最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)5577号 判決 1954年11月16日
本籍
朝鮮慶尚南道梁山郡梁山面中部洞
住居
下関市東大坪町五町内三八一番地
雑貨商
金奉道
明治四〇年一二月九日生
本籍
朝鮮全羅南道済洲島城山面吾照里
住居
下関市彦島海郷四二 林商会内
元朝鮮人連盟下関小学校教員
呉庸化
当二七年
本籍
朝鮮慶尚北道キリツ郡シンコウ面
住居
下関市長門町三六番地
傭人
姜成允又は片万守こと
片満洙
大正一〇年一月八日生
右金奉道、呉庸化に対する騒擾指揮助勢、片満洙に対する騒擾指揮助勢、暴力行為等処罰に関する法律違反各被告事件について昭和二七年一二月二〇日広島高等裁判所の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
当審において国選弁護人宮田勝吉に支給した訴訟費用は被告人呉庸化の負担とする。
理由
被告人金奉道、同片満洙の弁護人植木敬夫、同小沢茂、同岡林辰雄、同青柳盛雄、同大塚一男、同上田誠吉、同石島泰、同竹沢哲夫、同佐藤義彌、同池田輝孝の上告趣意一点について。
所論は違憲をいうが、原審が所論のような予断偏見に基いて被告人等を差別待遇し、また裁判の独立を放棄し良心に従わないで裁判をしたとの事実は、記録上これを認めることができないし、その実質は結局証拠の取捨選択を非難する単なる訴訟法違反の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない。
同第二点について。
所論は違憲をいうが、原審が所論のような人種的差別による予断偏見のもとに裁判をしたとの事実が、記録上認められないことは前叙のとおりであるし、その実質は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない。(第一審判決判示冒頭の事実は、その挙示する証拠を綜合すれば優にこれを認定することができる。そして騒擾罪は多衆が集合して暴行脅迫をすることによつて成立しその地方の静謐を害することを要件とするものではないから、騒擾罪にあたる事実を判示するには、多衆が集合して暴行または脅迫の行為をしたことを明らかにすれば足り、特にその行為が地方の静謐を害しまたは公共の平和を害するおそれのあることを判示する必要はなく、従つて仮に同判決に地方の静謐を害した旨の判示にそう証拠が欠けていたとしてもそれが直ちに理由不備の違法を来すものでもない。大正一三年(れ)一〇〇九号同年七月一〇日大審院判決及び昭和二六年(れ)九〇八号同二八年五月二一日第一小法廷判決各参照)
同第三点について。
所論は違憲をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張を出ないから適法な上告理由にあたらない。(所論の写真は畢竟所論の検証に際し現場を指示説明するための補助として用いられたに過ぎないものであつて、当該検証の範囲を逸脱して使用されたものとは認められないから、これを所論の検証調書に添付したとしても違法となるものではない。)
同第四点について。
所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。(本案の裁判に対する上告理由がない場合は、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は許されないのみならず、原判決がその主文において、「当審の訴訟費用中証人原田才市、同国兼弘道、同李甲録、同鄭穆載、同義伯、同鄭鎮孝に支給した分は、被告人等と併合審理をした相被告人等との連帯負担とし」と判示していることは所論のとおりであるが、右「当審において併合審理した相被告人等」のうち他の事件において連帯負担の責任者から除外されている相被告人等は当然これを除く趣旨であることは、本件と併合審理された所論の各事件における第二審判決主文との比較上疑いのないところであるから、原判決に所論のような違法は存在しない。)
同第五点について、
所論は違憲をいうが、原審が良心を放棄し、自己の政治的偏見に従つて裁判をしたという事実は、記録上これを認めることができないし、その実質は採証法則違反の主張に帰し、適法な上告理由にあたらない。
同第六点乃至同九点はいずれも判例違反をいうが、原判決は論旨引用の各判例に少しも相反する判断をしていないから論旨はいずれもその前提をを欠き、(殊に原判決は被告人呉庸化に関する第一審判決の判示第一の(四)の事実認定に事実誤認のあることを指摘している)同第一〇点は単なる採証法則違反と事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
被告人呉庸化の弁護人宮田勝吉の上告趣意第一点について。
刑訴二二八条二項により被告人等に反対尋問の機会を与えないで作成された証人尋問調書について証拠調をすることが憲法三七条二項に違反しないことは既に当裁判所の判例とするところである。(昭和二五年(し)一六号同年一〇月四日大法廷決定)従つて記録上証拠とすることに被告人等が同意していることが認められる所論の証人尋問調書謄本を証拠としたことは少しも違法でなく論旨は理由がない。
同第二点は単なる採証法則違反と事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
被告人片満洙の上告趣意は事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて刑訴四〇八条(なお被告人呉庸化に対し同一八一条を適用する)により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)