最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)1515号 判決 1952年3月18日
本籍並びに住居
広島県賀茂郡上黒瀬村字竹安六八七番地
農業
平賀来次
明治一七年一二月二七日生
右の者に対する食糧管理法違反被告事件について昭和二六年二月二七日広島高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人早川義彦の上告趣意は、末尾添付の書面記載のとおりである。
第一点について、
所論は、被告人に対する本件供出割当の通知は、被告人とその家族の生存を不可能とするような苛酷なものであつて、憲法二五条一項に違反すると主張するのである。しかし、憲法の右条項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営みうるよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したものであるけれども、この規定により直接に、個々の国民が、国に対し、具体的現実的にかかる権利を有するものではないから(昭和二三年(れ)二〇五号同年九月二九日大法廷判決、集二巻一〇号一二三五頁)、右のような理由で本件供出割当通知の憲法違反を主張する所論は採用できない。なお供出割当の数量が実収高以上であつた場合には、実収高を超える部分については、供出違反罪が成立しないものであることは、当裁判所の判例とするところであるが(昭和二三年(れ)一七二四号同二六年七月一八日大法廷判決、集五巻八号一四六五頁)、本件の場合、第一審判決及び原判決は、被告人の実収高が、もとより供出割当数量を超えるものであることを認定判断しているものと解すべきであり(原判決は、本件の供出割当は公正妥当なものであつてこの割当量を供出したからとて被告人一家が餓死するものでもないと判断している)、記録を調べても、右の認定に誤りがあるとして刑訴四一一条を適用すべき事由は、認められない。
第二点について、
所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、この点につき同四一一条を適用すべき事由は認められない。
よつて刑訴四〇八条により全裁判官一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)