最高裁判所第三小法廷 平成4年(オ)111号 判決 1994年6月21日
上告人
音戸町
右代表者町長
中野孝義
右訴訟代理人弁護士
恵木尚
渡辺直行
被上告人
元谷訓三
右訴訟代理人弁護士
鶴敍
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人恵木尚、同渡辺直行の上告理由第一点について
原審が適法に確定した事実関係の下においては、上告人の町議会が、議員である被上告人に対し、被上告人が上告人所有の土地を不法に占拠しているとして議員辞職勧告決議等をしたことが、被上告人に対する名誉き損に当たるとしてされた本件の国家賠償請求は、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に当たり、右決議等が違法であるか否かについて裁判所の審判権が及ぶものと解すべきである。論旨は採用することができない。
同第二点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)
上告代理人恵木尚、同渡辺直行の上告理由
第一、司法権の限界について
本件議員辞職勧告決議等は、地方議会の内部規律に関する問題であって、そもそも司法権は立ち入るべきでない。
地方議会においては、その内部に妥当な自律的な規範が存在するのである。被上告人は、音戸町議会の議員にある立場でありながら、公人として、町民から信託された音戸町有地を保全する立場にありながら、これを侵害したものである。
しかも、本件議員辞職勧告決議等は、被上告人の議員資格を剥奪するものではなく、単に議会としての議会人に対する意見表明であることを考慮するならば、なおのこと議会の内部規律に委ね、司法権が介入すべきではないのである。
右の点は、裁判所の職権調査事項でもあるのである。
なお、最判三小法廷昭和五六年四月七日判決、民集三五・三・四三三は、三権分立の観点から言えば本件と同様の問題を含んでいるものである。
<以下省略>