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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)219号 判決 1952年10月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の代理人戸島威成の上告理由第一点について。

論旨は、原審において、上告人が不知を以て答えた乙第一号証(第三者の作成した手紙)を証拠に採用したことを非難しているが、第三者作成の文書については、特段の立証はなくとも裁判所が弁論の全趣旨によりその成立の真正を認めうるものと解すべきであつて、原審が右乙号証は真正に成立したものと認める旨判示したのは、弁論の全趣旨によりこれを認めた趣旨であること明であるから、同号証を証拠に採用したことは何ら違法ではなく、所論は理由がない。また原審は右の乙一号証の一、二及び第一審における被告本人訊問の結果並びに原告本人訊問の結果の一部を綜合して本件手形偽造の事実を認定したものであり、しかもそれは十分認定できることである。それ故原判決は本件手形が偽造であることを証拠によらないで認定したものであると非難する論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

第一審訴訟手続の違法を理由として上告を為すことは許されないばかりでなく、第一審において原告の本人訊問申請手続が昭和二四年八月二五日までに為されていたにかかわらず、裁判所の呼出手続がおくれて九月一日の期日に訊問が為されなかつたことは所論のとおりであるが、次回期日(九月一五日)に申請どおり訊問がなされたのであるから、さきに呼出手続を為さなかつた手続上の瑕疵は治癒されたと認むべきである。よつて論旨は理由がない。

同第三点乃至第六点について。

手形の被偽造者は偽造手形により何ら手形上の義務を負うものではなく、このことは被偽造者に重大な過失があつたと否と、また受取人が善意であつたと否とにかかわらない。更に所論のような手形の社会上の地位もこの原則を左右するものではない。論旨は右と異なる独自の見解に立脚し、又は判旨に添わない主張をなすものであるから、いずれの点も採用することができない。

同第七点について。

原判決の事実認定には所論のような違法の点なく、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)

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