシア,MTタイ,LGフィリップス・ディスプレイズ及びLPディスプレイズ・インドネシア)に対して本件ブラウン管を発注し,購入していた。

ウ シャープ

(ア) シャープは,かつては国内においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成13年頃以降は現地製造子会社等であるマレーシア所在のSREC,フィリピン所在のSPC,タイ所在のSMTL,インドネシア所在のSEID及びマレーシア所在のSEM(以下,併せて「SREC等」という。)がこれを製造していた。

シャープは,SRECの議決権の50%を,SPCの議決権の過半数を,SMTLの議決権につき平成17年3月末までは33%,同年4月以降は全てを,SEIDの議決権の過半数を,SEMの議決権の全てをそれぞれ保有していた。

(イ) シャープは,現地製造子会社等が策定する主要部品の調達数量を含む生産計画,販売計画等から成る現地製造子会社等の経営計画に事前の承認を与えていた。また,シャープは,価格交渉力の向上を目的として,現地製造子会社等が製造するブラウン管テレビの製造に必要なブラウン管について,取引先を選定し,購入価格,購入数量等の取引条件についての交渉を取りまとめ,その購入を一元管理するなどして,シャープ,SREC等並びにその他の子会社及び関連会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。

シャープ及び同社の国外の販売子会社等は,SREC等が本件ブラウン管を用いて製造したテレビの大部分を購入して国内外で販売していた。

(ウ) シャープは,平成15年5月22日頃から同19年3月29日までの間,サムスンSDIほか4社等からテレビ用ブラウン管の売買価格等の情報等を収集し,SEMの設計・開発部門及びSREC等と協議し,その結果を踏まえて,主にサムスンSDIほか4社の中から選定した事業者との間で,半期ごとに取引される本件ブラウン管のSREC等全体の購入価格,購入数量等について,交渉の相手方である事業者から仕様等の技術情報を収集しつつ,自ら交渉して取引条件の取りまとめを行っていた。シャープは,SREC等に対し,上記交渉により調整された取引条件を伝達し,SREC等は,支払通貨等の支払条件について更に交渉することはあったものの,基本的にはシャープから伝達された取引条件どおりの価格を本件ブラウン管の購入価格とし,シャープにより選定された事業者又はその子会社等(上告人ほか7社の関係ではその全社)に本件ブラウン管を発注し,購入していた。

エ 日本ビクター

(ア) 日本ビクターは,同社又は同社の子会社若しくは関連会社が販売するブラウン管テレビを製造するための現地製造子会社等として,タイにJMT及びJETを,ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)にJVLをそれぞれ設立し,設計や仕様を指示してブラウン管テレビを製造させていた。

日本ビクターはJMT及びJVCアジアの各議決権の100%を,JVCアジアはJSSTの議決権の50%及びJVLの議決権の70%を,JSSTはJETの議決権の99%をそれぞれ保有していた。

また,日本ビクターの完全子会社でシンガポールに所在するJES(以下,JMT,JET及びJVLと併せて「JMT等」という。)は,日本ビクターのブラウン管テレビの製造を行う子会社が使用するブラウン管の一部を調達していた。

(イ) 日本ビクターは,各地の販売拠点からの注文を取りまとめ,それに基づいてJMT等に生産指示を出し,完成したブラウン管テレビを販売するなどして,ブラウン管テレビの生産,販売及び在庫に関する管理をしていたほか,価格交渉力の向上を目的として,JMT等が使用するブラウン管の調達業務を行うなど,日本ビクター,JMT等及びその他の子会社等が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。

JMT等が本件ブラウン管を用いて製造したテレビは,日本ビクターが取りまとめた事業計画に沿って販売されていた。JVLが製造したテレビはJVLがベトナムにおいて販売し,JMTが製造したテレビのほとんど全ては日本ビクターが買い上げて国内外で販売し,JETが製造したテレビは全てJSSTが買い上げてタイにおいて販売していた。

(ウ) 日本ビクターは,平成15年5月22日頃から同17年4月30日まで,同社の設計部門が設計したブラウン管テレビに適合する仕様のブラウン管について,主にサムスンSDIほか4社の中から1社又は複数の事業者を選定し,当該事業者との間で,JMT等の各地の製造拠点におけるブラウン管テレビの生産台数に応じたブラウン管を確保するため,年間の購入予定数量の大枠を交渉して決定し,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格等の取引条件について交渉して決定していた。

日本ビクターは,JMT等に対し,上記のとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を伝え,日本ビクターが選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示した。JMT等は,この指示に従い,日本ビクターにより選定された事業者又はその子会社等(上告人ほか7社の関係では,MTインドネシアを除く全社)に対して,本件ブラウン管を発注し,購入していた。

オ 船井電機

(ア) 船井電機は,かつては国内工場においてブラウン管テレビを製造していたが,遅くとも平成5年頃以降は行わず,現地製造子会社等(いずれも完全子会社である。)であるマレーシア所在の船井電機マレーシア及びタイ所在の船井電機タイ(以下,併せて「船井電機マレーシア等」という。)がこれを製造していた。

(イ) 船井電機は,船井電機マレーシア等にブラウン管テレビの製造業務を移管した後も,引き続き,ブラウン管テレビの研究開発,技術・生産管理,マーケティング,購買等の業務を管轄し,運営するなど,船井電機,船井電機マレーシア等及びその他の子会社が行うブラウン管テレビに係る事業を統括していた。船井電機は,船井電機マレーシア等が製造するブラウン管テレビの製品仕様書等を作成し,船井電機マレーシア等に送付していた。

船井電機は,船井電機マレーシア等が本件ブラウン管を用いて製造したテレビを全て購入し,国内外の完全子会社を通じて,国内外で販売していた。

(ウ) 船井電機は,平成15年5月22日頃から同19年3月29日までの間,主にサムスンSDIほか4社の中から選定した事業者との間で,翌年1年間において取引される本件ブラウン管の仕様及び購入予定数量の大枠を交渉して決定し,おおむね四半期ごとに本件ブラウン管の購入価格及び購入数量について交渉して決定していた。船井電機は,船井電機マレーシア等に対し,上記のとおり決定した本件ブラウン管の購入価格,購入数量等の取引条件を伝え,船井電機が選定した事業者又はその子会社等から本件ブラウン管を購入するよう指示していた。船井電機マレーシア等は,この指示に従い,船井電機により選定された事業者又はその子会社等(上告人ほか7社の関係では,LGフィリップス・ディスプレイズを除く全社)に対して本件ブラウン管を発注し,購入していた。

(4)ア  サムスンSDIほか4社並びに上告人,MTインドネシア,中華映管マレーシア及びLPディスプレイズ・インドネシアは,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため,遅くとも平成15年5月22日頃までに,日本国外において,本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し,おおむね四半期ごとに,次の四半期におけるサムスンSDIほか4社が我が国テレビ製造販売業者との交渉の際に提示する,本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意した(以下,この合意を「本件合意」という。)。MTマレーシアは遅くとも平成16年2月16日までに,MTタイは遅くとも同年4月23日までに,それぞれ本件合意に加わった。

イ  平成15年から同19年までにおける現地製造子会社等の本件ブラウン管の総購入額のうち,上告人ほか7社からの購入額の合計の割合は約83.5%であった。

(5)  本件合意は,中華映管及び中華映管マレーシアが平成19年3月30日に競争法の問題により本件ブラウン管の営業担当者による会合に出席しない旨表明したことなどから,同日,事実上消滅した。

(6)  被上告人は,平成22年2月12日,上告人に対し,上告人の現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の売上額を基礎として算定された課徴金13億7362万円を納付することを命じる本件課徴金納付命令を発した。

第2上告代理人内田晴康ほかの上告受理申立て理由第3及び第4について

1  所論は,本件合意は国外で合意されたものであるところ,本件ブラウン管を直接購入したのは国外に所在する現地製造子会社等であること等から,本件は我が国の独禁法の適用対象とならない旨をいうものである。

2  独禁法は,国外で行われた行為についての適用の有無及び範囲に関する具体的な定めを置いていないが,同法が,公正かつ自由な競争を促進することなどにより,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)等に鑑みると,国外で合意されたカルテルであっても,それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には,同法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当である。したがって,公正取引委員会は,同法所定の要件を満たすときは,当該カルテルを行った事業者等に対し,上記各命令を発することができるものというべきである。

そして,不当な取引制限の定義について定める独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいうものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第278号同24年2月20日第一小法廷判決・民集66巻2号796頁参照)。そうすると,本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても,当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど,価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には,当該カルテルは,我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができる。

3  前記事実関係等によれば,我が国テレビ製造販売業者は,自社との資本関係又は緊密な業務提携関係に基づき,現地製造子会社等を含むグループ会社が行うブラウン管テレビの製造販売業全体を統括し,ブラウン管テレビの生産計画や仕様等を決定するなどした上で,現地製造子会社等に指示して製造させ,また,我が国テレビ製造販売業者又はその子会社等は,現地製造子会社等が本件ブラウン管を用いて製造したテレビの全部又は相当部分を購入した上で販売していたものである。このように,我が国テレビ製造販売業者は,ブラウン管テレビの製造業務については現地製造子会社等に移管又は委託していたものの,ブラウン管テレビの製造販売業の主体として引き続き自社及びその子会社等が行う当該事業を統括し,遂行していたものであり,現地製造子会社等は,我が国テレビ製造販売業者による指示を受ける関係にあったものということができる。そして,我が国テレビ製造販売業者は,ブラウン管テレビの製造販売業を統括し,遂行する一環として,その基幹部品であるブラウン管の購入先,購入価格,購入数量等の重要な取引条件を決定し,その購入を現地製造子会社等に指示し,現地製造子会社等に本件ブラウン管を購入させていたものである。さらに,我が国テレビ製造販売業者は,サムスンSDIほか4社との間で本件ブラウン管の取引条件に関する本件交渉等を自ら直接行っていたものであるところ,本件合意は,その本件交渉等においてサムスンSDIほか4社が提示する価格を拘束するものであったというのである。

そうすると,本件の事実関係の下においては,本件ブラウン管を購入する取引は,我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が経済活動として一体となって行ったものと評価できるから,本件合意は,我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。

4 以上によれば,本件合意は,日本国外で合意されたものではあるものの,我が国の自由競争経済秩序を侵害するものといえるから,本件合意を行った上告人に対し,我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当である。所論の点に関する原審の判断は,是認することができる。

第3上告代理人内田晴康ほかの上告受理申立て理由第5について

1  所論は,事業者が不当な取引制限を行い,それが商品の対価に係るものであるときの課徴金額の算定基礎となる当該商品の売上額(独禁法7条の2第1項)は,具体的な競争制限効果が日本で発生した商品の売上額に限定されるものと解すべきであるから,国外で引渡しがされた本件ブラウン管の売上額を課徴金額の算定基礎とすることはできない旨をいうものである。

2  独禁法の定める課徴金の制度は,カルテルの摘発に伴う不利益を増大させてその経済的誘因を小さくし,カルテルの予防効果を強化することを目的として,既存の刑事罰の定め(同法89条)やカルテルによる損害を回復するための損害賠償制度(同法25条)に加えて設けられたものであり,カルテル禁止の実効性を確保するための行政上の措置である(最高裁平成14年(行ヒ)第72号同17年9月13日第三小法廷判決・民集59巻7号1950号参照)。また,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令は,同法7条の2第1項を受けて,課徴金額の算定基礎となる売上額の算定方法について定めるが(5条及び6条),その中に国内で引渡しがされた商品の売上額に限る旨の定めはない。

前記第2の3のとおり,本件の事実関係に鑑みれば,本件合意は,我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。そうすると,上記の課徴金制度の趣旨及び法令の定めに照らせば,本件ブラウン管の引渡しが国外で行われていたとしても,その売上額が課徴金額の算定基礎となる当該商品の売上額に含まれないと解すべき理由はない。

3 したがって,本件合意の対象である本件ブラウン管が現地製造子会社等に販売され日本国外で引渡しがされたものであっても,その売上額は,独禁法7条の2第1項にいう当該商品の売上額に当たるものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。

第4結論

以上によれば,論旨はいずれも採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充 裁判官 林景一)

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