最高裁判所第三小法廷 平成9年(あ)449号 決定 1998年3月03日
本店所在地
徳島市住吉四丁目一二番二〇号
株式会社 大協ハウス工業
右代表者代表取締役
山田カヨ子
本籍
徳島市住吉四丁目三一六番地の五
住居
徳島市住吉五丁目六番六号
会社員(元会社役員)
山田孝
昭和二二年五月五日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成九年三月二七日高松高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人両名の弁護人中田祐児の上告趣意は、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 尾崎行信 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)
上告趣意書
被告人 株式会社 大協ハウス
被告人 山田孝
右の者らに対する御庁平成九年(あ)第四四九号法人税法違反被告事件について、弁護人は次のとおり控訴の趣旨を申し述べます。
平成九年六月二五日
右弁護人 中田祐児
最高裁判所 御中
記
一、原判決の豊永宗雄及び稼勢一俊に対する給与についての判断が事実誤認に基づくものであることについて
1、原判決は、一審判決と同様、豊永宗雄及び稼勢一俊に対する給与について被告人会社が平成元年度から平成三年度にかけて給与の水増しを行なっていた事実を認定し、水増し分を脱税したものと判断している。
すなわち、豊永宗雄については、月額四〇万三〇〇〇円を支給していたと申告しながら、実際に支給していたのは月額二六万円であり、その差額一五七万三〇〇〇円(平成元年度)もしくは一七一万六〇〇〇円(平成二年度及び平成三年度)を脱税したというのである。
また、稼勢一俊についても、月額五〇万三〇〇〇円を支給していたと申告しながら、実際に支給していたのは月額二四万円であり、その差額三一五万六〇〇〇円を平成元年度から平成三年度にかけて脱税したというのである。
2、しかしながら、右において実際に支給されたという豊永宗雄の月額二六万円、稼勢一俊の月額二四万円という金額は全く何の根拠もない数字なのである。すなわち、本件税務調査の過程において、調査官から被告会社に対し豊永及び稼勢について給与の支払明細書が二種類存在していたことから、給与の水増しがあると決めつけられ、税務調査の最終段階において調査官から会社において適当な金額を書いて出すよう示唆があり、その結果右金額を書き出したものにすぎないのであって、そもそもその数字には何の根拠もなく、被告会社において適当に考えたものにすぎないのである。そして、調査官も右事実を知りながら、右金額を実際の支給額として考えて差額を水増し額として脱税額を計算しているのである。
豊永と稼勢のそれぞれについて給与の支払明細書が二種類作られているのは、同人らにおいて家族に見せるためのものを作って欲しいの申出によるものであり、被告会社の都合によるものではないのである。同人らは少なく記載された給与明細書を妻に見せ、実際の支給額との差額を自由に使える金額として留保していたものなのである。
豊永及び稼勢に対しては、徳島銀行助任支店の同人らの口座にそれぞれ現実に給与が振込まれているのであって、その額は申告額から健康保険料等を差引いた差額なのであり、前記の二六万円ないし二四万円を基準とするものではない。
3、被告らは、二審になって、豊永及び稼勢について徳島市長及び勝浦町長の所得証明書を提出した。これらによれば、本件で問題とされている時期において、豊永及び稼勢について、被告人らが主張するのとほぼ同額の所得の申告がなされている事実が明らかなのである。
しかも、これに豊永及び稼勢に対する給与額が銀行振込みとされている事実及び前記のとおり豊永につき月額二六万円、稼勢につき月額二四万円という額には何の根拠もないことを考え合わせるならば、同人らに対する給与は被告人ら主張の如き金額が支払われていたものと判断すべきなのであり、原判決は、明らかな事実誤認をしているものというべきであり、取消しを免れない。
二、原判決の「圧縮」についての判断も事実誤認をしていることについて
1、被告会社が平成元年から平成三年にかけて行なった不動産取引において圧縮がなされている。
その内容は別紙一覧表のとおりであり、その額は一八三八万円に及んでいる。この額は被告会社にとっては同額の経費を必要としたと言うことになるはずであり、本件脱税額の減額要素となる。
原判決は、この点についても一審判決と同様、右の圧縮の事実を全く認めようとしなかったものであるが、被告会社に不動産を売却した者にとって本件の圧縮は脱税行為であり、同人らが素直にこれを認めるはずのないことであって、同人らの供述のみを一方的に信用すべきではないのである。
2、以下別紙一覧表について被告人らの主張をまとめると次のとおりである。
(一)、北島町江尻の土地について
この取引によって得られた八六五万円の利益の全額を村上不動産が取得しているものであり、被告人らは村上不動産に迷惑がかかるのを最小限にとどめるため四〇〇万円しか同社に渡さなかった旨調査官に説明したのである。
(二)、川内町平石の土地について
この取引について被告会社は購入時に七〇万円、売却時に一〇三万円の仲介手数料を支払ったのに、これが経費として全く認められていないのである。本件の記録を検討してみても仲介手数料が経費として認められていないが、不動産取引の常識では考えられないことである。
(三)、南沖洲一丁目の土地について
本件取引においては記録上三六万円の仲介手数料が支払われている事実が明らかである。仲介手数料は三パーセントであるから、取引価格は一二〇〇万円であると推測され、坪当り六万円合計二八二万円の圧縮がされている事実が明らかである。
(四)、北島町鯛浜の土地について
これについても仲介手数料が五九万六〇〇〇円支払われており、この金額から推測すれば坪当り六万円、合計四六二万円の圧縮が行なわれている事実が明らかである。
(五) 別紙一覧表3の四筆の土地売買については右に述べたとおり仲介手数料から逆算するなどして圧縮額を示すことはできないが、仲介業者を証人尋問すれば圧縮の事実を明らかにすることができたのであり、原審で小西昌信外の証人申請を行なったものであるが、これらを全て却下してしまったものである。
その結果、事案の真相を明らかにすることができず、原判決の事実誤認に結びついたものである。
しかしながら、被告人山田孝らが詳述する如く、本件において売買金額の中に圧縮分が存在することがあることは明らかであり、なお御庁において詳細に記録を御検討の上適切妥当な御判断を求めるものであります。
以上
別紙圧縮額相違一覧表
<省略>