最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)137号 判決 1955年10月25日
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人星野国次郎の上告理由第二点について。
原判決は、上告人が被上告人等を相手方として本件不動産につき処分禁止の仮処分決定をえた事実を認めながら(その登記を経たことについて当事者間に争のないことは原判決の事実摘示自体に徴し明かである)、被上告人等が右仮処分決定前に右不動産を補助参加人に売却したことを理由とし、右仮処分決定後(その登記後であることについて当事者間に争のないことは原判決の事実摘示により明かである)売買による所有権移転登記をしたことによつて補助参加人は本件不動産の所有権取得をもつて上告人に対抗することができると判示したのである。もとより処分禁止の仮処分は単に将来の仮処分債務者の処分を禁ずるに止まり、仮処分前における仮処分債務者の処分行為をまでも禁止する効力はないから仮処分債務者がその処分行為によつて義務づけられた登記をなすことを妨げることはできない。しかし処分禁止の仮処分前に仮処分債務者の処分行為により目的不動産につき権利を取得した場合であつても、仮処分登記当時未だその登記を経由しない場合にあつては、その権利取得をもつて第三者に対抗することができない関係にあるのであり、従つてその登記前すでに処分禁止の仮処分登記がなされた以上その後権利取得の登記をしても、その権利取得が仮処分前なることを理由としてはもはやこれをもつて仮処分債権者に対抗することはできないものといわなければならない。換言すれば、仮処分債権者はこの場合においては仮処分当時第三者の権利取得につき登記の欠缺を主張しうべき地位にあり、しかも自己の被保全権利に仮処分登記により第三者に対する関係においても保全せらるべき地位を取得したものと認むべきであるから、その後の権利取得の登記はその取得の時期いかんにかかわらず仮処分の対抗を受け仮処分債権者に対して対抗力を生ずるに由ないものと認むべきだからである。
しからば、本件売買が本件処分禁止の仮処分前になされた以上その登記が仮処分後になされたところで何等仮処分の制限を受けないものとし、補助参加人の仮処分後の所有権取得登記によつてその権利取得を上告人に対抗できると判示した原判決は、仮処分の法理を誤解したものであつて破棄を免れない。
よつてその余の上告理由に対する判断を省略し民訴四〇七条により裁判官全員の一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)