大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)914号 判決

上告人(原告) 前田鹿十郎

被上告人(被告) 岡山県選挙管理委員会

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告代理人柴田治の上告趣旨は末尾添附別紙記載のとおりであるが、

原審が本件においては選挙訴訟としては異議決定及訴願裁決を経て居ないから選挙無効の請求は不適法であるとしたこと、及その理由として判示した処は正当である。その他論旨は最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の上告理由に該当するものもないし、同法律にいう法令の解釈に関する重要な主張を含むものでもない(前説示の如く本件が選挙訴訟としては不適法であり、単なる当選訴訟である以上、原審は当選訴訟の原因として主張された事項だけについて審査すれば足りるのであつて、その他の事項について調べる必要はない。そして原審がその調べた範囲において「本件に顕れた総ての資料によるも選挙を無効とする理由はない」と判示したのは正当であり、又法第二〇九条を適用する場合には判決にその理由を示さなければならないけれどもその適用をしない場合に一々適用しない理由を示さなければならないものではないこと勿論である)

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条第八九条に従い裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告代理人柴田治の上告理由

第一点原判決は理由不備の判決である。

原判決は選挙訴訟は選挙の管理執行が法規に違背することを理由として選挙それ自体の効力を争う訴訟であると言い、上告人の当選訴訟についてのみならず選挙訴訟についても異議決定及び訴願裁決を経由しているとの主張について乙第三号証訴願書中に開票立会人である安藤千代松が一旦決定した候補者本郷寿の有効投票中数票の投票を独断で無効としたが、そのことは公職選挙法に牴触し、又その際開票管理者及び他の開票立会人は一言も発せず右安藤千代松のなすがまゝに任せたが、それでは開票管理者の職責を果したものでないから総体的に投票の審議を求める趣旨の記載があり、乙第四号証(甲第三号証と同一)裁決書の裁決理由にもこの点に関しては開票手続は適法に行われたものであると判断していることを認め、選挙訴訟についても訴願裁決を経ている如く見られる節もあると認定しながら乙第三、四号証及び乙第一号証選挙開票再審査請求書(異議申立書)同第二号証異議決定書を通読すれば異議申立及び訴願の趣旨としたところは開票管理者が無効投票と決定した十二票中の「ムサシ」「ホニゴウ」「ホンゴタ」「ヒリシ」の四票は一旦本郷寿の得票と決定されていたものを、前記安藤千代松が激烈な言動で右候補者の有効投票の再調査を主張し他の開票立会人等を畏怖させた上、これを無効投票と決定したが、以上四票は本郷の有効投票とすべきであり従つて宰務保常の当選は無効であるというに帰するから、被上告人が開票手続に違法はなかつたといつたのは、たゞ前記四票が無効とされるにいたつた事情に対する被上告人の判断を示したに止り、これを捉えて選挙訴訟についても訴願裁決を経たものということはできないと認定し上告人の選挙無効の確認請求は不適法として却下せられた。

しかしながら原判決の言う選挙訴訟は選挙の管理執行が法規に違背することを理由として選挙それ自体の効力を争う訴訟であるというその選挙の管理執行が法規に違背するとは選挙管理規定の違反に限定すべきではなく選挙法の理念たる選挙の自由公正が著しく害せられた場合をも包含するものであること大審院の判例(昭和二〇、三、一、昭和二〇、二、二七、)にも示されているところであつて、異議申立、訴願にそれに関する申立がなされている限り之に対する村選挙管理委員会乃至県選挙管理委員会の判断決定が如何様になされていようとも、選挙の効力についての異議が申立てられているのに相違はないのであつて、それが投票に関するものであろうと開票に関するものであろうと、当該選挙、即ち選挙期日の指定から当選人の決定に至る一連の行為のうちの何の部分についてゞも選挙の自由公正を著しく害するものがあつたと主張するものであれば、それは即ち選挙の効力を争う申立てである、それが開票の場合の投票の有効無効の決定の仕方についてであつてもそれは同一である、それを原判決のように安藤千代松という開票立会人が激烈な言動で本郷寿の有効投票と決定された四票の再調査を主張し、他の開票立会人等を畏怖させた上、これを無効投票と決定したという申立をしていることを認めながら、それは右四票を本郷寿の有効投票とすべしという文の申立であるとしたのは乙第三号証訴願書に訴願人宰務政履が記述したところを看過し、選挙に関する訴訟が公益に関するところ重大であるために設けられた公職選挙法第二〇九条の規定による裁判所の職責を忘れたものであつて寔に理由不備の訴却下であると言わざるを得ない。

第二点原判決は又次のような著しい理由不備の違法がある。

原判決は公職選挙法第二〇九条の趣旨とするところは選挙に関する訴訟は公益に関するところ重大であり選挙が無効であれば当選訴訟は存立の余地がないから裁判所がたまたまその訴訟における全資料にもとずき当該選挙自体が無効であることを認めたときは例外的に特に当事者の主張を待たず、すゝんで選挙の無効を宣言する判決をすべしというにあるのであると言い、本件に顕れた総ての資料によるも選挙を無効とする理由はないとせられたがその選挙を無効とする理由はないという理由を全然判示していない。

本件は選挙訴訟として提起し予備的に当選訴訟の請求をしているのであるから上告人は選挙無効の理由を多数に列挙して主張しているのである、則ち原判決の言うように裁判所が当選訴訟に於てたまたま選挙無効の理由を発見したというような場合とは違つて上告人が極力選挙無効の理由を列挙し主張し疑義はあるにしても選挙訴訟としての訴願裁決ありと主張している場合なのである。

それに対し原判決は只「本件に顕れた総ての資料によるも選挙を無効とする理由はない」とだけ判示して居り、而もその次には「以上により明らかな如く第一次の請求については本案の判断を俟つまでもなく不適法として訴却下を免れない」とし選挙無効についての本案の判断はしていないことを明示している。

そうすると右の本件に顕れた総ての資料によるも選挙を無効とする理由はないというのは上告人が選挙無効の理由として主張した事実並に証拠について判断したものでないことになる、選挙無効の理由として主張した事実については判断せずして選挙を無効とする理由はないとすることが出来るであろうか、原判決は公職選挙法第二〇九条を適用するのは裁判所が自発的に「たまたま」選挙無効の理由を発見した場合丈だとせられたのであろうか。

上告人が主張した選挙無効の理由は六項に分けて主張しているのであるが、結局のところ本件選挙が著しく選挙の自由公正を害して為されたものであつて、投票管理者、投票立会人はその職務を怠り或は職権を濫用したというにある、候補者宰務保常の運動員が暴力的な言動を敢てして宰務保常の得票を多からしめようとしたことは全証拠調の結果からして認められるところであり異議申立、訴願に於て攻撃の的となつている開票立会人安藤千代松は選挙人宰務よねの代理投票が本郷派の立会人によつて行われたと称して第二投票所になだれ込んだ宰務派の者の参謀格であり、そのためには全国的にも珍らしい騒擾事件を惹起したことは甲第一号証起訴状文によつても認められるところであり(騒擾罪の主謀者が開票立会人として独断的に活動していることを念うべきである)、第二投票所に於て投票者三八七名中代理投票者が上告人の二十七年一月二十五日付準備書面記載の七十三人という多数に及んだという事は争のないところであつて(二七、一、二八、弁論調書)そのうち四十人が昭和二十五年六月四日執行の参議院議員選挙に自筆投票をしていることは甲第七号証(乙第五号証)によつて明かであり、そのうち身体の故障によつて代筆を依頼したものは五六名であることも証人山本力夫(第二投票所事務従事者)の証言によつて認められるのであるが、右の事実に対する判断を用いずして本件選挙が選挙の自由公正を害することなく行われ、投票管理者、投票立会人はその職務を公職選挙法の規定通りに執行したものであるとして、選挙無効の理由はないと判断し得るであろうか。

本件村長選挙ほど乱暴に行われたものはないというべきであつて、而もその結果が得票差一票というのである、この選挙が有効であるとするならば公職選挙法の選挙運動選挙の管理執行に関する規定は不要である。

裁判所は本件のような場合こそ公職選挙法第二〇九条を進んで適用すべきであると信ずる、原判決は寔に理由不備の判決である。

第三点原判決には又次のような著しい理由の齟齬がある。

原判決は「宰務ジントウ」と記載した投票について「参加人(宰務保常)の有効投票中に右投票のあることは当事者間に争がない、原告は右投票は参加人の実兄宰務淳三に対する投票であると主張するところ、その氏名を完全に記載してあるのであれば同人に対する投票と認めるべきであろうが、そうではないから投票者の意思を推測尊重し候補者中これと氏名の類似する参加人に対する投票と認めるを相当とする」と判示せられたが第二投票所の区域内には「サイム」を「タイム」と言つたり「ジユンゾウ」を「ジンドウ」と言つたりするような舌廻りの悪い言い方をし従つてその通りに記載する者が非常に多いのであつて(宰務保常の有効投票中に「タイムヤツネ」というのがあることは争がない、二七、五、二三、の弁論調書)、宰務淳三が本件選挙の選挙運動の陣頭に立つて活躍したことは甲第一号証によつて明かであり、誤つてこの者に対して投票する者のあるべきことは想像に難くないところである、そして「ジントウ」が「ジンドウ」の濁点を書き落したものであることは間違いないところである、原判決は投票者の意思を推測尊重して右投票を宰務保常に対する投票と認めるのを相当とするとせられたが、投票者の意思は宰務淳三にあり宰務保常ではないから原判決の推測尊重は全く外れて居り反対になつている、即ち大なる齟齬がある。 以上

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