最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)1431号 判決 1952年12月23日
主文
原判決及び第一審判決を破棄する。
被告人は無罪。
理由
被告本人の上告趣意は、後記書面のとおりである。
被告本人の上告趣意について。
所論は、原判決の法令違反を主張するのであって刑訴四〇五条の適法な上告理由にあたらない。しかし、第一審判決及び原判決の認定したところによると本件塩は、被告人が塩専売法臨時特例(昭和二〇年一二月二九日勅令七二九号、昭和二四年五月二八日法律第一一二号で廃止)により、自給用に供するため政府に届け出でて製造した塩であるが、被告人がこの塩について、塩専売法臨時特例施行規則(昭和二〇年一二月二九日大蔵省令第一一五号、昭和二四年五月三一日大蔵省令第四二号で廃止)三条による所轄専売官署の指示に従うことなく、物々交換の目的で他に搬出し、山崎由太郎方倉庫に一時蔵置したものである。原判決はこの事実に基き、自給用に供するため製造した塩を右塩専売官署の命令指示に従うことなく譲渡交換等の目的で他に搬出した場合は、自給用としての性質を失い政府の売渡さない塩として塩専売法の適用を受けるものと解釈しなければ、塩専売法の目的を達することができないとし、被告人に対し塩専売法の罰条を適用した第一審判決に違法はないと判断したのである。しかしながら、前記塩専売法特例施行規則三条によれば、自給塩はこれを譲渡する場合「所轄専売官署ニ於テ……為スコトアルベキ必要ナル指示ニ従フコトヲ要ス」と定めているが、この指示を予じめ受けることなく物交のため搬出したという事実だけで、自給塩であった塩が自給塩の性質を失い、旧塩専売法五条に「政府ヨリ売渡シタル塩ニ非ザ」る塩となると解することはできないばかりでなく、また右のような事実だけで行為者を罰する明文がない。且つまた被告人は本件塩を物交のため前記倉庫に一時蔵置したというのであるから、塩専売法(行為当時)に譲渡の未遂を罰する規定がないのと比照すれば、原判決のように解するときは、自給塩についてのみ譲渡の未遂を罰することとなり、その間権衡を失するのそしりを免れない。すなはち、原判決はこの点において法令の解釈を誤った違法があり破棄を免れないから、刑訴四一一条一号により職権をもって原判決及び第一審判決を破棄すべきものとし、なお当裁判所が直ちに判決することができる場合であり被告人の本件行為は前記の理由で罪とならないから、刑訴四一三条但し書、四一四条、四〇四条、三三六条により裁判官全員一致の意見をもって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)