最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)305号 判決 1953年10月27日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人白井源喜の上告趣意第一点について。
仮りに所論のように被告人が俘虜であった当時濠州国が同人に対する処罰の権を有していたとしても、そのことは日本国が日本人たる被告人に対して裁判権を有するという原則を制約するものではない。唯被告人が外国の俘虜であった間は日本の裁判権が事実上行使できなかっただけのことで、その間になされた被告人の行為がすべて日本の国法上適法なものとなるのではないから、日本が事実上も裁判権を行使し得る状態となった時において、被告人の違法行為を処罰するのは当然である。従って原判決は正当であって所論のような違法は存しない。論旨は被告人の行為がその実行の時に適法であったということを前提として原判決が憲法三九条に違背することを主張するけれども、その前提が既に誤っているのであるから採用できない。
同第二点について。
論旨は結局第一審判決の採用した証拠の価値を争い、事実認定を非難することに帰するから、採用できない。所論援用の判例は本件に適切でない。
同第三点について。
仮りに所論のように旧軍隊内において上官が部下に対する慣例上の懲罰権を有していたとしても、それにはおのずから限界があるべきであり、殊にそれが終戦後にも存続したものとは必ずしも云えない。それ故第一審判決が被告人等には慣例上の懲罰権もなかったと認定したことは経験則に違背するものでないとした原判決は正当であって所論のような違法はない。
所論援用の判例は本件に適切でない。
同第四点及び第五点について。
論旨いずれの点も結局単なる法令違反の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
また記録を調べてみても同四一一条を適用すべき理由は認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)