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最高裁判所第三小法廷 平成8年(行ツ)151号 判決 2000年3月14日

埼玉県三郷市<以下省略>

上告人

東京もち株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

小宮山勇二

東京都千代田区<以下省略>

被上告人

公正取引委員会

右代表者委員長

根來泰周

右指定代理人

粕渕功

右当事者間の東京高等裁判所平成6年(行ケ)第232号審決取消請求事件について、同裁判所が平成8年3月29日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小宮山勇二の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件審決に上告人主張のような手続的違法及び裁量権の濫用、その範囲逸脱の違法がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づき又は原判決を正解しないで原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

(平成8年(行ツ)第151号 上告人 東京もち株式会社)

上告代理人小宮山勇二の上告理由

第一聴聞手続の瑕疵について

一、 上告人(及びその他3社)に対する排除命令は平成5年2月25日に行われ、同日被上告人は記者会見でこれを発表し、同日の夕方以降テレビ等で報道されるとともに翌日の新聞にも掲載された。

不当表示行為に対する排除命令の内容は不当表示行為を行っていた旨を公示することにありその公示のし方は被処分者の費用をもって日刊紙に所謂新聞広告する方法が被上告人の認める公示方法である。ところが排除命令が出された途たん前記のとおり報道機関に発表され報道機関が一せいにこれを報道するため、事実上排除命令の内容が即日実現される、即ち事実上の強制執行(直接的行政強制)が為される。

上告人は本件排除命令及び審決についてとうてい承服しがたいのは、法制度としては被処分者である国民の利益に対する配慮をしつつ一応の整合性をもって制定されている景品表示法を、運用する側の行政庁が恣意的にかつ濫用的に適用しているからである。

したがって「聴聞手続の瑕疵」の評価は前述のとおりの景品表示法の運用実態との関連においてまた行政手続法制定の趣旨との関連においても考えるべきである。原審判決は審決は当初の排除命令とは別な新たな処分であるという形式論を貫いているが原処分である本件排除命令が事実上強制執行されている以上、右形式論には承服できない。被上告人の景品表示法の運用は、憲法31条の適正手続条項に違背したものと言わざるを得ない。

二、 また仮に審決は原処分の瑕疵を承継しない新たな処分であるといっても、これは統治する側の言い分であり原処分たる本件排除命令の段階で既に強制執行されたと同じ状況を作出された被処分者の不利益を全く等閑視した判断である。仮に審判制度の審判の対象が不当表示行為の有無であり、排除命令の当否ではなく、聴聞手続の瑕疵の存否も審判の対象になる余地はないのならば制度上聴聞手続が適正に行使されることを担保するものは全くないことになり、聴聞手続制度そのものの存在意義がないことになる。これは正に制度そのものが憲法の保障した適正手続条項に違反していると言わざるを得ない。

三、 また原判決の審決制度そのものに対する解釈には疑義がある。行政事件訴訟法第1条2項によれば本件のように審決だけを争える行政訴訟においては原処分の違法性も主張しうることになっており、審判制度が準司法的手続であるとはいえ、行政処分の一種であることに変わりない以上、右原則が適用さるべきである。さらに審判対象についても不当表示行為と限定する根拠は乏しく所謂訴訟物的なものを観念する場合は既に出された排除命令の違法性の有無と考えるべきである(審理の実態も)。

審判手続の準司法的側面からいえば審判手続は司法手続における事実審と同じでありしたがって後述するとおり、審判の対象を不当表示行為とした上で主張・立証責任を論じる原判決には疑義が大いにある。排除命令は審判を請求しなければ確定し執行力も生じる正式な行政処分でありまた確定しなくても被上告人が対外的に発表して社会的制裁を加える行政処分であるからである。

第二被審人に不利益な事情の開示について

排除命令であれ審決であれそれが確定すれば罰則によってその実行性が担保された被処分者にとって重大な不利益を及ぼす行政処分である(所謂講学上の侵害的行政行為である)。

また、景品表示法4条1項の構成要件該当事実が存在すれば必ず排除命令あるいは被上告人が為した審決のような排除措置がとられるものでもなく、事案によっては警告にとどめられる場合もある。

警告にとどめるか排除命令を出すか審決によって、排除措置をとるかは、事案の内容によって分かれるはずであり、この事案の内容こそ別の表現をすれば被処分者(被審人)にとっては不利益に斟酌される事情である。

不利益に斟酌される事情は開示されなければ、被処分者(被審人)において防禦する術はない。審判手続における審査官側の審判手続進行態度は隠せるものはすべて隠し通そうという態度に終始しており、被審人の実質的防禦権を妨害するに等しい行動をとった。原判決は右事情をも無視し何ら理由らしき理由も付さずに構成要件的事実のみを告知すれば足ると判断するが(原判決23、24頁)<編注・審決集42巻465頁>、右は被審人に保障されている適正手続条項の意味、趣旨の解釈を誤ったものであり、この点のみを捉えても原判決は破棄さるべきである。

第三裁量基準を定立しないことの違法について

一、 排除命令あるいは審決により排除措置が裁量処分であることは明白である。

ところで原判決は被上告人が排除命令をし又は排除措置を命じるについて裁量基準を定立する必要がない理由として①機動的・迅速に規制権限を行使するものであること②広い裁量権が付与されていること③景品表示法が規定を設けていないことをあげている(原判決27頁 28頁)<編注・同466頁、467頁>。

しかしながら右3つの理由は正当な理由付に全くなっておらず、この点原判決は判決の遺漏(脱漏)にも近い理由不備の瑕疵ある判決と言わざるを得ない。なんとならば、まず機動的・迅速な権限行使と広い裁量権とがあるからこそ裁量権の行使を自己統制することが必要になるのは自然の理であり、その自己統制の方法として内部的に裁量基準を定立しこれを適正に運用すべき責務が生じる。したがって原審の示した①②の理由は裁量基準を定立しなかったことの違法性を根拠づける理由にこそなれ、その合理性を理由づけるものにはなろうはずがない。なお念のためいえば本件は被上告人が上告人に立入調査を実施してから排除命令が出るまでに約13ヶ月、審決による排除措置が出るまでに約34ヶ月かかっている。

二、 また法が明文をもって要求していないことも全く理由にならない。

長年の判例理論によって裁量基準の定立は条理として理解されており、先般行政手続一般の通則として制定された行政手続法によっても条理は再確認されている。

したがってこの点についての原判決には法令の解釈を誤った違法がある。

第四主張責任・立証責任について

一、 原審の判断は、つまるところ審判手続における審判対象が不当表示行為の存否に限定されるという前提から、裁量権の濫用の主張・立証の責任を上告人が負うべきだとするならば、公正取引委員会の主催する審判手続制度は国民の正当な裁判を受ける権利を奪う違憲な制度であると言わざるを得ない。

二、 まず何よりも審判手続における審理の実態が原判決の言うような「不当表示行為の存否に限定」されているものではない。本件は上告人は初めから不当表示行為の存在は認めており、したがって原判決の考えによれば本件については実質的審理は不要であったことになる。しかるに実態はそうではない。原判決も引用する独禁法52条1項により、被処分者は不利益処分を受けないために処分の不当性・違法性を主張立証する。したがって審理の対象は不当表示行為の存否と処分の違法性・不当性の存否の双方である。原審判決の判断は実態を無視した形式論にすぎない。

三、 ところで審判手続は対審構造をとり当事者主義・弁論主義の下に施行され、司法審査における第1審(事実審)と同様な役割をになっている。正式な司法審査(本件第1審)では実質的証拠法則が適用され事実主張ができない点からいえば、争う側の国民から見れば通常の司法審査の第1審よりもはるかに負担の重く大きい制度である。

そこで右のような制度の特殊性と行政争訟における国民側の負担の大きさ(行政側が持つ証拠へのアクセスの困難さ等)からして裁量処分における裁量権濫用の主張・立証責任は行政庁が負うべきであり(審判における審判長自身も明言している)、原審の判断は主張責任・立証責任の分配法則の解釈を誤った判断というべきである。

第五裁量権の濫用を窺わせる事実について

一、 原判決の判決理由中(原判決5頁以下)<編注・同459頁以下>の事実摘示には疑問がある。

上告人が審判手続において主張した「事実誤認に基づく他事考慮」の趣旨は上告人のような個人企業が法人成した会社の代表者が不当表示行為について故意もなく、従前の警告や、指導を受けることなく、したがって悪質性もないのにこれを誤認して処分するのは不当であるということであり過失犯も処分(処罰)するのが法の趣旨でありかつ被上告人の運用なのか(裁量基準の定立に運用の不備の指摘をも含む主張である)という疑義の提起であったのにもかかわらず審決はこれに正面から答えなかった。

ところで原判決は法人の代表者の不当表示行為についての認識の有無は排除命令をし又は排除措置を命ずることの当否に影響ある事由とはいえないと判断しているが(原判決48頁9行目以降)<編注・同474頁3行目以降>、これは実態を無視した判断である。上告人は審判手続の冒頭において排除命令と警告の処分の分れ目は何かを求釈明したが被上告人はこれに答えることが自らの不利になることを慮って釈明に応じなかった。しかしながら不当表示行為に対する認識(故意)及び継続反復性が処分の軽重に重大な影響を与えることは誰の目にも明らかであり、現に上告人は「きねつき」「うるち米混入」の点については右2つの要素の両方あるいはいづれか一方が欠けているため警告を受けたにとどまった。

右のとおり運用の実態からしてもまた条理からしても原判決の判断は経験則論理則に反したものといえる。

二、 なお上告人は裁量権の恣意的行使の事実を複数主張しこれらが一体となって裁量権濫用を窺わせる事実を主張・立証するための活動をしたものであるが、本来上告人の主張する主張・立証責任の分配からすれば上告人には必要ないものである(被上告人こそ裁量権を適正に行使した事実を主張・立証すべきである)。したがって他の裁量権濫用を窺わせる事実の主張に対するものも含め右事実がないことを判断する原判決は理由不備の違法をも犯している(その原因は主張立証責任の分配法則の解釈を誤ったからに他ならない)。

三、 動機の不正について

本件事件の端緒は上告人代表者の実兄による所謂利用告発であることは明らかであり、本来上告人は利用告発によっては調査を開始しないのが通常であるのに何故通例と異なる調査を開始したのかその動機が不明であり被上告人が調査の端緒等を明らかにしない以上また後述のうるち米混入を不問に付した点についての事情を明らかにしないことと相まって不正な動機をもって排除措置をとったと評価されてもやむを得ない。前述のとおり被上告人において不正な動機によらないことを主張、立証すべきであった(手続の根拠を開示し批判にさらすべきであった)。

原判決の判断は、主張立証責任の分配法則の誤りに引きずられたものであり理由不備である。

四、 平等原則違背の主張についての判断についても右同様の不備がある。

五、 うるち米混入を不問に付した点についての判断について

この点についての原判決の判断はその判断理由が全くないに等しく判断の遺漏(脱漏)といっても過言でない。右の点は重要な争点であり、これのみでも裁量権の恣意的行使を窺わせるに十分たる事実であるのにもかかわらず、原審は判断を避けている。したがって原審判決はこの点だけでも破棄さるべきである。

以上

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