最高裁判所第三小法廷 昭和23年(そ)3号 判決 1949年2月01日
主文
原判決を破毀する。
被告人を罰金五十圓に處する。
右罰金を完納することができないときは被告人を二日間労役場に留置する。
理由
檢事総長福井盛太の非常上告申立の理由は「被告人恒屋久次郎に對する住居侵入被告事件に付いて、昭和二十三年六月三日福岡地方裁判所において、被告人を住居侵入罪として、刑法第百三十條第十八條を適用し罰金五百圓に處する但し右罰金を完納することが出來ない時は金五圓を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する旨の言渡があり、右判決は同月十一日確定し、同年十一月五日罰金完納により右刑の執行を終ったものであることは、別冊記録により明瞭である。ところで住居侵入罪として、刑法第百三十條が規定する刑罰は三年以下の懲役又は五十圓以下の罰金である。然らば前示福岡地方裁判所の言渡した罰金刑は、法定の刑罰の範圍を超えた處刑となり、これは明かに、刑罰法令の適用を誤った違法があるもので、被告人に不利益なものと謂わなければならぬ。よって右判決を破毀し、更に相當な裁判を求めるために、非常上告を申立てる次第である。」と云うのである。
原判決は被告人が故なく他人の住居に侵入した事実を認定し、刑法第百三十條第十八條を適用して被告人を罰金五百圓に處している。しかし刑法第百三十條に規定する刑罰は三年以下の懲役又は五十圓以下の罰金であって、右判決に法定の刑罰の範圍を超えて罰金刑を言渡した法令違反があること明かである。故に本件非常上告は理由がある。
しかして、原判決は被告人の爲に不利益であるから、刑事訴訟法施行法第二條及び舊刑事訴訟法第五百二十條第一號但書に則り、之を破毀し、本件に付いて判決を爲すべきものである。よって原判決認定の事実は刑法第百三十條に當るから所定刑中罰金刑を選擇し、その罰金額の範圍内で被告人を罰金五十圓に處するを相當とし、同法第十八條に則り、右罰金不完納の場合の労役場留置日數換算を爲し主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)