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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)3434号 判決 1953年12月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人の上告趣意(後記)第一点について。

所論は、原判決が憲法三八条三項に違反すると主張するのであるが、その理由とする第一審判決の証拠の挙示方法について調べてみると、挙示の証拠のうちその下部に括弧をもって証明すべき事実を示したものがあるけれども、これらはその他の証拠と共に判決「証拠」の部の冒頭に「以上の事実は、次の各証拠を綜合してこれを認める」と示した中にすべて包含されることはいうまでもないことであって、所論摘示の部分は、その証拠によって特に強く証明すべき事実を示したに過ぎない趣旨であること明らかである。そしてこれらの各証拠を綜合すれば、各犯罪事実は優にこれを認定することができるから、第一審判決になんら所論のような違法はなく、所論違憲の主張はその前提を欠くことに帰着し採用することはできない。

同第二点について。

原判決は、第一審判決の懲役十月、三年間執行猶予、追徴金三万六千五百円の刑を重きに失するとして破棄自判し、懲役六月、五年間執行猶予、追徴金同額の刑を言渡したことは所論のとおりである。しかし刑の軽重は総体的に考察すべきであるから、原判決が本刑の懲役十月を六月に減じた以上、執行猶予の期間を三年間より五年間に変更したからといって、これを綜合して考えれば第一審の刑より軽減されたと見るのが相当であり、不利益に変更されたということはできない。執行猶予の持つ法律的価値判断は高く評価さるべきことはいうまでもないが、原審においても執行猶予の言渡がなされたのであるから、所論のように本刑を度外視し執行猶予の期間のみを比照して刑訴四〇二条違反を主張することは失当である。されば原判決にはなんら所論のような違法はなく、従って違憲の主張も前提を欠くことに帰し採用の限りでない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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