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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)125号 判決 1953年7月14日

高知県幡多郡清水町清水四三〇番地

上告人

岡田佐之助

高知県幡多郡中村町

被上告人

中村税務署長

橋本寛利

右当事者間の行政処分取消請求事件について、高松高等裁判所が昭和二六年一二月二七日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

(参考)

上告人の上告理由

右原告は飲食店を営んでいた者でありますが、昭和二十二年度及び二十三年度の所得税に対し異議を申立てているものであります。その理由は左記の通りであります。

(一) 昭和二十二年度の営業について、七月四日迄は、税務所より酒類の配給のみをもつて営業して居りましたが、七月五日以後は法規により料飲店は休業を命ぜられ、休業致して居りました。仮更正二万五千円の通知を受け、早速書面をもつて異議申立てました処、中村税務署より大蔵事務官鎌田氏と清水町役場税務係吉永の両氏が私宅へ参り、種々審査の上修正し納税通知を受けましたので異議なく支払い、順次七月四日迄の分は完納いたしました。

(二) 七月五日より休業命ぜられ、法律に基き休業致して居ります私に更正決定四万円の通知を受けましたので、早速書面をもつて異議申立いたしました直後、組合員より、それぞれ更正決定のあまりに高き事を支部長に申出がありましたので、組合員を代表し中村税務署におもむき交渉いたしましたが、団体交渉は受付けないから異議のあるものは個人にて訴えよとのお話でしたから、特に自分の事のみを御説明申述べ、近日審査に行くからとの事に帰宅いたしました。

(三) 滞納処分としてラジオの差押えを受け、異議申立てました。

(四) 昭和二十三年度仮更正に又もや異議申立てました処、(あなたのは書面をもつて異議申立てたのであるが、詳細に聞きたいから印鑑持参の上、某月某日清水町役場に出頭されたい)と中村税務署より通知がありましたので、当日町役場へ参り、詳細に御説明申上げましたので取消になつたものと思つて居りました処、又もや二十三年度の滞納処分を受けましたので異議申立てました。

(五) 異議を申立てましたが、係官だけではいけないからと思い、中村へ参り税務署長に直接御説明申上げました処、(早速審査せねばならないが遠方であるから、ついでの時まで待つて戴きたい)とのお話でしたので、税務署さえよければ当方は、ついでの時でもかまいませんと述べ帰宅いたしました。その翌日、差押物件の競売通知がありました。

(六) 競売期日が延期できるものなれば、ついでゞも構わないが、延期できないものなれば競売期日迄に再審査を願いたいとの書状を書留にて送付いたしました。

(七) 昭和二十三年度十万円の更正決定を受け、早速書状をもつて異議申立てました処、四月十日頃に楠木事務官が、清水町役場へ審査に参り(あなたのは詳細に聞きたいので、自宅にて待つて下さい)との事でしたので、一先ず帰宅いたしました。ところが、何日経つても参られませんので、町役場で尋ねましたらすでに中村へ帰られたとの事で、又も内容証明をもつて抗議いたしました。私は盲人である為めに必ず一度は書面をもつて異議申立て、又詳しく聞きたいとのお話もありましたので、度々署長に御説明申上げたのであります。

税務署よりの調査に依れば、

(一) かまぼこで何万円の収入。

(二) 削り氷で何万円の収入。

(三) 組合長の地位を利用し、組合員への配給物資を組合員に渡さずに一人で売つた所得収入が大きい。

(四) 料理店三玉楼にいた前田秀美を原告が受け出し、表では給仕婦をさせ、裏では客をとらせ、それによつて得た収入が大きい。

右四箇条について事実を申上げます。

(一)は、毎年十一月末頃に入港する底曳綱漁船大有丸が、十年前より入港度に船宿代りに十二、三名の者が上陸し、私宅へ酒と魚持参にて飲み、その内、野菜類、調味料、燃料等を私が提供していました。その野菜類、調味料、燃料の代金代りに名称えそという魚を二貫匁足らず貰つていました。えそは一般家庭には向かず、かまぼこの原料なるが故にかまぼこを作り、その晩の費用分だけは売りましたが、残りは自宅の食膳に供しておりましたのでありまして営利を目的としたのではありません。十一月末より翌年三月十五日迄の出漁期間に入港し、私方に参るのは毎月一、二回で、毎年十回足らずですので、他船より魚を購入して居りませんから絶対に利益の対象ではありません。

(二) 削り氷は休業者といえども戸外にて食べさすなれば、売つても構わぬとの条件がありましたので、丸テーブルを戸外に出し二晩だけ夜間のみ売りました処、清水警察署営業主任松田巡査部長より露店営業になるから停止せよの達しがあり、早速止めました。これ又、田舎の小さな町での二晩の営業にては、何万円の利益は到底上げ得ません。

(四) 前田秀美を受け出した者は元々大蔵事務官安田久茂氏でありまして、私には何等関係のない事であります。

右の次第であります。私も、盲人とはいえども国家に対する納税の義務は忘却いたしておりませんが、法律が禁ぜられ、それを守り休業いたして居る者に、違法して営業した者の如くに課税され配給物資の横流し等という事実無根の罪をかけられたり、又、元々大蔵事務官のした事まで課税されましては納税の義務を果す気持にはなれませんので異議を申立て訴状に及びましたが、第一審の高知地裁では証人として当時清水警察署長西内力氏を出しましたにも拘らず、証人調をして呉れません。第二審高松高等裁判所に於きまして、裁判官より原告の私に対し(あなたには証人がありますか)とのお尋ねがありましたので、清水警察署長西内力氏(当時)と同署外勤巡査宮川氏を指名しました処(宮川何といわれますか)とのお尋ねですので、名前は記憶いたしませんとお答えすると、これ又証人調もなく判決を受けました。何と申しましても無実の罪を受けたのでありますから、納税する気持にはなれませんので上告いたす次第であります。

上告人の第二の上告理由

右原告は、昭和二七年三月二十四日附をもつて上告理由書を提出いたしましたが、その内の(七)の内容証明をもつて抗議致しましたが、その後の抗議につき洩らして居りましたので、第二上告理由書として附加いたします。

(八) 内容証明を提出いたしましたその後、間もなく岡上事務官が私宅へ審査に参り、原告関係の帳簿をはじめ組合の帳簿に至るまで審査致しました結果、「良く分りました。早速お答えせねばなりませんが明日中村へ帰り、署長及び課長に話し直ぐお答えします」と申されて帰りました。その後、五月も過ぎ六月も半になりましたが回答なく、六月二十日に二十四年度の申告指導に参りました酒井事務官にお話いたしました処「責任をもつてお伝えします」と申され帰りました。酒井事務官よりの御回答に依れば「翌日帰りました処、途中、水止めの為め一日遅れ署へ参りました処、岡上事務官は下川口へ出張中ですから、帰り次第話して本人より回答させます」と通知がありました(二十三日附)がその後、岡上事務官はじめ被告側よりは何らの回答もありません。原告は幾度となく書面、又は口答をもつて異議申立を致しましたにも拘らず、言を左右にし何の誠意もありません。

以上附加します。

上告人の第三の上告理由

(一) 原告は税務署長を告訴する事は好みませんので、訴願として中村簡易裁判所へ提出しましたが、当法廷では取扱わない事件だから、高知地方裁判所へ提出しなさいと返送になりましたので、早速地方裁判所へ提出致しました。

(二) 高知地方裁判所より、訴願ではいけないから告訴にせよ(現行)。告訴原告岡田佐之助、被告国家代理人中村税務署長(なんのなにがし)、訴訟費用は被告の負担とす。理由は、かゝる理由だから取消す。右告訴す。

この通り指導を受けましたので提出しました処、理由は抜き、営業しなかつた、もうけなかつたのみではいかぬか(理由)。当時、清水警察署長西内力氏の取締厳重な事を記入してありました。又、その通り取消して提出しましたが、次は収入印紙三百五十円貼用せよ、郵便切手五十八円四枚添えよと通知を受けましたのでその通り提出しました。またまた、訴訟に不備な点があるから当法廷へ出頭するか、中村裁判所で指導を受けて提出しなさいとのお知らせでありましたので早速、中村簡易裁判所へたずねて参りました処、最初も申した通り当法廷では取扱わない事件だから判りませんと申されましたので、地方裁判所へ参り御指導を受け提出しました。その後、三年もかゝり何回となく出頭を命ぜられ取調を受けました事は、地方裁判所より御廻送の書面にても明らかと思います。その判決によれば、国税局長、財務局長あての異議でないからいかない。又、預金もあるから相当の収入もありたるものと信じられておりますが、その預金につきましては私は盲目であります。目のウミを取れば、明りは増すとの医師の診断ですから、その手術をすべく自分の洋服及び私服、懐中時計、靴並びに妻の衣類、その他のものを売却し、その度毎に預金したものであつて、営業をなし収入を得たのではありません。

(三) 高等裁判所法廷に於て、裁判官より「原告は証人ありますか」との問に対し「あります」と答えました。「どなたですか」と問われましたので、当時清水警察署長西内力、外勤巡査宮川の両氏でございますと答えました。「宮川の名前は、どなたですか」と尋ねられましたので、名はおぼえておりませんと答えました。裁判官より被告に対し「証人いかがですか」とたずねておりましたが、被告は、証人はすでに遅すぎると答えておりました。それで、証人調もなく判決を受けたのであります。

(四) 被告税務署長は、署長宛の異議を受付け今日にいたるも返却なき事、昭和二十三年に滞納処分として差押え、その品物は現在に至るも売却せず税務署に保管してある点より考えましても、異議は受付けているものと信じます。

(二)に対する異議。高知地方裁判所は、国家代理人中村税務署長を告訴せよとの指導をし、三年もかゝり何回となく取調べた結果、その後の判決に税務署長の異議ではいけないとの事ですが、いけない事を何故最初に中村税務署長を告訴せよと指導したでしよう。

(三)に対する異議。裁判所に於て裁判中、証人が遅いとはいかがなる理由でしよう。

(四)に対する異議。昭和二十四年度に対する異議は昭和二十二年度、同二十三年度と同一に異議を申立てましたのに、二十四年度は中村税務署長が受付取消となりました。署長より、取消した証明をもらい保管しております。二十二年度、二十三年度にかぎり、国税局長、財務局長宛の異議でなくてはいけないとの事ですが、いかなる理由でしよう。万一いけないなればその書面を国税局長、又は財務局長宛に提出せよと返却すべきではないでしようか。

以上

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