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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)286号 判決 1950年7月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人福田覚太郎上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。

新刑事訴訟法においては被告人は訴訟当事者としての地位を確保され、同法第三一一条第一項において被告人は供述の義務がなく、終始沈黙し、又は個々の質問に対し供述を拒むことができることを規定している一方、裁判長は検察官の起訴状朗読が終わった後、同法第二九一条第二項に定める事項を告げた上被告人に対し被告事件について陳述する機会を与えなければならないことを規定しているし、其後の公判手続においては裁判長は事件の性質、証拠調の状況等にてらし、刑訴法第三一一条第二項により必要な事項につき被告人の供述を求めることができるのである。そして如何なる事項につき如何なる程度に質問を為すべきかは、裁判長が自由に決し得るのであるから、第一審において被告人に対し二、三の質問をしたのみで詳細の質問をしなかったとしても、被告人は陳述の機会を充分与えられているので、もし必要があると考えたなら自ら進んで陳述すればよいわけであって、何等被告人の当事者たる地位を無視するものではないばかりでなく、被告人を疎略に取扱ったとか、裁判権を侵奪したとはいい得ないから、第一審において所論詳細の質問を発しなかったとしても第一審判決は何等刑訴手続に違反しない旨を判示した原判決は正当であって、刑訴法の趣旨を曲解したものではない。従って原判決は所論憲法の各条に違反することを主張する論旨は其前提を欠き採用することを得ない。

よって刑訴第四〇八条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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