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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)153号 判決 1952年1月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人阿保浅次郎、同神山隆文の上告理由は、末尾に添えた書面記載のとおりである。

上告理由第一点について。

上告代理人が第一審の口頭弁論において陳述した準備書面に、上告人が被上告人の妻木村ヒサに本件代理権があつたと信ずべき正当の理由として主張したものとして記載されているのは、所論(一)(二)および(四)の事実であつて、所論(三)(五)の事実は右準備書面に引用されている証人伊藤ケイ、雨森清三郎、雨森勝三郎の証言中に現われている供述に過ぎない。そして上告(控訴)代理人は昭和二三年七月一六日の原審口頭弁論で、「控訴人において被控訴人の妻ヒサが被控訴人の代理人として本件宅地建物を売却する権限をもつていたと信ずべき正当の理由があるということは、控訴人は本件売買契約の前に被控訴人の妻から被控訴人が南方へ赴く際妻に渡しておいた遺書に本件宅地建物を唐牡丹外四種の草樹を除いて売つてもよいということが記載してある旨聞かされたこと、および被控訴人が右出発に際し妻に印鑑を預けていつた事情から主張するのである」と釈明しているのであつて、原審はこれらの釈明された事実即ち所論(一)(二)および(四)の事実についてはすべて証拠によりその当否を判断しているのである。それゆえ、原審には所論のような争点遺脱、審理不尽その他の違法はないので論旨は理由がない。

同第二点について。

所論は、原審と異なる見解に基づき、原審が自由裁量権の範囲内でした証拠判断による事実の認定を非難するものに外ならないのであつて、原審には所論のような実験則に反して証拠を曲解した等の違法はない。

同第三点について。

原判決の認定するように、被上告人の実印をその妻たる木村ヒサが保管していたこと並びに木村ヒサ、工藤貞太郎等が自ら代理権があると告げたことがあつたとしても、これだけの事実によつて、本件売買契約の締結につき木村ヒサが被上告人を代理する権限をもつていたと上告人において信ずべき正当の理由があつたと判断しなければならないものではない。それゆえ、原審が右の事実を目して代理権があつたと信ずべき正当の理由に当らないと判示したとしても原判決には所論のような違法はない。

よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴四〇一条第九五条第八九条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三)

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