最高裁判所第三小法廷 平成9年(行ツ)44号 判決 1997年11月28日
静岡県浜松市上島二丁目一九番二〇号
上告人
ヤマザキ・シー・エー株式会社
右代表者代表取締役
山嵜竹司郎
右訴訟代理人弁護士
三井義廣
静岡県浜松市元目町一二〇番地の一
被上告人
浜松西税務署長 都築知也
右指定代理人
深井剛良
右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行コ)第一四二号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成八年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人三井義廣の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)
(平成九年(行ツ)第四四号 上告人 ヤマザキ・シー・エー株式会社)
上告代理人三井義廣の上告理由
○ 上告理由書記載の上告理由
一、本件の争点は、
(1) 上告人が購入した本件ショーケースが、消費税を除いた取得金額が二〇万円未満でなり、消費税を含めると二〇万円以上となることから、これを法人税法施行令一三三条により損金算入することができるか。
(2) 上告人が贈呈した本件花輪代が、租税特別措置法六二条所定の交際費に該るか。
の二点である。
これについて、一審判決・二審判決共に、
(1) 本件ショーケースの取得価額は消費税を含めた金額であり、法人税法施行令一三三条による損金算入はできない。
(2) 本件花輪代は、租税特別措置法六二条所定の交際費に該る。
と判断した。
これら一審判決及び二審判決は、法人税法施行令一三三条・租税特別措置法六二条の解釈・適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。
二、本件ショーケースについて
1 一審判決及びその判断を是認する二審判決は、いずれも、法人税の課税所得金額の計算にあたっての消費税の経理処理の方法について、いわゆる「税抜経理方式」と「税込経理方式」の二方式を認め、上告人の採った経理方式は「税込経理方式」であり、この場合には減価償却資産の取得価額についても消費税相当額を含む価額による認定する。
しかし、上告人が一・二審において繰り返し主張してきたように、消費税の基本的な性格からして右の認定は不当である。
2 消費税の課税制度は、製造から小売りまでの各取引段階毎に課税を行い、各事業者はその負担した税額を財貨・サービスの価額に上乗せしていくことにより、最終的には消費者にこれを負担させる制度である。事業者は、課税期間における課税売上にかかる消費税から課税仕入にかかる消費税を控除するのであるから、各取引段階における事業者にとってみれば、消費税は単なる通過勘定でしかないこととなる。
なお、免税事業者や非課税事業の場合には例外的に消費税が滞留したりして通過勘定の性格を失うことがあるが、上告人の場合にはこれらの例外的な場合には該当しないのであるから、上告人にとっての消費税は通過勘定としての性格を失っていない。
3 消費税が通過勘定であるという基本的性格に立脚した場合、そして上告人の場合には前記免税事業者等の例外的な場合には該当しないのであるから、通過勘定という性格だけを有するのであるが、通過勘定である以上、消費税が施行令一三三条に規定する「取得価額」に含まれないことは明らかであり、上告人が一審最終準備書面第一、三、で主張したとおりである。
すなわち、施行令一三三条の「取得価額」については、同令五四条一項一号により、資産の購入の代価・購入のために要した費用・資産を事業の用に供するために直接要した費用とされている。消費税が、このうち、まず資産の購入の代価に該らないことは明らかである。代価とは売買価額であり、資産譲渡の対価である。これに対し、消費税は、いわゆる外税方式での売買の場合を想定すれば明らかなように、物の対価とは観念されないものである。次に、資産を事業の用に供するために直接要した費用でないことは当然である。そして、消費税が通過勘定であり仕入にかかる消費税を売上にかかる消費税から控除して次々と転嫁されることからすれば、結局、当該消費税は当該資産を購入した事業者が負担するものではないのであるから、資産の購入のために要した費用ともいえないのである。
一審判決及び二審判決は、単に消費税相当額を取得価額に含めるとのみ述べるだけで、前記施行令五四条一項一号規定のいずれに該当するのかは明らかにしていないが、以上に述べたことから、消費税が取得価額を構成しないものであることは明白であり、右判決は法令の解釈・適用を誤るものである。
4 さらに、消費税が通過勘定であるという基本的性格は、会計処理の方法によって左右されるものではない。通過勘定であるということは、消費税がなかった場合と同様の結果となるべき決算をするということになり、損益に影響を生じないということである。このような決算であり限り、それは消費税の基本的性格に立脚した公正妥当な決算として是認されるべきである。なお、免税事業者や非課税事業の場合には例外的に消費税は通過勘定ではなくなるのであるから、会計処理上でも損益に影響を及ぼすことになる。
上告人の決算では、収益・費用の額を消費税を含む金額で表示してはいるものの、売上にかかる消費税額から仕入にかかる消費税額を控除した未払消費税額を諸税公課に計上して損益に影響を及ぼさず、また減価償却資産の取得価額についても消費税を含まない金額で償却や損金の処理を行い、前述のような消費税がなかった場合と同様の結果となるべき決算を行っているのである。ことに、減価償却資産については、係争となっている本件ショーケースだけではなく、それ以外にも別表記載の車両運搬具や什器備品等についても、本体価格と消費税額とを区分し、本体価格に基づいて減価償却の処理を行い、消費税額については諸税公課として損金経理を行っているのである。被上告人は、これらの車両運搬具や什器備品等についての会計処理に関しては、何らの異論も述べることなく是認しているのである。したがって、上告人の会計処理の方法は、その表記の仕方にかかわらず、全体として実質的にみれば、通過勘定であるという消費税の基本的性格に立脚した決算として容認されるべきものであるし、本件ショーケースについても、前記車両運搬具や什器備品等と同様に、本体価格と消費税額とを区分して、本体価格に基づいて損金処理をしたことも、消費税の基本的性格に立脚した処理として容認されなければならない。繰り返し述べるが、上告人の会計処理を是認したとしても、消費税がない場合と比較して上告人が課税上の利益を受けるものではないのである。
5 しかるに、一審判決・二審判決ともに、消費税にかかる会計処理の方法として「税込経理方式」と「税抜経理方式」を区別し、「税込経理方式」の場合には減価償却資産の損金処理にあたっては取得価額に消費税額も含めなければならないとする。しかし、免税事業者や非課税事業等の例外的な場合以外の通常の課税事業者の場合にも「税込経理方式」を認めることは、通過勘定てあるという消費税の基本的な性格を否定する経理方式を是認してしまうことになるものであって不当であるし、また仮にそのような「税込経理方式」を認めるとしても、その経理方式を採用した場合には減価償却資産の損金処理において、消費税を通過勘定と認識して行った経理処理すなわち消費税を除いた金額による償却・損金処理を認めないとすることも不当である。この点で、一審判決・二審判決の認定は、施行令一三三条の解釈・適用を誤った違法がある。
6 以上の理由により、本件ショーケースの取得価額を消費税を含めた金額によるとした原審判決は破毀を免れない。
三、本件花輪代について
1 一審判決及びその理由を引用する二審判決は、本件花輪代について、宣伝目的を併せ有していたとしても主たる目的が交際目的であれば、租税特別措置法六二条所定の交際費に該ると認定している。
しかしながらパチンコ機メーカーがパチンコ店の新装開店等に際して贈る花輪については、国税庁の見解として交際費課税から除外されていることは明らかであるし、清涼飲料水・酒類等の製造・販売業を営む法人が新装開店する料理飲食業者に贈呈する花輪についても同様である。これらの業者の場合でも、花輪贈呈の主たる目的はパチンコ機あるいは清涼飲料水・酒類等の納入に対する謝意と今後の交誼を願うことにあり、上告人の場合と何ら差異はないはずである。
2 したがって、本件の場合に、パチンコ機メーカー等の場合と別異な取扱いを認める原審判決は、租税特別措置法六二条三項の交際費の解釈・適用を誤るものであり、破毀を免れない。
以上
別表
<省略>
○ 平成九年一月八日付け上告理由補充書記載の上告理由
一、平成元年一月一八日付け日本公認会計士協会の「消費税の会計処理について」と題する中間報告(甲第三号証)においても、「各段階の納税義務者である企業においては、消費税の会計処理が損益計算に影響を及ぼさない方式(税抜方式)を採用することが適当である」と述べている。この意味するところは、消費税は取引によって転嫁され、企業が負担しない税金であるから、減価償却資産等の取得価額に消費税を算入すべきでないという点にある。また、消費税を減価償却資産等の取得価額に算入することになってしまう税込経理方式に比べて、税抜経理方式の場合には資産の取得価額が低く、当期純利益も少なく計上されることになるから、保守義務の原則にも適合することになる。
二、なお、前記中間報告では、前述の記載に続き、「ただし、非課税取引が主要な部分を占める企業等当該企業が消費税の負担者となると認められる場合、簡易課税制度を採用した場合、その他企業の業種業態等から判断して合理性がある場合には、それに対応する会計処理方式(税込方式)を採用することができる」として、税込経理方式が妥当する場合を限定している。
したがって、消費税の経理方式は税抜整理方式を基本として、免税事業者たる法人又は非課税取引が主要な部分を占める企業、簡易課税制度を選択する企業の場合等、その業種業態からみて合理性がある場合に限り、税込経理方式を適用することができると解釈するべきである。
たとえば、学校法人の場合、<1>消費税の対象外取引及び非課税取引が主要な部分を占めるため、消費税の負担者となる法人が多いこと、<2>資本収入を主とする予算会計になじみやすいこと、<3>資本金対象資産に係る消費税を当該資産の取得価額に含めて処理することが財務の健全性から好ましい等の理由で、税込経理方式の採用が適当とされている。
また、その他の公益法人についても、学校法人の場合の<1>及び<2>の理由のほか、免税事業者となる法人及び簡易課税制度を選択する法人が多いこと等の理由で、税込経理方式の採用が適当とされる。
三、これに対し、上告人の場合には、係争事業年度の売上等の収益が二八億円超であり、課税売上割合も一〇〇分の九六を超えるのであるから、前記二で述べたような例外的な場合には該当するものではなく、減価償却資産に係る消費税額については、これを通過勘定として本体価格と区分する経理方式を採用することが適当であるということになる。上告人も本件ショーケースに限らず全ての減価償却資産についてそのように経理処理を行なってきたのであり、その明細は上告理由書に添付した別表のとおりである。
四、いわゆる税抜経理方式と上告人が確定決算において採用した経理方式とを比較するために、単純化した取引の経理方式とこれに基づく賃借対照表は別表のとおりであるところ、両方式の賃借対照表に計上される当期純利益の額は、百円未満の端数処理を除けば、同額となる。
右別表記載のとおり、上告人は、確定決算において、減価償却資産に係る消費税額を本体価格と区分したうえで、諸税公課という勘定科目を利用して損金経理をしたのであるから、当期純利益の額が税抜経理方式を採用した場合と何ら変わらないのは当然である。
五、なお、二審判決は、判決書一二丁裏において、「会計上、賃借科目である仮受消費税が計上されている限り、仕入に係る消費税のうち資産に係るものと経費に係るものとのいずれか一方について税込経理をした場合でも、仮受消費税と仮払消費税とか両建てされることにより、その相殺により消費税を通過勘定として処理している原則は崩されず、そのような混用をした場合でも、全体として税抜方式による場合とほぼ実質的に変わらない結果となるため、会計の理念に反しない限度で納税者の会計処理上の便宜を図り、例外的にそのような混用経理を認めたものであることが認められる」とする。しかし、右判決がその直後の部分で述べるように、「固定資産等の取得について税込処理した場合には消費税相当分が取得価額に算入されるため、課税所得がその分多くなる場合が生ずる」のであり、このような混用の場合には、決して「全体として税抜方式による場合とほぼ実質的に変わらない結果」とはならないのであるから、右判決の認定には矛盾があり、無理があるといわなければならない。
以上