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最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)24号 判決 1999年10月26日

上告人

西野雅三

外九名

右一〇名訴訟代理人弁護士

八尋光秀

城台哲

池永満

幸田雅弘

名和田茂生

石渡一史

被上告人

福岡市長

山崎広太郎

被上告人

福岡市

右代表者市長

山崎広太郎

被上告人

株式会社パスコ

右代表者代表取締役

隈部安正

被上告人

前田建設工業株式会社

右代表者代表取締役

前田又兵衛

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人八尋光秀、同城台哲、同池永満、同幸田雅弘、同名和田茂生、同石渡一史の上告理由第一について

原審の適法に確定したところによれば、(1) 被上告人株式会社パスコ(以下「パスコ」という。)は、昭和六三年一〇月一九日、被上告人福岡市長(以下「市長」という。)に対し、市街化区域内にある土地を開発区域として、都市計画法(平成四年法律第八二号による改正前のもの)二九条に基づく許可を申請し、被上告人市長は、同月二五日付けでこれを許可(以下「本件許可」という。)した、(2) 被上告人パスコは、本件許可に係る開発行為に関する工事を完了し、被上告人市長は、被上告人パスコに対し、同法三六条二項に基づき、平成三年六月二四日付けで検査済証を交付した、というのである。

右事実関係の下においては、本件許可に係る開発区域内において予定された建築物について、いまだ建築基準法六条に基づく確認がされていないとしても、本件許可の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきである(最高裁平成三年(行ツ)第四六号同五年九月一〇日第二小法廷判決・民集四七巻七号四九五五頁参照)。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

同第二について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)

上告代理人八尋光秀、同城台哲、同池永満、同幸田雅弘、同名和田茂生、同石渡一史の上告理由

第一 訴えの利益に関する原判決の問題点

一 原判決は、第一審と同様、本件開発工事は、平成三年六月一二日に完了しており、開発行為に対する許可の本来の効果はすでに消滅しているので、本件開発許可処分の取消を求める訴えの利益を欠くに至ったと判断する。

そして、原判決は、その根拠として、第一審と同様、最判平成五年九月一〇日第二小法廷判決(裁判所時報一一〇七号)を上げている。

しかし、原審でも論証したように、右判決は、本件においては何ら根拠とはなり得ないものである。以下、詳述する。

二 前記最高裁判例について

1 原判決は、本件も右判決の射程範囲内にあると判断し、その理由として、次のように述べている。

「右最高裁判決は、『他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由』について、右のとおり違反是正命令の発令の可否についてのみ考慮しているところ、仮に建築工事との関係において、訴えの利益が認められる可能性があるのであれば、建築確認や建築工事の完了等について触れられるはずであるが、これらに何ら言及していないことに照らせば、開発許可の取消しを求める訴えの利益の有無を開発工事の完了と検査済証の交付にのみ係らしめたものと解するほかはないのであって……」しかし、何度も述べたように、右事案は、工事が完了し、検査済証が交付されただけでなく、予定建築物についての建築確認、建築工事までもが終了しているものであり、開発許可申請→開発許可→開発工事→検査→検査済証の交付建築確認建築工事という全ての過程が終了しているものである。右過程を全体として一つのものと考えても、全ての手続きが終了した後で、開発許可を取消すべき法律上の利益があるか否かが問題となった事案である。いまだに建築確認の申請すらなされていない手続きの途中にある本件とは、全く異なる事案である。

右最高裁判決は、以上で述べた当該事案の特殊性を考慮して、「他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しない」と判断したのである。建築確認や建築工事の完了等が、取消しを求める訴えの利益を構成するか否かの検討が判決書に記載されていなかったという理由で、右最高裁判決が、建築確認や建築工事の完了等が、取消しを求める訴えの利益を基礎付けるものではないと解していると理解することは論理の飛躍であって、到底、妥当なものではない。

2 次に、原判決は、開発行為がなされた場所において予定建築物の建築することができるのは、開発許可自体の効果ではなく、検査済証の交付の効果であるから、開発工事の終了後は、開発許可の取消の法律上の利益はないと述べる。しかし、これは行政手続を微視的な見地から捉えた、余りにも形式的な考え方であり、批判を免れない。

確かに、前記の手続きを分解して分析してみれば、開発許可は、開発行為に着手する前に、当該開発行為が許可基準に適合していることを公権的に判断する行為であり、それを受けなければ開発行為に関する工事を行うことができないという法的効果が付与される。また、検査済証の交付は、当該工事が開発許可の内容に適合していることを公権的に判断したうえでなされるものであって、それが交付されなければ当該工事の完了の公告はされず、予定されている建築物等を建築することができないという効果を有するものである(右最高裁判決の藤島昭裁判官の補足意見)。

しかし、開発許可と検査済証の交付という二つの行政処分は、不可分的に関連を有するものである。知事等は、開発許可に係る工事が完了した旨の届け出があったときは、当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうかを検査し、その検査の結果、当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは検査済証を交付することになっているのである。

このような不可分一体の関係、開発許可という行政処分が、検査済証の交付という行政処分の先行行為という性格があることを考慮すれば、開発行為がなされた場所において予定建築物を建築することができるのは、検査済証の交付の効果であるから、開発許可の取消の法律上の利益はないとするのは不当である。

例えば、許可基準に適合しない開発行為が誤って許可された場合、知事等は、右事情を知った場合でも、開発行為に関する工事が開発許可の内容に適合していれば、都市計画法三六条二項によれば、検査済証の交付を拒否できない筈である。

これに対して、同項の開発許可には、同法三三条の許可基準に違反するものは含まれないという限定解釈をすべきとの見解もあるが、そのような文言を無視した限定解釈をすべき合理的理由はない。また、法律関係が積み上げられる行政行為の安定性を欠く。よって、右の場合には、知事等は、検査済証の交付を拒否できないのであり、開発許可の存在は、検査済証の交付を拒否するうえでの法的障害となる。

しかも、建築基準法六条一項は、建築主事が、建築物の敷地に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するものであることを確認することを法的に義務付けており、敷地に関わる開発許可が取消されれば当然に「適合」することの確認はなしえず、一連の手続は停止せざるを得ない関係にあることはすでに詳述したところである(原審控訴人一九九六年二月一日付け準備書面)。

いずれにせよ、開発許可処分の取消は、建築確認・建築工事をするうえでの法的障害となるのだから、開発行為の終了後も、建築確認に至る前であれば、開発許可を取消すことについての法律上の利益は認められるべきである。

三 以上のとおり、原判決は訴えの利益に関する法令の解釈を誤ったものである。

第二 区域外開発の違法について<省略>

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