最高裁判所第三小法廷 昭和27年(れ)197号〔1〕 判決 1953年9月22日
本籍
徳島市吉野南町一二番地
住居
藤沢市鵠沼六八〇三番地
無職
新居信春
明治四五年五月二六日生
本籍
鹿児島市高来町六七〇番地
住居
東京都文京区高田老松町一八番地
組合手伝
岡村亘
明治四一年九月一七日生
本籍並びに住居
新潟市上大川前通五番町五五番地
会社員
三崎政次
明治三五年一二月五日生
本籍並びに住居
武蔵野市吉祥寺字野田南一八三六番地
無職
堀節雄
明治四四年一月一四日生
右新居信春、岡村亘に対する収賄、三崎政次、堀節雄に対する贈賄各被告事件について昭和二六年七月九日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人新居信春の弁護人日高理四郎の上告趣意(後記)第一点及び第三点について。
論旨は、原判決が被告人の職務に関しない事項(権限外の事項)を職務に関するものとして収賄の事実を認定したと争うのであつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして被告人の職務につき原判決が証拠として引用する山林局林産課事務分担、林野局設置等に関する件、林野局官制、林野局分課規程、林政部企画課資材係分担表を具さに検討した上、なお職権をもつて関係の事務分掌について説明している農林省林政部林野局企画課長藤巻吉生の二回にわたる検事聴取書、同じく国有林野部長三浦辰雄の聴取書の内容を精読すれば、被告人新居信春は割当資材の現物化に対する手配等についても職務権限を有していたことが認められる。のみならず官庁内部における各分課の諸規程等の文理上からは、厳密にいえばその職務の範囲に属するといえないとしても、その権限に属する職務を執行するに当り、その職務執行と密接な関係を有する行為をすることによつて相手方より金品を収受すれば、賄賂罪の成立を妨げるものでないとする趣旨は、当裁判所の判例とするところでもある(昭和二四年(れ)第八五六号同二五年二月二八日第三小法廷判決、昭和二五年(れ)第一二四九号同二六年一月一八日第一小法廷判決参照)。従つてこの点についても論旨の理由は認められない。
同第二点について。
論旨は、原判決の判示第一の五の所為につき法令違反又は事実誤認を主張するのであつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。なお原判決の証拠として引用する共同被告人三崎政次に対する検事聴取書には、所論のように右三崎政次が被告人に交付した金六万円の中金一万六千三百九十円が、被告人の職務に関する賄賂となることを直接認めるに足る供述はないが、他の挙示の証拠の記載を詳細に照合すれば原判決の判示認定に到達することができないとはいえないのみならず、さらに職権をもつて記録により三崎政次の原審第二回公判廷における供述を検討して見ると、三崎は前記金額について贈賄の意思はあつたことが認められるから、前記挙示の各証拠と合せ被告人の判示第一の五の事実を認めることをなんら妨げるものではない。従つて原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
同第四点について。
所論は、原判決の判示第一の三について法令違反又は事実誤認を主張するのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして論旨は、判示所為は職務外の行為によるいわゆる儲けの配分に過ぎないという趣旨であるが、本来の職務行為に含まれないとしても、職務に密接な関係にある行為をすることによつて相手方より金品を収受することは、賄賂罪の成立を妨げないこと第一点及び第三点について説明したとおりであるのみならず、原判決の挙示する証拠中、贈賄者たる安本平八の原審公判廷における供述記載、及び職権をもつて調べて見ると、同人の第一審第一回公判調書の供述記載においても、同人は率直に贈賄の事実を認めているから、原判決になんら証拠によらずして事実を認定した違法はなく、事実誤認を認めることもできない。
同第五点及び第六点について。
論旨は、原判決の判示第一の一、二及び四の所為について、第四点と同趣旨の理由のもとに法令違反又は事実誤認を主張するのであつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして判示認定の事実は、挙示の証拠によつて充分にこれを認めることができるから、第四点について説明したと同じ理由を合せて、法令違反も事実誤認も認めることはできない。
同第七点について。
論旨は、原判決の採証法則違反を主張するのであつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして原判決が被告人の判示第一の一ないし五の事実の証拠として所論摘示の各公判請求書を証拠に引用していることは所論のとおりであるが、右各公判請求書は原審公判において、右公判請求書記載の公訴事実を読み聞けた後被告人がそのとおり相違なき旨を供述したのと相まつて証拠に引用した趣旨であること明らかであるから、前記各公判請求書のみに基いて所論のような主張をするのはあたらず、原判決になんら採証法則の違反はない(昭和二三年(れ)第一五四号同二三年五月六日第一小法廷判決、集二巻五号四六五頁参照)。
被告人岡村亘弁護人河村範男の上告趣意(後記)第一点について。
所論は、法令違反又は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして原判決の判示第二の所為について、被告人の職務権限に関する主張は、被告人新居信春弁護人の上告趣意第一点及び第三点について説明したとおりであつて論旨自体も理由がない。
同第二点について。
論旨は、原判決の判示第二の一の所為について法令違反又は事実誤認を主張し、かつ憲法三八条一項二項三項に違反するというのである。(論旨(一)ないし(五)及び(七)(八)について。)しかし被告人の自白が真実であることを認めるに足りる以上補強証拠の種類については法律に格別の制限はないから、共同被告人の供述を補強証拠とすることはなんら違法でなく、この趣旨は当裁判所のしばしば判示するところである。(昭和二三年(れ)第一一二号同二三年七月一四日大法廷判決、集二巻八号八八〇頁、昭和二四年(れ)第一二六七号同二四年一二月二四日第二小法廷判決、昭和二四年(れ)第一九一号同二四年六月二一日第三小法廷判決参照)。そして原判決の判示事実について、被告人の自白に共同被告人三崎政次同堀節雄の検事に対する聴取書の供述記載を補強証拠として総合すれば、被告人の犯罪事実は優にこれを認めることができるのであり、原判決の事実認定に違法はなくまた採証法則の違反もない。従つて所論憲法三八条三項違反の主張は、証拠法則に関する独自の見解を根拠とするのであつてその前提を欠き適法な上告理由と認められない。次に(論旨(六)について。)所論は、被告人岡村亘同三崎政次同堀節雄に対する検事の各聴取書の判示に相応する供述は、捜査官の強要による自白であると主張するが、記録を調べて見ても論旨主張のような事実は認められない。従つて所論憲法三八条一項違反の主張はその前提を欠くことに帰着する。また被告人岡村亘は一一〇日間拘束されていたからその供述は不当に長く拘禁された後の自白であると主張するけれども、本件事案の内容と関係被告人の数からいつて、当裁判所の判例に徴し必しも不当の長期拘禁と認めることはできないから、論旨は採用することはできない。(昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日大法廷判決、集二巻二号一七頁、昭和二四年(れ)第一四〇号同年一一月二日大法廷判決、集三巻一一号一七三二頁参照)。
同第三点について。
論旨は、原判決の判示第二の二について憲法違反があるのみならず法令違反又は事実誤認があると主張するが、原判決のいかなる点が憲法のいかなる条項に違反するかの記載がなく、単に法令違反又は事実誤認を主張するものと認められるから、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。そして所論は被告人の判示第二の二の所為につき各被告人の供述中独自の見解に副う部分を摘示し、よつて被告人の職務に関しない事項であると結論するのであるが、被告人の職務権限は被告人新居信春弁護人上告趣意第一点及び第三点の説明のように解すべきものであるから、原判決が挙示の証拠によつて判示事実を認定したのは正当であつて、採証法則違反も事実誤認も認めることはできない。所論中その余の部分は、原判決の認定していない事実に基き独自の主張をするのであつて、もとより理由は認められない。
被告人三崎政次同堀節雄弁護人吉弘基彦の上告趣意(後記)について。
所論前段の、原判決が判示第八の一第九の事実を認定したことは憲法三八条三項に違反するという論旨については、被告人新居信春弁護人の上告趣意第二点及び被告人岡村亘弁護人の上告趣意第二点について説明したとおりであるから、主張の前提を欠くことに帰し適法な上告理由にあたらない。所論後段の理由にくいちがいがあるという主張は、これまた被告人新居信春弁護人の上告趣意第二点に説明したとおりであつて、原判決に所論のような違法なない。
その他各被告人について記録を調べて見ても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
よつて刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)