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最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)215号 判決 1998年10月13日

東京都千代田区<以下省略>

上告人

トッパン・フォームズ株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

土屋公献

高谷進

川崎隆司

小林哲也

小林理英子

加戸茂樹

五三智仁

高橋謙治

東京都千代田区<以下省略>

被上告人

公正取引委員会

右代表者委員長

根來泰周

右指定代理人

粕渕功

右当事者間の東京高等裁判所平成8年(行ケ)第179号、第188号、第189号審決取消請求事件について、同裁判所が平成9年6月6日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人土屋公献、同高谷進、同川崎隆司、同小林哲也、同小林理英子、同加戸茂樹、同五三智仁、同高橋謙治の上告理由第2について

本件カルテル行為について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件において上告人に対する罰金刑が確定し、かつ、国から上告人に対し不当利得の返還を求める民事訴訟が提起されている場合において、本件カルテル行為を理由に上告人に対し同法7条の2第1項の規定に基づき課徴金の納付を命ずることが、憲法39条、29条、31条に違反しないことは、最高裁昭和29年(オ)第236号同33年4月30日大法廷判決・民集12巻6号938頁の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

同第3の2及び4について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、実行期間において引き渡した商品の対価の額を合計する方法ではなく実行期間において締結した契約により定められた対価の額を合計する方法により課徴金の計算の基礎となる売上額を算定し、かつ、その際に消費税相当額を控除しなかったことが違法ではないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

その余の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 金谷利廣)

(上告理由書)

(平成9年(行ツ)第215号 上告人 トッパン・フォームズ株式会社)

上告代理人土屋公献、同高谷進、同川崎隆司、同小林哲也、同小林理英子、同加戸茂樹、同五三智仁、同高橋謙治の上告理由

第一 はじめに

原判決は、上告人の主張を正解せず、あるいは敢えて正面からの判断を回避したものであり、立法の際から指摘されていた課徴金制度の歪みを放置しようとするものである。規制緩和が叫ばれる今日、独占禁止法の果たすべき役割が声高に論じられる中で、課徴金制度の歪みを放置することは、健全なる経済社会の発展を阻害するだけではなく、権利保護の最後の砦である司法権の役割を自ら放棄するものと評価せざるを得ない。

そこで、上告人は以下の理由で上告するものである。

第二 憲法違背

一 憲法39条違背

1 原判決は、「本件審決は、刑事罰及び不当利得返還請求をすでに受けている上告人に対し、同一の事実関係に基づき、さらに加えて課徴金を課している。不当利得返還という現状回復措置を求められている原告に対して課される課徴金は、もはや現状回復措置を超えるものとして、懲罰的制裁にほかならないものである。したがって、原告に対する本件審決の課徴金の賦課は、同一の本件事実関係についての二重処罰にほかならず、憲法39条に違反する運用であり、到底是認されるものではない。」との上告人の刑事罰、不当利得及び課徴金の三者鼎立の場合における違憲の主張を曲解し、敢えて刑事罰と課徴金の賦課という2制度間の憲法39条違反の有無の問題にすり替えているものである。

2 原判決は、独占禁止法における課徴金制度の目的は、「一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって、社会的公正を図るとともに、違法行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたもの」と定義し、その基本的性格は「社会的公正を確保するためのカルテル行為による不当な経済的利得の剥奪」であるとする。

ところで課徴金制度は、その目的を捨象すれば、カルテル行為を行った事業者に対するカルテル行為を契機とした経済的不利益の賦課であることは明らかであり、その意味において制裁としての刑事罰と異なるところはない。また、課徴金が「違法行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたもの」とすれば、それは刑事罰における一般予防的効果にほかならず、やはり制裁としての刑事罰と異なるところはない。課徴金制度が、唯一、制裁としての刑事罰と峻別され、その存立が是認されるのは「一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪する」ものであるからに他ならない。

3 ところが、本件においては、課徴金制度と刑事罰とが峻別される基礎となる『不当な経済的利得の剥奪』が、国による不当利得返還請求訴訟により行われているのである。

課徴金制度によりなされるべき『不当な経済的利得の剥奪』が、国による不当利得返還請求訴訟により行われた場合、課徴金制度に残される意味は『カルテルを契機とした不利益の賦課』でしかあり得ず、それはまさに制裁的意味でしかあり得ない。すなわち、すでに刑事罰により制裁を受けた上告人に課徴金を命じることは、同一事実に基づき再度制裁を加えることになるのである。その意味で原判決は、二重処罰を禁止する憲法39条に違反するものなのである。

この点、原判決は、国の提起した不当利得返還請求訴訟は、未だ一審裁判所において審理中であって未確定であるから、将来の可能性を想定した立論に過ぎず、考慮すべき問題状況は、刑事罰に加え課徴金を賦課することが憲法39条に違反するか否かの判断と異ならないとし、刑事罰、不当利得及び課徴金の三者鼎立の場合の判断を回避している。しかし、原判決の立論では、国の提起した不当利得返還請求訴訟が不当利得の返還を命じて確定した場合に、遡って課徴金賦課の違憲性を論じなければならなくなり、右判断は審決取消請求訴訟の範囲を逸脱したものである。独占禁止法上、同法77条以下の審決取消訴訟において、遡って課徴金賦課の違憲性を論じられるような制度は用意されていないのである。

4 なお、原判決は、課徴金によって剥奪しようとする不当な経済的利得とは、カルテルが行われた結果、その経済効果によってカルテルに参加した事業者に帰属する不当な利得を指し、しかも課徴金は売上額に一定の比率を乗ずる方法によって算出された額を剥奪すべき経済的利得と擬制しているのであるから、返還すべき利得の額が損失の範囲に限られる民法上の不当利得制度とは、趣旨・目的、要件・効果を異にし、さらに課徴金制度により剥奪されるべき不当な経済的利得と不当利得制度により返還すべき経済的利得は重複するものではないとしている。

しかし、擬制されたものとはいえ、課徴金によって剥奪しようとする不当な経済的利得は、国の提起した不当利得返還請求訴訟によって求められている不当な経済的利得に完全に包摂されるものである。この点を誤解し、原判決は、「国が原告らに対し返還を求めている不当利得は、本件シールに係る支払済みの代金額と談合が無かった場合の本件シールの正当な価格との差額である」というが、国の提起した不当利得返還請求訴訟によって求められている不当な経済的利得は、契約無効を前提とする支払金額全額である。右不当利得返還請求訴訟において本件シールの正当な価格との差額が具体的請求となっているのは、本件シールの代価弁償債務との相殺を国が主張しているに過ぎないからなのである。

二 憲法29条、31条違背

本件における課徴金の賦課は、前述のとおり同一事実に基づき再度制裁を加えることになり、二重処罰を禁止する憲法39条に違反するものであるが、それに加えて、上告人の財産権を不当に侵害するものであって、財産権を保障する憲法29条に違反するものであり、さらに適正手続を保障する憲法31条にも悖るものである。課徴金の賦課による「不当な経済的利得の剥奪」は、刑事罰、不当利得及び課徴金の三者鼎立の場合に制裁性を帯び許されないものである以上、それにも関わらず「不当な経済的利得の剥奪」が行われるとすれば、それは財産権の侵害であり、適正手続に違反するものに他ならない。

第三 法令違背

一 独占禁止法7条の2第1項違反(その1)

独占禁止法7条の2第1項は、課徴金の賦課につき、商品又は役務の政令で定める方法により算定した「売上額」に対して100分の6を乗じた額を課徴金として納付を命ずるよう規定している。そして、これを受けた私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(以下「施行令」という)5条は、売上額の算定方法として、実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する方法を定め、例外的に実行期間中に、①対価の額の控除(値引)、②返品の場合の対価額、③割戻金がなされた場合には、売上額から控除する旨定めている。

ところで、原判決は、国の提起した不当利得返還請求訴訟における本件シールの納入契約の無効主張を前提とすれば本件シールの『売上額』は存在しないとの上告人の主張に対し、右『売上額』の算定の際に控除されるべき3つの場合を定めた施行令5条を限定的に解し、「本件カルテルの実行期間中に、国の無効の主張に関連した本件シール納入契約により定められた対価の額の控除も、返品もなされていないのであるから、本件シール納入契約が無効である旨の国の主張は、本件シールの『売上額』の算定に何らの影響を及ぼすものでないことは明らかである」と判断している。

しかし、施行令5条が『売上額』を修正するのは、課徴金制度の実効性を確保するために必要十分な限度を超えないよう公正妥当な経理原則である純売上額を採用したものにほかならない。そうであるとすれば施行令5条の解釈においては、①値引、②返品、③割戻金の場合に限定されることなく純売上額を算定すべきであり、契約の「無効」の場合には施行令5条の①値引、②返品、③割戻金の場合の「勿論解釈」として、『売上額』が修正されるべきである。「無効」とは、絶対的効力の不発生を意味するものであるから、①値引、②返品、③割戻金の場合に比して、より修正の必要が存するのである。

現に、「日本コーンスターチ協会事件」においては、いったん仮価格で引き渡した後、代金決済時に正式価格を決定し、仮価格と正式価格との差額を調整して代金請求を行っていた『対価の修正』につき、施行令5条に列挙されていないにもかかわらず、減額分を課徴金対象『売上額』から控除しているのである。

したがって、原判決には独占禁止法7条の2第1項、施行令5条の解釈を誤った違法があり、また、国が、一方では、本件事実のもと納入契約の無効を主張し、他方では、納入契約を有効として課徴金を賦課するというのは明らかな自己矛盾であり、独占禁止法7条の2第1項に明白に違反するものである。

二 独占禁止法7条の2第1項違反(その2)

1 原判決は、「原告らが本件シール納入契約に基づいて国から支払いを受けた消費税相当額をもって、本件カルテル行為による原告らの現実の『不当な経済的利得』とみることができるかは疑問である」としながら、「一般に、商品の販売の対価とは商品の販売価格を指すもの」であり、上告人らが支払いを受けた消費税相当額は「法定の納期限が到来するまでは原告らの許に留保されている仕組み」であり、課徴金の算定方法として「具体的なカルテル行為による現実の経済的利得そのものとは切り離し、一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗じて算出された金額を、観念的に、剥奪すべき事業者の不当な経済的利得と擬制する立場を採っていること」考慮すると、「原告らに対し納付を命じた課徴金の額を算出するに当たり、原告らが本件シール納入契約に基づいて国から支払いを受けた消費税相当額を『契約により定められた対価の額』(施行令6条)に算入したことの相当性については疑問を払拭し得ないとはいえ、右の取扱いが直ちに独占禁止法7条の2、施行令6条に違反するものとまでは未だ断定することができないというほかない」と判断している。しかし、右原判決の判断は独占禁止法7条の2第1項及び施行令6条の恣意的解釈に基づくものであり、明確に同法に違反するものである。

2 独占禁止法7条の2第1項及び施行令6条には、売上額に消費税相当額が含まれる、あるいは対価の額に消費税相当額が含まれるとは規定されていない。したがって、原判決が指摘するように、問題の焦点は消費税相当額が本件カルテル行為による上告人らの「不当な経済的利得」とみることができるかどうかということになる。

原判決は、「一般に、商品の販売の対価とは商品の販売価格を指すもの」というが、一般論は別として、独占禁止法7条の2第1項及び施行令6条の解釈として「商品の販売の対価」が消費税相当額を含めた「商品の販売価格」といえるということはあり得ない。「対価」とは、商品の交換価値を貨幣によって評価したものであり、これに対して消費税相当額は商品の交換価値とは無関係な税法上の概念にすぎないものなのである。そして、消費税相当額は、商品価格に一定の割合を乗じて画一的に算出されるものであることからすれば、消費税相当額が不当な取引制限に基づく「不当な経済的利得」に該たらないことは明らかである。

また、消費税相当額は「法定の納期限が到来するまでは原告(上告人)らの許に留保されている仕組み」であったとしても、右留保は、上告人の確定的利得となるものではなく、最終的に納期限に国に納付されるべきものであって、「不当な経済的利得」に該たらない。

さらに、課徴金の算定方法が「具体的なカルテル行為による現実の経済的利得そのものとは切り離し、一律かつ画一的に算定する売上額に一定の比率を乗じて算出された金額を、観念的に、剥奪すべき事業者の不当な経済的利得と擬制する立場」が採られているというのは、一定の比率を乗じるべき「売上額」に消費税相当額が含まれるか否かを論じている際の理由とはならないものである。

3 消費税相当額は、原判決が「販売価格のうちの消費税相当額は、その旨が契約書に明記されているのであり、原告らの企業としての規模、組織等にかんがみれば、原告らは、国から支払いを受けた本件シールの販売価格のうちの消費税相当額を、税抜経理方式により、仮受消費税として、売上額とは区別して経理処理したうえ、消費税法の関係規定にしたがって中間申告及び確定申告を行い、所定の消費税を国に納付したものと推認されるところである」と判断するとおり、消費税の転嫁部分であることは明らかなのである。したがって、消費税相当額は当然に商品の対価から除かれるべきものである。

したがって、原判決には独占禁止法7条の2第1項、施行令6条の解釈を誤った違法がある。

三 独占禁止法7条の2第1項違反(その3)

原判決は、株式会社日立情報システムズ(以下「日立情報システムズ」という)が、平成5年(勧)第9号審決において明確にカルテル実行者と認定されているにもかかわらず、同社を、社会保険庁との間の本件シールの売上が存在しないとして、課徴金納付命令の対象からはずしていることは独占禁止法及び施行令に適合するものと判断している。しかしながら、右判断は、カルテルを行った事業者からカルテルによる経済的利得を徴収し、もって違反行為の抑止を図るという独占禁止法7条の2第1項の趣旨に反するものであり、カルテル行為者に対する課徴金賦課の公平さを害する恣意的運用である。

原判決は、「日立情報システムズには、本件カルテル行為の実行期間において、社会保険庁との間で本件シールの納入契約を締結した実績がなく、したがって、独占禁止法7条の2にいう『当該商品』の売上額がなかった」と認定しているが、ここで『当該商品』とは、課徴金対象カルテルの対象とされている商品である(自動火災報知設備工事課徴金審判事件・昭和60年8月6日審決)。すなわち、『当該商品』とは、独占禁止法7条の2にいう「当該行為」の対象とされている商品のことであり、「当該行為」とは、同条でいう「不当な取引制限・・・で、商品若しくは役務の対価にかかるもの又は実質的に商品若しくは役務の供給量を制限することによりその対価に影響があるもの」を指すのである。

したがって、日立情報システムズについて考慮しなければならないのは本件シールに関する課徴金対象カルテルに参加していたかどうかであり、社会保険庁と契約関係が存したかどうかではない。実際にも日立情報システムズは、平成5年(勧)第9号審決において明確にカルテル実行者と認定されているうえに、「回し」という形態により上告人らから本件シールについて「売上」を計上しているのであり、独占禁止法7条の2にいう『当該商品』についての売上額があることになる。日立情報システムズに課徴金を賦課しないことは、独占禁止法7条の2第1項の恣意的運用と言わざるを得ない。

原判決は、上告人らの日立情報システムズに関する主張は、「審決の取消訴訟においては自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることはできない旨を定める行政事件訴訟法10条1項の趣旨に照らし、相当なものであるかどうか疑義があるばかりでなく、被告は、独占禁止法により、同法の定める要件を充足するカルテル行為に関し、当該カルテルに参加した事業者に対して、同法及び施行令の定める算出基準にしたがった所定額の課徴金の納付を命ずることを義務づけられているのであるから・・・中略・・・被告において、本件カルテル行為に参加した一員である日立情報システムズに対して課徴金の納付を命じなかったことの適否によって左右されるものではないから、原告らの右主張は、主張自体として失当というほかない」という。しかしながら、上告人らの本件主張は、原判決が右引用部分中段において自らいうように、被上告人は、独占禁止法により、同法の定める要件を充足するカルテル行為に関し、当該カルテル行為に参加した事業者に対して、同法及び施行令の定める算出基準にしたがった所定額の課徴金の納付を命ずることを義務づけられているのであるから、この義務により、被上告人は日立情報システムズに対し一定の課徴金の納付を命ずるべきであったという上告人らの主張が正しいとすれば、本件カルテルによる不当な利得に対応する課徴金を上告人ら3社だけでなく日立情報システムズを含めて公平に分担すべきこととなり、その結果は、上告人らの負担する課徴金額は減少すべきものであるというのであるから、上告人らの本件主張は、自己の法律上の利益に関係するものであって、これを主張自体失当というのは、明らかに誤っている。ちなみに本件カルテルを認定した審決にしたがい、上告人ら3社及び日立情報システムズに対して課徴金を正しく課する場合、独占禁止法及び同法施行令の定める算出基準をいかに解釈し運用すべきかについては、上告人らは、本件課徴金審判において詳しく主張したところであり、かつ、原審においても、当該主張を援用したところである。

したがって、原判決には独占禁止法7条の2第1項の解釈を誤った違法がある。

四 独占禁止法施行令6条違反

1 独占禁止法施行令6条は、カルテル実行期間に引き渡した商品の対価の合計額とカルテル実行期間に締結した商品の販売の契約に定められた対価の額の合計額との間に『著しい差異を生じる事情があると認められるときは』、課徴金算定の基礎として、施行令5条の引渡基準ではなく、契約基準を採る旨規定する。

ところで、原判決は、施行令6条の『著しい差異が生ずる事情がある』かどうかの判断は、「施行令5条の定める引渡基準によった場合の対価の合計額と契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ずる蓋然性が類型的ないし定性的外形的に認められるかどうかを判断して決すれば足りる」とし、「本件においては、カルテル行為の実行期間における社会保険庁からの本件シールの発注額は時期ごとに均一ではなく、また、契約締結から本件シールの納入期限までの期間も、大部分は2か月半以上のものであり、9か月を超えるものも相当数にのぼる」から、被上告人が「施行令6条にいう『著しい差異が生ずる事情がある』と判断し、同条を適用して本件における売上額を算定した」ことは「施行令6条に反する違法なものと断ずることはできない」と判断している。

しかしながら、施行令6条の『著しい差異が生ずる事情』の有無が、定型的外形的に判断されるべきものとは、明文規定が存在せず、個別具体的な算定結果に基づく判断を排斥する理由に乏しい。また「社会保険庁からの本件シールの発注額は時期ごとに均一ではなく、また、契約締結から本件シールの納入期限までの期間も、大部分は2か月半以上のものであり、9か月を超えるものも相当数にのぼる」から定型的外形的に『著しい差異が生ずる事情』が認められるとは到底考えられない。契約締結から納入期限までの期間が長期間を要したとしても、契約締結及び納入期限が実行期間内であれば、『著しい差異が生ずる事情』が存在しないことは明らかである。ここにおいても、原判決は、施行令6条の恣意的解釈を行っており、施行令6条に違反することは明らかである。

したがって、原判決には、独占禁止法施行令6条の解釈を誤った違法がある。

2 さらに、原判決は、「もともと、原則としての引渡基準、例外としての契約基準といっても、いずれも政令に委ねられた売上額の算定に関する専門技術的な性質を有する基準であって、しかも、施行令6条が規定する『著しい差異が生ずる事情があると認められるとき』という文言自体が一義的に明確な内容のものということはできないから、施行令6条の適用の可否の判断については、行政委員会である被告に一定の範囲で裁量判断の余地があることは否定し得ないものと解される。したがって、審決取消訴訟における司法審査において、裁判所は、右のような被告の専門技術的判断がその裁量権の範囲を超え又は濫用にわたるものと認められない限り、これを違法とすることはできない」と括弧書で施行令6条の適用の有無につき行政裁量を認めている。

しかし、上告人に施行令6条の契約基準を適用し課徴金を賦課することは、実際上も酷であり、「一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって、社会的公正を図るとともに、違法行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられたもの」という課徴金制度の目的から逸脱し、行政委員会である被上告人に与えられた裁量権の範囲を超えたものである。すなわち、施行令6条の適用の場合と施行令5条の適用の場合とで、具体的に算定の基礎となるか否かで差異の生じる本件シールの平成4年9月1日契約分については、社会保険庁は、契約金額は金8億3706万6477円であるにもかかわらず、独自に適正価格と主張する金5億7992万2044円を平成5年3月30日に東京法務局に供託し、契約金額との差額金2億5714万4433円は弁済されていない。しかも、平成4年9月1日契約分の本件シールの納入は、カルテル終了後のものであるが、社会保険庁の懇請によりなされたものである。したがって、本来、平成4年9月1日契約分の契約金額と実際の弁済額との差額金2億5714万4433円については、上告人には何らの『不当な経済的利得』は存しないのである。

以上から、原判決が、施行令6条の契約基準を適用することを違法でないと判断していることは、『不当な経済的利得』が存しないところから『不当な経済的利得』を剥奪しようとするもので、行政委員会である被上告人に与えられた裁量権の範囲を超えたものであることは明らかである。この意味からも原判決には独占禁止法施行令6条の解釈を誤った違法がある。

以上

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