最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)799号 判決 1948年11月16日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人中村俊夫及び同北山亮の上告趣意第一點について。
裁判所が豫斷によって事実を認定してならないことは、まことに所論の通りである。しかし原判決は、その舉示の證據によって、被告人が実際に収受した籾は計約三石七斗であったにもかゝわらず、これを二石八斗として買受け、賣主に異議なく同量の代金を受取らせたという事実を認定し、更らにこの事実に基く推認と他の證據とを綜合して被告人が右の籾の盗品であることの情を知りながら買受たという事実を認定したものである。證據によって認定した事実に基いてなされた推認は、結局證據に基いてなされた認定であって單なる豫斷ではない。それ故にかような推認を資料とすることは、採證の法則に違反することではない。而も原判決は、右の推認を他の證據と綜合して判示の犯罪事実を認定したのであるから、所論のような非難はなおさら當らない。よって論旨は理由がない。
同第二點について。
論旨は、原判決擧示の證據の一々について、何れも證據價値のないものであることを述べ、原判決が、被告人に有利な證據を顧みないで右のような價値のない證據によって犯罪事実を認定したことを以て、採證の法則を誤ったものであると主張している。しかし個々の證據單獨では、犯罪事実を認定することができない場合でも、それ等を綜合して犯罪事実を認定することを妨げるものではない。原判決は、擧示の數個の證據を綜合して犯罪事実を認定したのである。元来證據の取捨選擇竝に事実の認定は、原審の專權に屬することであって、その間に經驗則に反することのない限り、上告審に於て、これを違法として破毀することはできない。然るに本件の原審についてみると、採證から犯罪事実の認定に至る迄の過程に於て經驗則に反するという程の缺陷は認められないから、これを違法とする譯にゆかない。よって論旨は採用し難い。
以上の理由によって刑事訴訟法第四四六條に從い、主文の通り判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)