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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)641号 判決

自作農創設特別措置法四条一項にいう「同居の親族」とは、農地所有者と住居および生計を同じくするその親族をいうものと解すべきであり、そして生計を同じくするとは、農地所有者とその親族との間に、生計上相互にもしくは一方が他方に依存する関係がある場合を指すものと言わなければならない。本件において原判決の判示するところは、上告人は農地所有者である訴外伊藤仁一郎の二男であつて、仁一郎と同一家屋に起居し食事を共にしていた独身の青年であり、上告人が独自の責任において生計費を分担していたものと認むべき措信するに足る証拠もないのであるから、たとえ原審の認定するその他の事情があつても、本来生計上依存関係の強い親子の間柄として上告人は買収計画樹立当時なお仁一郎との間の生計上の依存関係から脱却していなかつたもの、すなわち仁一郎と生計を共同にする関係にあつたものと判断した趣旨であつて、原審の右判断は正当と認むべきである。そして、上告人が従来仁一郎とは別個に農作物を供出し、諸物資の配給を受け、諸税を負担していたことその他論旨第四点において主張する事情は、右判断を覆すものではなく、また上告人が住居、食事の費用を自ら負担していたことおよび独立して農業を経営していたことは、原審の認めないところである。従つて、論旨第一、第二、第四点は、上告人独自の見解に基き、もしくは原審の認めない事実を前提として、上告人を仁一郎の同居の親族に当るものとした原審の判断を非難するに帰し、いずれも理由がない。

以上のほかの論旨は、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」一号ないし三号のいずれにも該当せず、また同法にいう「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとも認められない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致した意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告代理人橘川光子の上告理由

第一点

本件において昭和二十三年五月二十一日宮城県亘理郡逢隈村農地委員会が樹立公告した農地買収計画の適否を判断するには、右買収計画が樹立公告せられた当時上告人(控訴人)がその父伊藤仁一郎の自作農創設特別措置法第四条第一項に所謂同居の親族であつたか何うかを明かにしなければならない。そして同居の親族か否かというは世帯を同うするか何うかということであつてこれを判断するには上告人が父仁一郎と生計を同一にしたか何うかを明かにしなければならない。蓋し同法第四条第一項に所謂同居の親族とは生計を同うする同一世帯内の親族の意味であるからである。然るに原判決は「成立に争のない甲第三号証、第五号証の一乃至三、第八号証、第十三号証、第十四号証の一、二、第十五号証の一乃至三、第十六号証の一乃至三、第二十、第二十一号証の各一乃至三、原審証人阿部武の証言により成立を認める甲第九、十号証原審証人大庄司俊二の証言により成立を認める甲第十一号証と原審証人斎藤儀作、伊藤仁一郎、阿部武、大庄司俊二、当審証人原田久四郎、田中市郎の各証言並に原審及当審における控訴本人尋問の結果を綜合すると控訴人は農学校を卒業後、東北大学附属農学研究所において農業を研究し、その後は自宅において農業を営む仁一郎の手伝をしていたのであるが、昭和十九年九月応召し、昭和二十年九月復員したものであること、控訴人は復員後間もなく仁一郎と相談のうえ将来独立して農業を営む目的で原判決添付目録記載の農地を含め田畑合計約二町六反、山林約四町歩を仁一郎から貰受け分家の手続をしたものであつて、いづれは他に住居を構えて父仁一郎と別居する予定であること、また控訴人は昭和二十一年十一月頃逢隈村上郡部落農事実行組合に対し自作農として耕作反別の届出をなし、爾来肥料その他の諸物資は仁一郎とは別世帯として配給を受け農作物の供出、諸種の税金納付等も仁一郎とは別に控訴人の名義でしていることが認められる」と認定し本件農地買収計画が樹立公告せられた当時上告人が

1 田畑山林を所有し分家をなし父仁一郎と別居する予定であつたこと

2 自ら農業を営み農作物を供出していたこと

3 父仁一郎と別個に肥料その他の諸物資の配給を受けていたこと

4 諸種の税金の納付等も上告人の名義でしていた事実

を確定している。そして右原判決確定の農作物の供出は自家保有米を控除してなされたものであり、また肥料その他の諸物資の配給は世帯主に対してなされるものであつて世帯員になされるものでなく、なほ諸種の税金は独立の生計を営む世帯主に賦課されたものであることは原判決援用の甲第十号証、甲第十一号証、甲第十六号証の一乃至三等の証拠によつて明白である。然らば本件農地買収計画樹立公告の当時上告人は独立の生計を営み父仁一郎とは別個の世帯主であるといわなければならない。然るに原判決は「控訴人は仁一郎の同居の親族にあたるものといわなければならない」と断定している。かくの如きは法律の解釈を誤りたるか然らざれば判決の理由に矛盾があるものであつて違法である。

第二点

原判決は「前示のように控訴人が仁一郎と同一家屋に起居し食事を共にしていることと原審証人羽田兵衛、横山耕三、木村正三、岩間与一、当審証人富塚知、渡辺晴一の各証言を綜合して認め得る控訴人が本件買収計画樹立当時独身であつて独立世帯としての世帯道具などを有して居らず雇人、農具、役牛等も仁一郎と共同に使用して農耕を共同で行つてきた事実を綜合すると控訴人が仁一郎と世帯を分けたのは単に形式上のものにすぎず事実上父仁一郎と生計を一にし同一世帯に属するものと認めざるを得ないから控訴人は仁一郎の同居の親族にあたるものと謂はなければならぬ」と説示し上告人が

1 父仁一郎と同一家屋に居住し食事を共にしていること

2 独身であつて個有の世帯道具を持たないこと

3 雇人、農具、役牛等も仁一郎と共同にて使用し農耕を共同し行つている事実

を肯定し、仁一郎と生計を一にし同一世帯に属するものと論断している。

けれども世帯を同うするとは生計を一にする意味であるから

1 上告人が父仁一郎と住居を同うし食事を共にしていることを以て直ちに仁一郎と生計を同うするといふことができない。上告人がその費用を支出するにおいては生計を別にするものと解すべきである。

上告人が農作物を供出するに当り自家保有米を控除していたことは前記の如く原判決援用の甲第十三号証によれば上告人が銀行預金を有し毎月生計費の払戻を受けていたことが明かである。

従つて上告人は住居及び食事の費用を負担していたものと認めなければならない。

2 上告人が独身であるや否やは独立の生計を営んでいるか何うかを定むる標準となすことができない。

また今日独立世帯としての個有の世帯道具なるものは存在しない。鍋、釜等の所謂世帯道具を持たなくとも独立の生計を営む世帯主になることができる。

3 上告人が雇人、農具、役牛等を父仁一郎と共同して使用し農耕を同人と共同で行つている事実を以て慢然仁一郎と生計を同うするものと解することができない。農村の農家においては雇人、農具、牛馬等を共用し農耕を共同にしなければ農業を経営することは困難である。この地方に所謂「いゐ」の慣行が広く行はれているのはこれが為である。

「いゐ」とは親族または懇意の間柄なる農家の間において農耕を共同になし雇人、農具、牛馬等を共同で使用することである。右は原判決の援用する第二審証人原田久三郎、第二審における上告本人の供述によるも認め得られる。従て農耕を共同にし雇人、農具、牛馬等を共同にて使用するも上告人において自ら農業を経営するにおいては独立の生計を営む世帯主であることはいふを待たない。

されば原判決の認定は法律を誤解するか然らざれば審理をつくさないものがあつて違法である。

第三点

原判決は「原審証人羽田兵衛、横山耕三、木村正三、岩間与一、当審証人富塚知、渡辺晴一の各証言を綜合して控訴人が本件買収計画樹立当時独身であつて独立世帯として個有の世帯道具などを有して居らず雇人、農具、役牛等も仁一郎と共同に使用し農耕を共同で行つてきたことを認め得る」となし、これを根拠として上告人が仁一郎と世帯を分けたのは単に形式の上にすぎず事実上生計を一にした同一世帯に属するものと論断している。けれども右第一審証人羽田兵衛は逢隈村農地委員であつて本件農地買収計画に対し上告人から異議の申立があつたので大友貞雄等と共に担任委員にあげられ昭和二十三年五月十九日午前中調査し、午後委員会を開き異議なく同居の親族と認めて決定をしたと証言している。けれども上告人が昭和二十三年五月二十一日樹立公告された本件農地買収計画に対し五月三十日異議の申立をなし、同年六月十五日異議却下の決定がなされたことは当事者間に争のないものとして原判決の確定した事実である。従て証人羽田兵衛の証言によれば本件農地買収計画が樹立公告する以前において異議の申立があり、調査して却下の決定をしたこととなりその証言の虚偽であること一見明かである。第一審証人横山耕三はまた被告宮城県農地委員、同証人木村正三は同県農地課事務官であるところ、同証人等は上告人が訴願を提起したので昭和二十四年二月十一、二日担任委員として調査をしたと証言している。けれども上告人が訴願したのは昭和二十三年六月三十日、これを却下する裁決がなされたのは同年十月一日であることは同様原判決の確定したところである。従て証人横山耕三、木村正三は訴願の裁決あつた後数ケ月を経て担任委員に挙げられ調査したこととなりその証言の虚偽なること明白である。従て原判決は一見虚偽であること明瞭である証人の証言を以て事実を確定したものにして採証の法則に違背し違法である。

第四点

上告人は訴外伊藤仁一郎の次男にして、農学校卒業後東北大学附属農学研究所に入りて農業を研究し、自宅に帰りて父仁一郎の営む農業の手伝をしていたところ昭和十九年九月応召し昭和二十年九月復員するや仁一郎より適式に田畑山林並に金銭の分与を受けて分家し独立して農業を経営して農作物を供出し肥料その他の物資の配給を受け独立の世帯主と認められて村民税その他の税金を賦課せられこれを納付して来たのである。唯だ上告人の別居する家屋に小作人小野勝郎が住居し明渡の約束を履行しないので同人に対し明渡の請求訴訟を提起したところ小野勝郎は右家屋につき買収を請求し買収計画が樹立公告せられたので、その取消の訴訟を提起し勝訴の判決を受け明渡の請求訴訟を進行していたのであるから上告人が止むなく別居することを遅延していたものである。そして本件農地が、逢隈村農地委員会において上告人の保有地として確定せられたものである。然るに自作農創設特別措置法の規定が改正せられ同法第四条第一項の同居の家族が同居の親族と改められるや上告人が未だ別居せず、仁一郎とは同一家屋に起居しているので同居の親族に該当するものとして買収計画が樹立公告せられたのである。この経過に徴するも本件農地買収計画が同法の趣旨に反するものである。そして上告人は原審においてこれを立証した。然るに原判決はこれらの事情を省みることなく、上告人は独立して生計を営む世帯主にあらずして仁一郎の同居の親族なりとなし上告人の取消請求を排斥したのである。従て原判決は審理を尽さない違法がある。 以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が原告の訴願に対し昭和二十三年十月一日附でなした裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、訴外逢隈村農地委員会は原告を訴外伊藤仁一郎の同居の親族とみなし、原告所有の別紙目録記載の農地について自作農創設特別措置法第四条第一項を適用し買収計画を定め、同年五月二十一日これを公告したので、原告は同月三十日異議申立をしたが、同委員会は同年六月十五日異議却下の決定をなし同年八月二十日通知した。そこで、原告は同月三十日被告に対し訴願をなしたところ被告は同年十月一日訴願は成り立たないと裁決し、その裁決書は同月十二日原告に送達された。

しかしながら原告は右仁一郎の二男ではあるが、同法第四条第一項にいわゆる「同居の親族」ではない。すなわち、同法条にいう同居の親族とは戸籍上分家しているかどうか、同一家屋内に居住し食事を同うするかどうかには関係なく、同一世帯内にあつて社会でもそう認められる場合である。しかるに、原告は

(イ) 東北大学附属農学研究所に於ける研究をおえて帰宅し、農事手伝をしていたところ昭和十九年九月応召し昭和二十年九月初旬復員し、父仁一郎と独立して農業を経営することとなり、同年十月初旬仁一郎から別紙目録記載の農地をその他の田畑、山林、宅地及び金員と共に分与をうけ、別居すべき家屋を現在訴外小野勝郎が居住する宮城県亘理郡逢隈村上郡字五反田九番地木造瓦葺平家建家屋一棟建坪十四坪と定め、右農地の分与については同年十一月十日宮城県知事の許可を申請し、同月二十八日同知事の許可をうけて同年十二月二十三日所有権移転の登記を経由した。

(ロ) 同年十月初旬自作農として届出をなし仁一郎とは関係なく所有農地を耕作し、肥料その他の物資の配給をうけている。

(ハ) 仁一郎とは経済的に独立し金円を所持しその出納をしている。

(ニ) 同年十二月四日戸籍簿上仁一郎と分家した。

(ホ) 仁一郎とは別個に納税供出その他の公課を負担している。

(ヘ) 仁一郎と同一家屋に起居しているけれども、原告が別居すべき家屋として定められた前記家屋を訴外小野勝郎が占拠して明渡を遅延しているからで原告は仁一郎には部屋代を支払つている。

(ト) 従つて便宜上仁一郎と食事を共にしているけれどもその食費は原告が負担している。

(チ) 原告の居住する地方の人々は原告を仁一郎と別世帯をなしているものとして待遇している。

したがつて、原告所有の別紙目録記載の農地について、逢隈村農地委員会が樹立した買収計画は違法であり、それゆえその買収計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の前記裁決もまた違法である。よつて右裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、

被告の主張に対し、(一)自作農創設特別措置法第三条による買収と同法第六条の二による遡及買収とは法律上その要件を異にしていて関連がない。(二)本件農地は原告が昭和二十年十一月二十三日以前譲受けたものであるから同法第六条の二による遡及買収の適用せられる余地がないから、行政事件訴訟特例法第十一条は些細な手続上の瑕疵を理由として処分の取消をすることが公共の福祉に適合しないと認められる場合に適用されるべき規定であつて、買収することができない農地を買収したというようなときに適用せられる規定ではない、と答えた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実中訴外逢隈村農地委員会が原告主張の農地について、その主張の理由に基き買収計画を定め、之を公告し、原告が右買収計画について異議を申し立て、これに対し逢隈村農地委員会が却下の決定をなし、原告が更に訴願し、被告が右訴願を却下し、その裁決書が原告に送達されたこと、原告がその主張の日時に本件農地の移転について宮城県知事の許可をうけ、その登記を経由したこと、及びその主張の日時に分家したことは、いずれも認めるが、その余の事実は知らない。原告は仁一郎と分家したとはいつても、それは単に戸籍上のみであつて、食事を共にし、農機具、役畜及び常雇の労務者はいずれも共同に使用し、事実上同居している。納税及び供出等を別個にしているのは農地買収を脱れるために作為したものである。

仮りに、原告が買収計画樹立の当時、仁一郎の「同居の親族」でなかつたとしても、原告が仁一郎から本件農地を譲受けることについて、宮城県知事の許可のあつたのは昭和二十年十一月二十八日で、所有権移転登記のあつたのは同年十二月二十三日であつたから本件農地は自作農創設特別措置法第六条の二の遡及買収が可能である。従つて本件買収計画が取消されたとしても、小作人等から遡及買収の請求があれば再び買収計画を定めなければならない。このような場合には、行政事件訴訟特例法第十一条を適用し原告の請求を棄却すべきである、と述べた(立証省略)。

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

本件控訴を棄却する。

買収計画の取消を求める控訴人の請求を棄却する。

控訴審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の訴願に対し昭和二十三年十月一日附でした裁決を取消す。原判決添付目録記載の農地につき、宮城県亘理郡逢隈村農地委員会が昭和二十三年五月二十一日定めた農地買収計画はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(証拠省略)。

三、理  由

訴外逢隈村農地委員会が控訴人を訴外伊藤仁一郎の同居の親族と認め、控訴人所有名義の原判決添付目録記載の農地につき、自作農創設特別措置法第四条第一項を適用し、仁一郎の所有農地とみなし、同人の保有面積を超える小作地なりとして買収計画を定め、昭和二十三年五月二十一日これを公告したこと。控訴人が同月三十日右買収計画につき、同委員会に異議を申立てたが同年六月十五日これを却下され、同年八月二十日其の旨通知を受けたこと。控訴人が同月三十日更に宮城県農地委員会に訴願をなし、同委員会が同年十月一日右訴願は成りたゝないと裁決し、その裁決書が同月十二日控訴人に送達されたこと。以上の事実は当事者間に争のないところである。

そこで控訴人が自作農創設特別措置法第四条第一項に所謂仁一郎の同居の親族にあたるかどうかの点について判断する。

控訴人が仁一郎の二男であつて父仁一郎と同一家屋に起居し、同人と食事を共にしていることは控訴人の自ら認めるところであり、また控訴人が昭和二十年十二月四日戸籍上父仁一郎の家から分家したこと及び原判決添付目録記載の農地の所有権移転につき、昭和二十年十一月二十八日宮城県知事の許可を受け、同年十二月二十三日仁一郎から控訴人に対し所有権移転登記のされたことは被控訴人の認めるところである。而して成立に争のない甲第三号証第五号証の一乃至三、第八号証、第十三号証、第十四号証の一、二、第十五号証の一乃至四、第十六号証の一乃至三、第二十、二十一号証の各一乃至三、原審証人阿部武の証言により成立を認める甲第九、十号証、原審証人大庄司俊二の証言により成立を認める甲第十一号証と原審証人斎藤儀作、伊藤仁一郎、阿部武、大庄司俊二当審証人原田久三郎、田中市郎の各証言並に原審及び当審における控訴本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は農学校を卒業後東北大学附属農学研究所において農業を研究し、その後は自宅において農業を営む仁一郎の手伝をしていたのであるが、昭和十九年九月応召し、昭和二十年九月復員したものであること。控訴人は復員後間もなく仁一郎と相談のうえ将来独立して農業を営む目的で原判決添付目録記載の農地を含め田畑合計約二町六反、山林約四町を仁一郎から貰い受け、分家の手続をしたものであつて、いずれは他に居宅を構えて父仁一郎と別居する予定であること。また控訴人は昭和二十年十一月頃逢隈村上郡字椿部落農事実行組合に対し、自作農として耕作反別の届出をなし、爾来肥料その他の諸物資の配給は仁一郎とは別世帯として配給を受け農作物の供出諸種の税金の納付等も仁一郎とは別に控訴人の名義でしていることなどが認められる。しかし前示のように控訴人が仁一郎と同一家屋に起居し食事を共にしていることと、原審証人羽田兵衛 横山耕三、木村正三、岩間与一、当審証人富塚知、渡辺晴一の各証言を綜合して認め得る、控訴人が本件買収計画樹立当時独身であつて、独立世帯として個有の世帯道具などを有しておらず、雇人、農具、役牛等も仁一郎と共同で使用して農耕を仁一郎と共同で行つてきた事実を綜合すると、控訴人が仁一郎と世帯を分けたのは単に形式上のものにすぎず、事実上父仁一郎と生計を一にした同一世帯に属するものと認めざるを得ないから、控訴人は自作農創設特別措置法第四条第一項に所謂仁一郎の同居の親族にあたるものといわねばならない。甲第十八号証の記載及び原審証人斎藤儀作、阿部武、大庄司俊二、伊藤仁一郎、当審証人原田久三郎、田中市郎の各証言並に原審及び当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、その他に右認定を覆すに足る証拠はない。

然らば逢隈村農地委員会が控訴人を仁一郎の同居の親族と認めて原判決添付目録記載の農地につき買収計画を定めたことは違法でなく、他に右買収計画について違法の点があるとは控訴人も主張しないところであるから、右買収計画を是認した本件訴願棄却の裁決は違法とはいえない。従つてこれが取消を求める控訴人の請求を排斥した原判決は相当であり、また控訴人が当審において附加した右買収計画の取消を求める請求も失当として棄却すべきである。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

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