大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)21号 判決 1949年5月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斉藤素雄の上告理由書は末尾に添えた別紙の通りであるが、原審判決にあらわれたところによれば、本件につき原審において問題となつたのは、左の四点である。

(第一問題)同日同所で行われた知事選挙および村長選挙において不在投票をする相沢、西村、原の三人の選挙人が、知事選挙のための特別投票者証明書を提出したのみで、村長選挙のための特別投票者証明書を提出せずに、村長選挙の投票用紙および投票用封筒の交附を受けて投票をした。これは選挙法規の違反ではあるまいか。

(第二問題)投票者は三名とも茨城県筑波地方事務所の職員なのであるから、その所属官署の長たる同事務所長の証明書を提出すべきであるのに、茨城県会議員選挙管理委員会守屋陸藏の証明書を提出して投票した。適法か否か。

(第三問題)証明書は茨城県会議員選挙管理委員会委員長守屋陸藏の名義で作られているのに、相沢、西村両名に交附された証明書の署名の下には、同委員会委員長印でなく、同委員会印が押してある。適法か否か。

(第四問題)原に交附された特別投票者証明書は、昭和二二年四月五日執行の茨城県知事選挙のための証明書の日附に「十」の字を書き加えて「十五」としたものだが、訂正印を押してない。適法か否か。

右のうち第三第四の両問題については、原審判決が問題の捺印および日附訂正が証明書を無効ならしめるほどの瑕疵でないことを説明しており、上告論旨もその点に触れていないゆえ、以下第一第二両問題について考察する。

(一)第一問題について上告論旨第一点第二点は、不在投票が有効であるがためには

(1)投票者が選挙権を有すること

(2)選挙法規に従つて不在投票の適格者であること

(3)特別投票者証明書を提出すること

の三要件を具備せねばならぬとし、知事選挙と村長選挙とはたとい同日同所で行われるも各別の選挙であるから、別々の特別投票者証明書を提出することを要するのであつて、一つの選挙のための証明書に他の選挙のための証明を兼ねさせるようなことは、選挙管理者の任意の裁量で為し得るところでないと主張する。なるほど特別投票者証明書の提出が上告論旨のいわゆる不在投票有効三要件の第三であるには相違ないが、それは第一第二両要件のように絶対要件でなく、この二つの絶対要件の存在を証明する手段にほかならぬのであるから、一つの選挙のための証明書を同日同所で同時に行われる同じく地方自治体選挙の他の一つについての不在投票者資格の証明に役立てても充分に証明の目的を達し得るのであつて、その選挙が違法でありその投票が無効であるというまでの瑕疵とはならないのである。(その他の判決理由は省略する。)

よつて上告を理由なしとして民事訴訟法第四〇一条第九五条第八九条に従つて主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例