大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)4367号 判決 1955年10月04日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鈴木惣三郎の上告趣意は、事実誤認、採証法則違反の主張を出でないものであって適法な上告理由とならない。

弁護人花本福次郎の上告趣意第一点は、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるのみならず、判例違反をいうが、刑訴三三五条一項の解釈としては、すでに当裁判所の判例として、「第一審判決は証拠の標目を一括挙示しており、従って判文上は証拠と事実との関連性は明らかでないが、記録と照し合せて見れば、どの証拠でどの事実を認めたかが明白である」場合は刑訴三三五条一項に反するものではないと判示されている(昭和二五年(あ)一〇六八号同年九月一九日第三小法廷判決、集四・九・一六九五頁)。そして、原判決の維持した第一審判決の証拠理由の説示を見ると、記録と照し合せて見れば、どの証拠によってどの事実が認定されたか極めて明白であるから、第一審判決の証拠の標目挙示をもって所論理由不備の違法があるものといえないばかりでなく、当裁判所の判例の趣旨にも反しないものであって、論旨は採用できない。(論旨引用の大審院及び東京高等裁判所の判決--後記--は、当裁判所の前記判決に抵触する限り判例としての効力を失ったものと認められる)。

同第二点も、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるばかりでなく、訴訟法違反の主張であって採用できない。(起訴状記載第一、第二の各公訴事実に、被欺罔者及び被害者が鈴木八十吉と記載されていないことは、所論のとおりであるが、第一審判決挙示の証人鈴木栄子の証言によると、同人は右鈴木八十吉の娘であって、父は古鉄商をしていたが、現在隠居して同証人が主として仕事をしており、同人が被告人らから二回にわたり本件偽造の砲金棒合計二七本を代金合計二十七万三千円で買受けた事実が認められる。--記録四七丁以下。そして、右第一、第二の各公訴事実と第一審判決が認定した判示第一、第二の各事実とを対比すると、犯罪の日時、場所、相手方を欺罔した方法、相手方に交付した物品の品質、数量及び相手方から騙取した現金の金額は全く同一であり、ただ、被欺罔者及び被害者が前者は父、後者は娘である点において差異があるにすぎないものであって、結局の被害はただ一個しかなく、しかも、これに関与する被告人らの行為もただ一つしかありえないという関係にあることが認められるから、訴因の変更手続を経ないで右第一審判決のような認定をしたからといって、被告人の防御権の行使に不利益を及ぼしたということはできない。論旨記載の大高昭和二四年一〇月一二日第一〇刑事部判決は、寄託者を異にする横領罪につき、大高昭和二五年四月二二日第一刑事部判決は、麻薬の譲渡の場合買受人が異ってきたときにつき、いずれも訴因の変更を必要としたものであって本件に適切でない。)

同第三点も、原審において主張、判断のない事項に関する主張であるばかりでなく、理由不備若しくは審理不尽の主張であるから適法な上告理由とならない。

被告本人の上告趣意は、事実誤認、採証法則違反の主張に帰し適法な上告理由とならない。

弁護人花本福次郎、同高橋巳之助の上告趣意第一点は、事実誤認、採証法則違反の主張を出でないものであり、同第二点は、訴訟法違反の主張であって、(原審第一回公判調書に、裁判長は右弁護人がした証拠調請求を却下する旨を宣し云々と記載されていることは、所論のとおりであるが--記録二六一丁--、右の記載は、刑訴規則四四条一項三〇号、一九〇条により合議体である原審が決定で却下したものであると認められる。)いずれも適法な上告理由とならない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例