大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)184号 判決 1952年7月29日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人訴訟代理人等の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。

論旨第一点に対する判断

控訴権抛棄書は必ずしも当事者本人又はその訴訟代理人が裁判所に持参しなければならないものではない、郵便によつて送附してもよし又は使者をして持参せしめても無論差支ない。本件において所論抛棄書は上告人が署名捺印して被上告人代理人に交付したものであること上告人自ら主張する処である。しかる以上それを事実上裁判所に持参提出したものが被上告人代理人であつたとしても、その為め効力発生を妨げるものではない。それ故論旨は理由がない。

同第二点に対する判断

民訴三五六条一項が控訴提起の前後によつて裁判所の区別をしたのは、ただ便宜上のことである。要は裁判所に対する申述を必要としたものに過ぎない、書面が第一審裁判所に提出されるか、第二審裁判所に提出されるかは有効無効の条件ではない。それ故前記の如く上告人の署名捺印した抛棄書が第一審裁判所に提出され、それが記録に綴付されて第二審に到達した事実の存する以上、少なくともその時において効力を生じたものと解すべきである。従つて論旨は採用出来ない。

同第三点に対する判断

本件控訴権利抛棄書を被上告人代理人が裁判所に持参提出した行為は単なる事実行為である。控訴権の抛棄を為すべきか否かの意思決定を委ねられたものではない。かかる事実上の行為は相手方代理人と雖これを為し得るものである(現に取下の同意書等を相手方代理人に託するが如き行為は常に行われて居る処である)。論旨は理由がない。

第四点に対する判断

所論の点に対する原審の判断及びその理由は正当で論旨は理由がない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例