最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)515号 判決
被上告人が、岩手県岩手郡玉山村大字川又字西字登第一四地割一七番の五山林三町一反四畝四歩のうち二町分について、昭和二三年二月一五日附岩手に第二五号買収令書をもつてした買収処分を取り消す。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
二、理 由
原判決の確定するところによれば、岩手県岩手郡玉山村農地委員会は、昭和二二年七月二〇日同村大字川又字西字登第一四地割一七番の五山林三町一反四畝四歩の内二町分について、当時の自作農創設特別措置法三〇条一項一号にあたるものとし同法三一条による買収計画を定め、同年一二月初旬頃岩手県農地委員会の承認を経、被上告人岩手県知事は同二三年二月一五日附買収令書を同年同月二六日上告人の前主山崎権太郎に交付して買収したのである。
右買収計画後買収処分前の昭和二二年一二月二六日に法律第二四一号をもつて自作農創設特別措置法は改正され、改正法は即日施行されたのであるが、右改正法は、牧野を未墾地と区別し、牧野については、自作牧野と小作牧野に分ち、それぞれ買収すべき場合を詳細に規定したのであつて、換言すれば、政府は、牧野は牧野として買収することにしたのである。右改正前においては、牧野が未墾地中に包含されていたものと解すべきことは、原判決の判示するとおりであり、従つて右改正前に定められた本件買収計画は、当時においては、本件土地が牧野であるがため違法であるということはできない。しかしながら、買収計画は、窮極において買収処分によつて国が土地の所有権を取得するための段階的な一手続に過ぎず、国が買収処分によつて所有権を取得する以前に、法律の改正によつて、前記のとおり牧野は牧野として買収することに決した以上、買収計画が適法であつたからと言つて、牧野を未墾地として買収することができるものではない。しからば原判決が、本件買収計画が適法であつたことを理由として本件買収処分を違法ではないとし上告人の請求を棄却したのは法律の解釈適用を誤つたものというべく本件上告は理由があり原判決は破棄を免れない。そして本件土地が牧野であることは原判決の確定するところであり、前述の理由によつて被上告人のした本件買収処分は違法であつて取り消すべきものであるから本件は裁判を為すに熟しており民訴四〇八条、九六条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)
上告代理人吉田賢雄の上告理由
第一点 原判決は「被控訴人に於て買収計画に基き昭和二三年二月十五日附の買収令書を同年二月二十六日山崎権太郎に交付して買収処分をしたものである」こと、尚「右買収計画は昭和二二年十二月初旬岩手県農地委員会の承認を経たものである」ことを確定し、次いで「本件買収の対象とされた土地は買収計画当時採草の目的に供されていたもので、改正法にいう牧野にあたるものであつた」ことを認めた。
原判決の述べる通り本件買収計画は旧自創法(昭和二一年法律第四三号)第三十条第一項第一号により定められたものであるが、それは同法に関する限り妥当なものである。
然し乍ら、昭和二十二年法律第二四一号(以下改正法という)では同号の規定は「農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとするもの」と改正せられ、更に改正法第四十条の二、同第四十条の三の規定に照し改正法に於ては(第三十条第三号の場合を除き)牧野に対し未墾地買収は許されない事になつたものと信ずる。
此の事は牧野が営農上必要欠くべからざるによるもので、岩手県に於ては耕地と併せ二十三町九反歩を保有し得るのである。
従つてたとへ買収計画はそれが定められた当時の法律に従へば、買収計画は正当であり計画の承認は適法であつても、買収処分は計画承認とは別個の行政処分であるから改正法施行後昭和二十二年二月十五日発付の処分は、改正法によつて適法であるかどうかを検討せらるべきである。
原判決は「県農地委員会の承認を経たものである以上、知事は自創法第三四条第九条第三八条の規定により買収令書を交付してその計画に定められた農地を買収しなければならない」と説示したが、右第九条及其準用規定は知事が買収令書を発付するについては買収計画に対する県農地委員会の承認を要する旨を定めたに過ぎないので、計画に対する承認があれば知事は必ず令書を発付しなければならない旨を定めたものではない。
本件の如く買収手続の過程に於て法律の改正と云う様な特段のことがあつた以上、計画に対する承認が為されたとしても知事は買収処分を為さないことも可能であるし、又既に為した買収処分を違法として取消すことも許さるべきである。
原判決は買収計画を定めた当時、適法か否かは計画当時の法律によつて判定すべきであると説示したが、それは勿論その通りであるが法律に改正がある以上、別段の規定がない限り改正後の行政処分(本件に於ては買収令書の発付)は改正法に照らして適否が判定せられなければならない。
それは旧法附則第二項と改正法附則第二条の対比からも考へられる。
以上