最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)241号 判決 1950年12月12日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人盛川康の上告理由は末尾に添附した別紙記載の通りである。
第一点について。
証人の証言を採用すると否とは原審の自由に決し得べきところである。従つて原審において争いとなつていない所論鈴木正治が上告人の鉱業代理人であるか否か、又鉱業代理人としての届出がしてあるか否かの点について審理をしなくとも同人の証言を採用することは少しも差支ない。されば原判決は何等違法はなく、論旨は理由がない。
第二点第五点について。
原審の認定した事実は昭和一八年五月中旬頃花巻警察署において本件報酬金の支払方を折衝した結果本件当事者間において残余工事請負契約を解除し且つ控訴人(上告人)は被控訴人(被上告人)に対し本件工事の竣工割合に応じその報酬金を支払う旨の契約が成立し且つ右工事の竣工割合は当時少くとも全工事の六割に達したというのである。原判決は右特約に基づいて被控訴人(被上告人)は本件報酬金請求権ありと判断したものであることは判文上明らかであつて所論の如く法律上請負契約上の仕事の完成以前に報酬金請求権ありと判断したものではなく、また所論の如き「原因不定の事実を捉えて被控訴人の請求を認容した」ものではないから論旨は理由がない。
第三点について。
論旨は原審が自由に決し得べき証拠の取捨を非難するものであるから理由がない。
第四点について。
原判決は所論甲第四号証ノ一、二の外甲第一、二、三号証及び原審証人鈴木正治並に第一審証人鈴木正治の証言其他第一審証人高田文治郎、同佐々木富蔵の各証言等を綜合して判示事実を認定したものであつて、其認定について何等採証法則に違背するところはなく、論旨は理由がない。
第六点について。
所論各委任状に印紙の貼用されていないことは記録上認め得る、しかしそのために所論委任状が民事訴訟法上訴訟行為をなすに必要な授権行為があつたことを証明する書面としての効力がないとはいえない。
また記録を調べて見るに原審における弁護士佐藤達夫に対する上告人(控訴人)の委任状には「控訴人拙者被控訴人菊池喜一間昭和二一年(ネ)(一文字脱落)号請負金請求控訴事件に関する訴訟行為の一切」と記載されて事件番号の記載はないが、当事者の氏名と事件名とが明記されているので、原審において本件訴訟行為をなすに必要な授権行為がなされたことを証するに充分であるから論旨は理由がない。
よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)