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最高裁判所第三小法廷 平成8年(オ)484号 判決 2000年3月21日

上告人 浅井正

被上告人 国ほか三名 代理人 田中雅幸

参照=

第一審 名古屋地裁 平成二年(ワ)第三九〇号 平成六年七月八日判決

第二審 名古屋高裁 平成六年(ネ)第五一八号、同第五二二号 平成七年一〇月一八日判決 訟務月報四三巻一号六一六ページ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人大脇保彦、同戸田裕三、同後藤脩治、同粟飯原友義、同飯野紀夫、同伊神喜弘、同五十嵐二葉、同上田國廣、同上野勝、同内田雅敏、同遠藤憲一、同大迫唯志、同梶山公勇、同角山正、同藏冨恒彦、同小林美智子、同斎藤利幸、同笹田参三、同幣原廣、同末永睦男、同菅原一郎、同高野隆、同高野嘉雄、同竹内浩史、同武井康年、同竹之内明、同立松彰、同谷田豊一、同出口崇、同富澤秀行、同野島幹郎、同萩原猛、同畑純一、同林敏彦、同原田紀敏、同福井悦子、同福島康夫、同古田邦夫、同松井健二、同美奈川成章、同宮國英男、同森下文雄、同矢澤昌司、同安武幹雄、同柳沼八郎の上告理由第一点について

刑訴法三九条三項の規定が憲法三四条前段、三七条三項、三八条一項に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり(平成五年(オ)第一一八九号同一一年三月二四日大法廷判決・民集五三巻三号五一四頁)、論旨は理由がない。

二  同第二点について

刑訴法三九条三項の規定は市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号)一四条三項(b)及び(d)に違反するものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

三  同第三点中、上告人と本件被疑者との接見を中止させたことの違法性をいう点について

原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  上告人は、昭和六一年一〇月七日午前一一時五〇分ころ、愛知県警察熱田警察署警務課留置管理係留置管理室に赴き、児玉巡査部長に対して、本件被疑者と二〇分間接見したい旨申し出た。

2  児玉巡査部長は、直ちに本件被疑者について接見の日時等を指定する権限を有する名古屋地方検察庁の柳検察官に電話で連絡を取ろうとしたが、同検察官が席を離れていたため、午後零時三分ころ再度同検察官に電話し、上告人と協議するよう求めた。

3  柳検察官は、上告人に対し、「接見指定の要件等を検討するため、しばらく待ってほしい。折り返し留置係又は捜査係に連絡する。」旨述べた上、接見指定書の受取り、持参に協力するよう要望したところ、これを拒否した上告人との間で合意をみないまま、午後零時一〇分ころ電話による話合いを終えた。

4  児玉巡査部長と入れ替わりに留置管理室に戻った有島留置管理係長は、留置管理室にいた上告人を見て、既に口頭で検察官の接見指定を受けたものと誤解し、上告人に接見の意思を確認した上、午後零時二〇分ころから本件被疑者との接見を開始させた。

5  柳検察官は、本件被疑事件の捜査本部に本件被疑者の取調べ状況などを照会して、午後一時から取調べの予定があり無制約に接見を認めると捜査に支障を来すから、接見の日時等を指定する要件があると判断し、午後零時三〇分ころ、捜査本部の内村警部補に電話して、「本日午後一時から三時までの間の二〇分間接見を認めることにしたいので、上告人にその旨伝達してほしい。」と指示した。

6  内村警部補が右の柳検察官の指示の趣旨を上告人に伝えるために留置管理室に赴いたところ、上告人が既に本件被疑者との接見を開始していることが判明し、その旨捜査主任官である野見山警部を通じて報告を受けた同検察官は、午後零時三五分ころ、右接見が開始されてから既に同検察官において指定しようとしていた接見時間におおむね見合う時間が経過していたので、その中止を求めても実質的にも問題はないと判断して、野見山警部に対し、右接見を中止させるよう指示した。

7  野見山警部の指示を受けた有島係長は、午後零時三五分過ぎころ、接見室にいた上告人に対して接見の中止を求め、上告人は、これに従って接見室を出たが、接見を中止させられたことに対して抗議したり、接見の継続を求めたりせずに、熱田署を退去した。

右の事実関係の下では、柳検察官において上告人と本件被疑者との接見について日時等を指定する要件があったものというべきところ、上告人は、同検察官が右要件の存否について検討するために上告人を待機させている間に、過誤に基づいて接見を開始したものであり、その後同検察官は、接見の日時及び時間を当日の午後一時から三時までの間の二〇分間とする指定をしようとしたが、右のとおり既に接見が開始され、同検察官が指定しようとしていた時間におおむね見合う時間が経過していたために、これを中止させたものであり、上告人は、有島係長が過誤に基づいて接見を開始させたことを知り得、同検察官が接見の日時等を指定すればこれを中止せざるを得なくなることを予想し得たものであるから、同検察官の右の措置をもって違法ということはできないし、また、上告人は、既に右のとおり本件被疑者と接見していたこともあって、右の措置に対して抗議したり、接見の継続を求めたりせずに、そのまま熱田署を退去したのであるから、同検察官が、右中止後、上告人と接見に関する協議をせず、上告人に対して改めて接見の日時等を指定しなかったことにより、上告人と本件被疑者との接見交通を違法に妨害したものともいえない。これと同旨に帰する原審の判断は是認するに足りる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

四  その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田昌道 千種秀夫 元原利文 金谷利廣)

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