最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2654号 判決 1950年3月28日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人竹内信一の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りである。
然し、原判決はその引用の各証拠を綜合して、被告人等が判示の意図の下に昭和二三年四月一四日午後四時頃から翌一五日午前零時三〇分頃迄の間前後八時間に亘り判示の竜野町役場樓上で判示の民主納税同盟員等と共に竜野税務署長松谷清、同直税課長神山政夫、同庶務課長松久隆美等に対し再審査申請中の者に対する強制徴収は之を行はないこと等九項目の要求事項を掲げ交渉を続け即時その承認を求め、同人等が之を拒否し、又は回答を避けて沈默していると多数の集会者と共に「地藏さんの様に默っていないで回答せよ」とか「我々は二日でも三日でも帰らないから之が済む迄はお前等も帰さない」とか又は「共産党と討死する心算か、お前等が我々の要求を承認した爲め辞職させられる様なことがあれば共産党は必ず援助するが我々の要求を承認しなければ我々は二日でも三日でも頑張る」等と大声で喚き又椅子を取り上げて起立を要求し、果物の喰いさしを投げつけ、更らに用便に立つにも監視を附すなどして多衆で危害でも加える様な威勢を示して同署長等をして右要求に応じなければ身体に危害を加えられるようなことがあるかもしれないと畏怖させその結果判示の確認書一通を差入れさせて右税務署長等三名をして正当な職務行爲を爲さしめない爲めに脅迫を加えたという事実を認定しているのである。してみれば被告人等の判示所爲が刑法第九五條第二項に所謂脅迫即ち他人をして畏怖心を生ぜしむるための害悪の告知にあたること勿論である。
そうして所論の所謂水増し課税や徴税目標額に基く課税方法等が仮りに不当のものであるとしても之が是正の道は税法所定の審査訴願及び訴訟の手段(所得税法第四八條乃至第五一條)に依るべく、これがため被告人等が税務署係官に対し判示のように直接脅迫手段に訴え課税方法並に課税額及び徴税方法等の変更を求むることは法治国の理念に徴し素より違法にして許されないところである。
次に、被告人等が原審公判廷において「本件を惹起した責任は当時の内閣の政策の誤りであり、その誤まった政策に基づき爲された税務署の不正な行為を是正すべく爲した自分等の行爲は当然な行爲であって否認さるべきでない」と主張していることは記録上明らか(記録五六九丁)であるが斯かる主張は旧刑訴法第三六〇條第二項に該当すべき事由の主張とは解せられないから原判決がこの点について特に判断を示さなかったことに何等の違法はない。そうして原判決が被告人等の本件所爲を違法と判断したことは判文上自ら明らかであるから論旨は理由がない。
よって、上告を理由なしとし旧刑事訴訟法第四四六條に從い主文の如く判決する。
以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)