最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)233号 判決 2004年3月02日
平成9年(行ツ)第233号上告人・
東京都知事
同第234号被上告人
石原慎太郎
同指定代理人
中村次良
平野善彦
直井春夫
石澤泰彦
平成9年(行ツ)第233号被上告人・
税金を監視する会
同第234号上告人
同代表者代表世話人
A
同訴訟代理人弁護士
三宅弘
近藤卓史
井上曉
中島信一郎
福田知子
主文
1 原判決中別紙文書目録7の(1)及び(2)の部分に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、同部分に関する平成9年(行ツ)第233号被上告人・同第234号上告人の訴えを却下する。
2 原判決中別紙文書目録5の(1)、(2)、(3)及び(4)の部分に関する部分を破棄し、同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
3 原判決中別紙文書目録6の(3)及び(6)の部分に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、同部分に関する平成9年(行ツ)第233号被上告人・同第234号上告人の請求を棄却する。
4 原判決中別紙文書目録6の(2)及び(5)の部分に関する部分を破棄し、同部分につき平成9年(行ツ)第233号被上告人・同第234号上告人の控訴を棄却する。
5 平成9年(行ツ)第234号上告人のその余の上告を棄却する。
6 第1項及び第3項に関する訴訟の総費用、第4項に関する控訴費用及び上告費用並びに前項に関する上告費用は、平成9年(行ツ)第233号被上告人・同第234号上告人の負担とする。
理由
第1 事案の概要
1 本件は、平成9年(行ツ)第233号被上告人・同第234号上告人(以下「1審原告」という。)が、東京都公文書の開示等に関する条例(昭和59年東京都条例第109号。以下「本件条例」という。なお、本件条例は平成11年東京都条例第5号により全部改正された。)に基づき、本件条例所定の実施機関である平成9年(行ツ)第233号上告人・同第234号被上告人(以下「1審被告」という。)に対し、昭和63年4月から平成2年6月までの東京都知事(以下「知事」という。)の交際費に関する支出命令書、現金出納簿(以下「本件出納簿」という。)及び「交際費の支出について」と題する書面(以下「本件支出書面」といい、本件出納簿と併せて「本件各文書」という。)の開示を請求したところ、1審被告が、同年7月26日、支出命令書についてはこれを開示したが、本件各文書については、本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報が記録されているとして、これを全部非開示とする決定(以下「本件処分」という。)をしたため、1審原告がその取消しを請求する事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
(1) 本件条例9条は、「実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかた該当する情報が記録されているときは、当該公文書に係る公文書の開示をしないことができる。」と定めており、その2号には、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。イ 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報 ロ 実施機関が作成し、又は取得した情報で公表を目的としているもの ハ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は取得した情報で、開示することが公益上必要であると認められるもの」と規定され、その8号には、「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、大学の教育若しくは研究の自由が損なわれるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」と規定されている。
(2) 東京都(以下「都」という。)における知事の交際費については、知事室副室長が月初めにまとめて毎月の所要額の資金前渡を受け、交際事項が発生するごとに個別に決定して執行している。知事の交際費に係る支出内容は、次の支出項目に分類されており、その具体的使途はそれぞれ掲記のとおりである。
ア 「慶祝」 結婚祝い、誕生祝い、ほう章・叙勲祝い、当選祝い、定期大会、周年行事、優勝等の祝事への祝い金、祝い品等
イ 「弔慰」 通夜、葬儀、告別式、法事及び慰霊祭への香典、供花等
ウ 「餞別」 退任者及び転勤者へのせん別金、記念品等
エ 「見舞」 病気、事故等への見舞いの品物等
オ 「会費」 送別会、就任祝賀会、レセプション等の会費等
カ 「謝礼」 中元及び歳暮の物品等
キ 「接遇」 折衝、懇談等への料理、弁当等
ク 「雑」 上記いずれの分類にも属さないもの(具体的には、出張の際の手土産、記念品、差し入れ等)
(3) 本件出納簿は、資金前渡を受けた者が現金の出納を整理するため備えである帳簿である。その様式は第1審判決別紙一のとおりであり、「年月日」、「摘要」、「受」、「払」、「残」の各欄に知事の交際費に関する現金の出納状況が記載されている。このうち摘要欄には、上記の支出項目(慶祝、弔慰等)並びに交際の相手方の個人の氏名、役職名及び肩書又は交際の相手方の団体名が記載されている。
本件支出書面は、知事の交際費の支出について、1件ごとに領収書又は支払証明書を添付し、毎月、知事に報告する文書である。本件支出書面には、上記支出項目のうち「弔慰」に関する供花・香典用とそれ以外の支出項目に関する一般用の2通りがある。一般用の様式は第1審判決別紙二のとおりであり、「購入物品(品目銘柄、単価、数量)」、「購入月日」、「購入先」、「使途」、「支払月日」、「支払金額」等の各欄に該当する記載があるほか、その使途欄には支出項目並びに交際の相手方の個人の氏名、役職名及び肩書又は交際の相手方の団体名が記載されている。供花・香典用の様式は同別紙三のとおりであり、「物故者」欄に物故者の肩書又は供進を必要とする事由、氏名等が記載されているほか、「供花(種類、数量、1基の値段)」、「香典(金額)」の各欄に該当する記載がある。
(4) 本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち本件処分において本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報に該当するとされたものは、本件出納簿に関しては摘要欄に記載された相手方の個人の氏名、役職名及び肩書により、本件支出書面に関しては使途欄に記載された相手方の個人の氏名、役職名及び肩書又は物故者欄に記載された事項により、交際の相手方である特定の個人が識別されるものである。また、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち本件処分において本件条例9条8号所定の非開示情報に該当するとされたものは、本件出納簿に関しては摘要欄に、本件支出書面に関しては使途欄に、それぞれ相手方の団体名が記載されている(後記のとおり、本件処分については原判決後にその一部を取り消す公文書一部開示決定がされており、以下において、「本件各文書」というときは、上記公文書一部開示決定によってもなお非開示とされている部分がある文書等をいうものとする。)。
第2 職権による検討
記録によれば、本件出納簿のうち摘要欄に記載された相手方の個人の氏名、役職名及び肩書並びに団体名を除いた部分(別紙文書目録7の(1)の部分)と本件支出書面のうち使途欄に記載された相手方の個人の氏名、役職名及び肩書並びに団体名並びに物故者欄に記載された事項を除いた部分(同文書目録7の(2)の部分)については、原判決後の平成9年6月20日付けで本件処分を取り消しこれらの部分を開示する旨の決定(以下「本件公文書一部開示決定」という。)がされたことが認められる。そうすると、上記部分については、1審原告において本件処分の取消しを求める訴えの利益が失われたものというべきである。そこで、原判決中上記部分に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、同部分に関する1審原告の訴えを却下すべきである。
第3 平成9年(行ツ)第233号上告代理人金岡昭、同和久井孝太郎、同江原勲、同鈴木朗の上告理由及び平成9年(行ツ)第234号上告代理人近藤卓史、同井上曉、同中島信一郎の上告理由について
1 原審は、前記事実関係等の下において、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報中本件処分において本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報に該当するとされたもののうち、「慶祝」、「餞別」、「見舞」、「会費」、「謝礼」、「接遇」及び「雑」に分類される支出内容の情報が記録されているものの摘要欄又は使途欄に記載された個人の氏名は同条2号所定の非開示情報に該当するが、本件各文書のその余の部分には同号又は同条8号所定の非開示情報が記録されているとは認められないとして、本件処分のうち上記の個人の氏名を非開示とした部分を除き、これを取り消した。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 知事の交際は、本件条例9条8号にいう渉外、交渉その他の事務に該当すると解されるから、同号により、知事の交際に関する情報の記録されている文書を開示しないことができるかどうかは、これらの情報を開示することにより、当該交際事務の目的が損なわれるおそれがあるかどうか、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるかどうか、当該交際事務又は将来の交際事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるかどうかなどによって決定されることになる。ところで、知事の交際事務は、その目的、性質に照らして考えると、相手方の氏名等の公表、披露が予定されているような場合等は別として、相手方が識別され得るような文書の開示によって相手方の氏名等や支出金額が明らかにされることになれば、交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を損ない、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあり、また、知事の交際事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるというべきである。
前記事実関係等によれば、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報には、「慶祝」、「弔慰」、「餞別」、「見舞」、「会費」、「謝礼」、「接遇」及び「雑」の支出項目に分類される情報が含まれているところ、これらは、いずれも本件条例9条8号にいう渉外、交渉その他の事務に関する情報に該当するというべきである。そして、前記事実関係等によれば、本件各文書は知事の交際の内容、交際費の金額等が記載されているものであり、また、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち、本件処分において本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報に該当するとされたものは交際の相手方である特定の個人が、本件処分において同号所定の非開示情報に該当するとされたものは交際の相手方である団体がそれぞれ識別されるものである。そうであるとすれば、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報は、原則として本件条例9条8号所定の非開示情報に該当するというべきである。
もっとも、知事の交際に関する情報で交際の相手方が識別され得るものであっても、相手方の氏名等が外部に公表、披露されることがもともと予定されているもの、すなわち、交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものなど、相手方の氏名等を公表することによって交際の相手方との信頼関係あるいは友好関係を損ない、ひいては交際事務の目的が損なわれたり、知事の交際事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるとは認められないようなものは、例外として同号所定の非開示情報に該当しないと解するのが相当である(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日第一小法廷判決・民集48巻1号53頁、最高裁平成8年(行ツ)第210号、第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁参照)。
(2) また、前記のとおり、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち本件処分において本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報に該当するとされたものは、交際の相手方である特定の個人が識別されるものであるというのであるから、原則として、同条2号所定の非開示情報に該当するというべきである。
もっとも、本件条例の趣旨、目的に照らせば、公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、公務員個人が本件条例9条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号所定の非開示情報に当たるとはいえないと解するのが相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第54号同15年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10号登載予定参照)。そうすると、交際の相手方が公務員であり、当該交際がその相手方にとって公務の遂行として行われたものであるときには、当該交際に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、本件条例9条2号所定の非開示情報には該当しないというべきである。
さらに、本件条例の趣旨、目的に照らせば、本件条例9条2号ただし書ロの「実施機関が作成し、又は取得した情報で公表を目的としているもの」には、実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公表することがもともと予定されているものをも含むものと解するのが相当であるから、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露されることがもともと予定されているもの、すなわち、交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる交際に関するものは、同号所定の非開示情報には該当しないというべきである(最高裁平成13年(行ヒ)第83号、第84号同15年10月28日第三小法廷判決・裁判集民事211号登載予定参照)。
(3) 以上の基準に従って、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報について、支出項目ごとにその情報が本件条例9条8号所定の非開示情報に該当するかどうかを検討し、同号所定の非開示情報に該当するとは認められないもので本件処分において同条2号所定の非開示情報に該当するとされたものについては、更に同号所定の非開示情報に該当するかどうかを検討する。
ア 「慶祝」
前記事実関係等によれば、支出内容が「慶祝」に分類される交際費の使途は、結婚祝い、誕生祝い、ほう章・叙勲祝い、当選祝い、定期大会、周年行事、優勝等の祝事への祝い金、祝い品等である。これらの金品の贈呈は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈の事実はともかく、具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられない。したがって、「慶祝」に分類される支出内容の情報は、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。
イ 「弔慰」
前記事実関係等によれば、支出内容が「弔慰」に分類される交際費の使途は、通夜、葬儀、告別式、法事及び慰霊祭への香典、供花等である。これらのうち、通夜、葬儀等の際の供花は、知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であり、これを見ればそのおおよその価格を知ることができるものである。そうすると、通夜、葬儀等の際の供花は、その相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされるものということができ、これらに係る情報は、本件条例9条2号及び8号所定の非開示情報のいずれにも該当しないと解するのが相当である。他方、香典は、その性質上、支出の要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈の事実はともかく、その具体的金額までが一般参列者に知られることは通常考えられないから、香典に係る情報は、少なくとも同条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。そうすると、「弔慰」に分類される支出内容の情報については、上記の観点から、その細目を区分した上で同号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断する必要があるというべきである。
ウ 「餞別」
前記事実関係等によれば、支出内容が「餞別」に分類される交際費の使途は、退任者及び転勤者へのせん別金、記念品等である。これらの金品の贈呈は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈の事実はともかく、具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられない。したがって、「餞別」に分類される支出内容の情報は、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。
エ 「見舞」
前記事実関係等によれば、支出内容が「見舞」に分類される交際費の使途は、病気、事故等への見舞いの品物等である。これらの品物等の贈呈は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈の事実はともかく、具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられない。したがって、「見舞」に分類される支出内容の情報は、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。
オ 「会費」
前記事実関係等によれば、支出内容が「会費」に分類される交際費の使途は、送別会、就任祝賀会、レセプション等の会費等である。このような会費等が支出される会合には様々なものが含まれ得るところ、その中には、当該会合への知事の出席が不特定の者に知られ得る状態でされるものがあり得ると考えられる。また、会費等の金額については、その多くは相手方が一定の金額を定めるものと考えられるが、知事が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定するものも含まれている可能性がある。これらのうち、当該会合への知事の出席が不特定の者に知られ得る状態でされるものであり、かつ、その会費等の金額が相手方により一定の金額に定められているものについては、その支出に係る情報は本件条例9条8号所定の非開示情報には該当しないものというべきである。しかしながら、原審においては、上記各事実が確定されていないから、「会費」に分類される支出内容の情報については、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断することはできないというべきである。
また、前記のとおり、交際の相手方である特定の個人が識別され得る場合であっても、本件条例9条2号所定の非開示情報には該当しない場合があるところ、原審が確定した事実関係のみでは、「会費」に分類される支出内容の情報が同号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断することはできないというべきである。
カ 「謝礼」
前記事実関係等によれば、支出内容が「謝礼」に分類される交際費の使途は、中元及び歳暮の物品等である。これらの物品等の贈呈は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈の事実はともかく、具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられない。したがって、「謝礼」に分類される支出内容の情報は、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。
キ 「接遇」
前記事実関係等によれば、支出内容が「接遇」に分類される交際費の使途は、折衝、懇談等への料理、弁当等である。これらの懇談等における料理等の提供は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、支出金額、内容等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられないから、これらの懇談等における交際費の支出に係る情報が本件条例9条8号所定の非開示情報に該当する蓋然性は高いというべきである。もっとも、例えば、知事が他の地方公共団体の長等との間で公式に開催する定例の会合、都政に対して功労のあった者等を知事が公に表彰するに際して行う祝宴等は、その相手方及び内容が明らかにされても、通常、これによって相手方が不快な感情を抱き、当該交際の目的に反するような事態を招くことがあるとはいえないから、これらの懇談等における交際費の支出に係る情報の中には同号所定の非開示情報に該当しない例外的な場合に当たるものが含まれている可能性もある。そうすると、「接遇」に分類される支出内容の情報については、その具体的な類型を明らかにしなければ、同号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断することはできないというべきである。
また、前記のとおり、交際の相手方である特定の個人が識別され得る場合であっても、本件条例9条2号所定の非開示情報には該当しない場合があるところ、原審が確定した事実関係のみでは、「接遇」に分類される支出内容の情報が同号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断することはできないというべきである。
ク 「雑」
前記事実関係等によれば、支出内容が「雑」に分類される交際費は、上記いずれの分類にも属さない交際に関するものであり、具体的な使途は出張の際の手土産、記念品、差し入れ等である。これらの手土産等の贈呈は、その性質上、その要否や金額等が都と相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定されるものであり、贈呈等の事実はともかく、具体的な金額等が不特定の者に知られ得る状態でされるものとは通常考えられない。したがって、「雑」に分類される支出内容の情報は、本件条例9条8号所定の非開示情報に該当すると解するのが相当である。
(4) 以上によれば、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち、「慶祝」、「餞別」、「見舞」、「謝礼」及び「雑」に分類される支出内容の情報は、いずれも本件条例9条8号所定の非開示情報に該当するものというべきであるから、本件処分(ただし、本件公文書一部開示決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)のうち上記情報が記録された部分に係る部分は適法である。この点に関する1審被告の論旨は理由があり、1審原告の論旨は採用することができない。
また、本件各文書に記録された知事の交際に関する情報のうち、「弔慰」、「会費」及び「接遇」に分類される支出内容の情報については、前記の点を確定しないまま、これらが本件条例9条8号又は2号所定の非開示情報に該当するかどうかを判断することはできないから、本件処分のうち上記情報が記録された部分に係る部分の適否を判断することはできないというべきである。この点に関する1審被告及び1審原告の論旨は、これと同旨をいうものとして理由がある。
以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中別紙文書目録5の(1)、(2)、(3)及び(4)の部分並びに同文書目録6の(2)、(3)、(5)及び(6)の部分に関する部分は破棄を免れない。そして、別紙文書目録6の(3)及び(6)の部分については第1審判決を取り消して1審原告の請求を棄却し、同文書目録6の(2)及び(5)の部分については1審原告の控訴を棄却すべきさある。また、別紙文書目録5の(1)、(2)、(3)及び(4)の部分については、それぞれ説示したところに従って同条2号又は8号所定の非開示情報が記録されているかどうかにつき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すべきである。
別紙文書目録6の(1)及び(4)の部分については、1審原告の上告を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 上田豊三 藤田宙靖)
文書目録〔略〕