最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)96号 判決 1951年4月28日
主文
本件上告を棄却する。
上告の費用は上告人の負担とする。
理由
本件上告理由は添付の別紙記載のとおりである。
第一点及第四点について。
論旨は、市議会は行政庁ではなく、市議会が議員に対して行う懲罰議決も行政処分ではない。従つて原審が本訴を行政事件訴訟特例法にいう「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」として審判したことは違法であるというのである。
地方公共団体の議会が議決することをもつて主要な権限とし、執行機関でないことは論旨のとおりである。通常の場合においては、議会が議決をしても、その議決は外部に対し地方公共団体の行為としての効力を持たず、議決に基づいて、執行機関が行政処分をした場合に、はじめて効力を生ずるのであつて、従つて、議決を直ちに行政処分と言うことはできないのであるが、本訴で当否を争われている議員懲罰の議決は執行機関による行政処分をまたず、直接に効力を生じ、この点において通常の議決とはその性質を異にし、行政処分と何等かわかるところはない。従つて行政事件訴訟特例法の適用にあたつては、懲罰議決はこれを行政処分と解し、これを行う議会は行政庁と解するを相当とする。原判決が本件議決を行政処分とし本訴を「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」として審判したことは至当であつて、論旨に理由はない。
論旨はまた地方議会は法人ではないから行政庁ではないというのであるが、地方議会が法人でないことは論旨のとおりであるけれども行政事件訴訟特例法にいう行政庁もまた法人ではないのであるから、議会が法人でないことは議会を行政庁と考えるについて何等の妨げとなるものではない。
論旨はさらにまた、議決については、地方自治法一七六条により、ひとり、地方公共団体の長のみが議会を被告として裁判所に出訴し得るに止まり、議員が原告として議会を被告とする訴訟はゆるされないと主張するのであるが、同条が長に議決取消の訴訟をゆるしているのは、議会と長との争について特に規定をおいたのであつて、たとえ長が本件議決について同条による訴を提起し得るものとしても、そのために、本件懲罰議決によつて権利を侵されたとする議員が、右議決の取消を求めて本訴を提起することができないと解しなければならない理由はない。
第二点及第三点について。
会議規則が如何なる行為ありたる場合に如何なる懲罰を科するかを規定したのは実体的規定であつて、その遡及効を認むべきでないことは原審のいうとおりであり、又本件議決を取消すことが公共の福祉に反するものとはいえない。其の他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律第一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとは認められない。
以上説明のとおり本件上告は理由がないから民事訴訟法四〇一条、八九条、九五条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)