最高裁判所第三小法廷 平成7年(オ)1747号 判決 1999年2月23日
上告人
門宏明
上告人
酒井研二
右両名訴訟代理人弁護士
久岡英樹
久岡眞佐代
被上告人
正木啓之
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
小沢礼次
被上告人
飯田義輝
右訴訟代理人弁護士
川西譲
主文
一 原判決中、上告人らの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分を破棄する。
二 前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
三 上告人らのその余の上告を却下する。
四 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人久岡英樹、同久岡眞佐代の上告理由第一点について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人らと被上告人らは、平成二年一一月ころ、一口一〇〇万円の出資をして共同でヨットを購入し、出資者が会員となり、ヨットを利用して航海を楽しむことなどを目的とするヨットクラブ(以下「本件クラブ」という。)を結成する旨の組合契約(以下「本件契約」という。)を締結した。なお、本件契約には、本件クラブの存続期間についての定めがない。
2 上告人らと被上告人らは、本件契約に基づいて合計一四口の出資をし(上告人らの出資口数は各二口である。)、平成三年一月三〇日、ヨット一隻(以下「本件ヨット」という。)を一四〇〇万円で購入した。
3 本件契約の内容となる本件クラブの規約には、会員の権利の譲渡及び退会に関して、「オーナー会議で承認された相手方に対して譲渡することができる。譲渡した月の月末をもって退会とする。(これは、不良なオーナーをふせぐ為である。)」との規定(以下「本件規定」という。)がある。
4 本件規定が設けられたのは、本件クラブが、資産として本件ヨットを有するだけで、資金的・財政的余裕がなく、出資金の払戻しをする財源を有しないこと、本件クラブでは、会員の数が少ないと月会費や作業の負担が増えるので、会員の数を減らさないようにする必要があることによるものである。
二 上告人らは、本件において、被上告人らに対し、本件ヨットの係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金並びにこれらに対する遅延損害金のほか、平成三年八月に被上告人らに対して本件クラブから脱退する旨の意思表示をしたとして、当時の本件ヨットの時価額を各上告人の出資割合に応じて案分した額の組合持分の払戻金及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ請求している。上告人らは、右意思表示をしたことにはやむを得ない事由がある、本件規定が会員の権利を譲渡する以外の方法による本件クラブからの任意の脱退を認めない趣旨であるとすれば、本件規定は公序良俗に反する、と主張している。
三 前記事実関係の下において、原審は、次のとおり判示して、上告人らの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却すべきものと判断した。
1 本件規定は、本件クラブからの任意の脱退は、会員の権利を譲渡する方法によってのみすることができ、それ以外の方法によることは許されない旨を定めたものである。
2 本件規定が設けられたことには、一4のとおり合理的な理由がある上、本件クラブの会員は、やむを得ない事由があるときは、本件クラブの解散請求をすることもできる。したがって、本件規定は、公序良俗に反するとはいえず、有効であり、上告人らが被上告人らに対して脱退の意思表示をしてもその効力を生じないから、その余の点について判断するまでもなく、上告人らの持分払戻金請求は理由がない。
四 しかしながら、原審の右三2の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
1 民法六七八条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である。けだし、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべきだからである。
2 本件規定は、これを三1のとおりの趣旨に解釈するとすれば、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さないものとしていることになるから、その限度において、民法六七八条に違反し、効力を有しないものというべきである。このことは、本件規定が設けられたことについて一4のとおりの理由があり、本件クラブの会員は、会員の権利を譲渡し、又は解散請求をすることができるという事情があっても、異なるものではない。
五 右と異なる見解に立ってやむを得ない事由の存否について判断するまでもなく上告人らの被上告人らに対する脱退の意思表示が効力を生じないものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨の論旨は理由があり、原判決中、上告人らの組合持分払戻金及びこれに対する遅延損害金の支払請求を棄却した部分は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れず、やむを得ない事由の存否等につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分を原審に差し戻すこととする。
なお、上告人らは、原判決中、上告人らの被上告人らに対する立替金及びこれに対する遅延損害金の支払請求に係る部分について、上告理由を記載した書面を提出しないので、右部分に対する上告は、不適法であって、却下を免れない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官尾崎行信 裁判官園部逸夫 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)