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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)1335号 判決 1952年3月18日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

福岡高等検察庁検事長山井浩の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のとおりであって、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

臨時物資需給調整法第六条によれば、法人においては、その代表者ばかりでなく、法人の代理人、使用人その他の従業者においても、同法第三条第一項の規定による報告をしない場合があることを予想し、かかる場合には、その行為者を罰するの外、その法人に対して各本条の罰金刑を科することを規定している。

ところで同法第三条に基き制定された昭和二二年一月二五日商工農林省令第二号指定生産資材在庫調整規則(単に規則という)第三条は「業務に関して別表に掲げる数量を超えて指定生産資材を所有する者(以下、事業者という。)はこの省令施行の日(以下、施行日という。)において現に所有する指定生産資材について別記様式による報告書三通を、施行日から三〇日以内に、当該指定生産資材の所在地を管轄する地方長官を経由し、当該事業者の所管大臣(以下、主務大臣という。)に提出しなければならない。(以下略)」と定め、同条にいわゆる別記様式、即ち指定生産資材在庫数量等報告書の様式には「--右の通りに相違ありません。昭和二二年 月 日。報告者の氏名又は名称及び印、報告担当者の氏名、地位及び印。--主務大臣 殿」と定められなお「報告要領一、この報告書は工場、事業場等からこれを提出すること、二、三、四(略)」と規定されている。これらの規定に徴すれば、規則は「報告者」のほかに「報告担当者」なるものを予定し、両者の存する場合にはその連記にかかる報告書を工場、事業場等別に提出すべきことを命じていることが窺える。

もっとも規則は「報告担当者」の定義を直接に下していないのであるが、前記臨時物資需給調整法第六条を参酌すれば右規則の「報告担当者」とは、法人においてはその代表者ばかりでなく資材調査に関する事務を統括する地位にある法人の代理人、使用人その他の従業者をも指称すると解すべきであり、これらの者が法規の命ずるところに違反して報告を怠れば本件犯罪が成立するものと言わねばならない。しかるに原審は被告人古市安臣が前記のような意義の報告担当者であるかどうかについて審理判断せず、単に会社代表者でないことを確定することによって同人及び株式会社金子組両名を無罪としたのであるが、右は結局法令の解釈適用を誤った違法あるか乃至は審理不尽、理由不備の違法あるものというべく、論旨は理由がある。

よって刑訴施行法第三条の二、刑訴第四〇六条、第四一〇条第一項、刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四八条の二に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三)

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