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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)782号 判決 1953年7月14日

本籍

福岡県糸島郡元岡村大字元岡

住居

福岡市住吉松田町一五三〇番地

無職

浜地武美

大正一五年八月二四日生

右の者に対する窃盗被告事件について昭和二七年一月二一日福岡高等裁判所の言渡した判決に対し、原審弁護人古賀俊郎から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意及び弁護人籠宮慎一の上告趣意は後記のとおりである。

被告人の上告趣意について。

論旨は、本件記録添附の控訴趣意書を援用するというのであるが、上告趣意書自体にその趣意内容を示さず記録中の他の書面を援用するに過ぎないものは適法な上告趣意といえない(昭和二五年(あ)一二二〇号同年一〇月一二日当裁判所第一小法廷決定参照)。その他の主張も刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人籠宮慎一の上告趣意第一点について。

論旨は、第一審判決に証拠として掲げられている検察事務官に対する被告人の第二回供述調書及び被告人の公判廷における供述は犯罪事実のすべてに対し証拠とせられたのか、或はその一部に対し証拠とせられたのか明瞭でなく、刑訴三七八条四号に当るに拘らず原審は職権でこれを調査して第一審判決を破棄することなく控訴を棄却したのは、憲法三一条刑訴三九二条二項三九七条に違反するというのである。しかしながら、所論の事由は原審において控訴趣意として主張されず従つて原判決の判断を経ていないのであるから適法な上告理由とならない。刑訴三九二条二項は、同項に掲げる事由に関しては控訴裁判所において職権で調査することができることを示したに止り、控訴裁判所に調査義務を負担せしめたものではない。それ故、原判決には所論のような違法はないので論旨は理由がない。

同第二点について。

所論の事由もまた控訴趣意として主張されず従つて原判決の判断を経ていないのであるから上告の適法な事由とならないこと前論旨に対して説明したとおりである。のみならず所論前科は罪となるべき事実ではないから必ずしも証拠によりこれを認めた理由を示す必要はなく、また証拠によりこれを認めるにも一件記録中の適当な資料により認定することを妨げるものではないこと当裁判所の判示するとおりである(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日大法廷判決)。それ故、原判決には所論のような違法もない。

よつて、本件上告を理由ないものと認め、刑訴四〇八条一八一条に従い裁判官全員の一致した意見で主文のどおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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