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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)898号 判決 1955年12月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大畠農夫雄の上告理由第一点について。

所論は、原審が採証法則に違反して事実を誤認した違法があると主張するのであるが、その実質は原審が裁量権の範囲内でした証拠の取捨判断並びにこれに基く事実の認定を非難するに帰するので、採用することができない。

同第二点について。

所論は、原判決には調停調書の解釈を誤つた違法があると主張するのであるが、本論旨も結局は証拠判断、事実認定の非難に帰し、採用することができない。調停上の合意の内容は、もとより特定条項の文言だけからでなく、他の条項との関連、事件の経緯その他一切の事情を綜合して判断せらるべきであり、記録によれば原審のように判断することもできるのであるから所論は理由がない。

同第三点について。

本件において茨城県農地委員会は、被上告人が緑岡村農地委員会のした裁定を不服として申立てた訴願につき、昭和二四年一二月二三日附で訴願棄却の裁決をしながら、さらに被上告人の申出によつて再議の結果、昭和二六年六月二九日附をもつて先に棄却した被上告人の訴願における主張を相当と認め、前記訴願棄却の裁決を取り消した上改めて訴願の趣旨を容認するとの裁決をしたことは、原判決の確定したところである。そして、訴願裁決庁が一旦なした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されないものと解すべきであるから(昭和二六年(オ)九一五号昭和二九年一月二一日当裁判所第一小法廷判決、集八巻一号一〇二頁参照)茨城県農地委員会が被上告人の申出により原判示の事情の下に先になした裁決を取り消してさらに訴願の趣旨を容認する裁決をしたことは違法であるといわねばならない。しかしながら、行政処分は、たとえ違法であつても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解すべきところ、茨城県農地委員会のなした前記訴願裁決取消の裁決は、いまだ取り消されないことは原判決の確定するところであつて、しかもこれを当然無効のものと解することはできない。なお、論旨は、本件裁決書には理由が付されていないと主張するけれども、裁決書を見れば一応理由を付したものと認めることができるので、この点の所論も理由がない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

裁判官井上登は、退官により評議に関与しない。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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