最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1253号 判決 1948年12月14日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人趙性祚同林徳萬、辯護人大竹武七郎同小野四郎の各上告理由は末尾添附別紙記載の如くでありこれに對する當裁判所の判斷は次ぎの通りである。
辯護人大竹武七郎、同小野四郎の上告理由に付て
第一點 原判決がその主文掲記の拳銃四挺を没収するに當りその適條中に所論のような理由によって之を没収する旨を説示していることは、所論の通りである。
判決に擧示すべき證據説明は判示の犯罪事実について之を爲すべきもので罪となるべき事実でないものについては證據によって之を認めた理由を明示する必要はない。押収物件が犯人以外のものに屬するかどうかの認定は、もとより罪となるべき事実の認定でないから所論のように原判決引用の證據によって本件押収になっている拳銃四挺が犯人以外のものに屬しないかどうかが明でないとしてもこれを以て原判決が違法のものであるとはいえない。論旨は理由がない。
第二點 論旨中(イ)は上告申立を取下げた被告人小平忠一のみに關するものであるから説明をしない。(ロ)は被告人許慶一、同趙性祚、同李長寿、及び同林徳萬に對する原判決の證據説明には、理由不備の違法がある即ち判示第一の(一)(李關係)第一の(二)(許、李、林關係)第一の(三)(許關係)第一の(十三)(許、趙關係)第二(林關係)及び第三(許、趙關係)の各事実について、數種の證據を擧げそれ等を「通じ」て夫々判示に照應する強盗難被害顛末の記載がある等と證據説明をしているが之ではどの證據中に判示事実のどの部分に對する如何なる證據があると言うことが判らないと言うのであるが被告人許慶一、同趙性祚、同李長寿及び同林徳萬に對する原判決の證據説明中に、判示第一の(一)の點に關し木村藤吉及び川辺春信提出の各強盗被害届書、(記録、昭和二一年(公)第二七七號中六二丁、六四丁参照)を通じ、判示第一の(二)の點に關し奥村健治郎及び笠原トキ提出の各強盗被害届書(前同記録中八八丁、九〇丁参照)を通じ判示第一の(三)の點に關し柳田喜代治提出の集團強盗被害届書及び盗難被害追加届(前同記録中一一三丁、一五六丁参照)を通じ又判示第一の(十三)の點に關し中島忠一提出の強盗被害届書及び始末書(記録、昭和二一年(豫)第一八八號--第二冊中五五〇丁、五八二丁参照)を通じ夫々判示關係部分に照應する強盗被害顛末の點を認定する證據とし更に判示第二の點に關し、原審第九回公判調書並同調書引用(記録、昭和二一年(公)第二七七號中三〇二八丁、三〇二九丁参照)の被告人林徳萬並金尚坤に對する司法警察官の聽取書(記録、昭和二二年(公)第五九六號中一四五丁、二一三丁参照)を通じ田中稔、秋穂久子、田中滿子に對する各聽取書(前同記録中三八丁、四六丁、五三丁参照)を通じ判示第三の點に關し被告人趙性祚に對する豫審第一回訊問調書並同調書に引用の被告人許慶一に對する豫審第二回訊問調書(記録、昭和二一年(公)第二七七號中一五六〇丁、一五〇四丁参照)を通じ夫々判示關係部分についての各事実を認定する證據に供していることは所論の通りである。
刑事訴訟第三六〇條第一項に、「證據により之を認めた理由を説明し」とあるのは、犯罪事実に對する證據を示して、その證據と犯罪事実との關係を明かにすることを言うのであって、その關係が明かにされている以上證據説明の方法については何等制限するところはないのである、要は證據と犯罪事実との間の連結を明かにする程度に説示すれば足り必ずしも證據の内容を一々甄別して顕さなければならないと言うものではない。而して原判決が判示各事実を認定する證據の一つとして夫々擧示している前示數種の證據を通じその一つ一つについて、その認定事実と對照して見ると、優に、それ等の各證據を通じて判示關係部分についての事実を認定することが出來るから證據によって犯罪事実を認めた理由の説明として何等缺けるところがなく論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって上告を理由なしとし刑事訴訟法第四四六條に從ひ主文の如く判決する。
以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介)