最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1368号 判決 1955年11月22日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人成富信夫の上告理由第一点について。
権利の行使は、信義誠実にこれをなすことを要し、その濫用の許されないことはいうまでもないので、解除権を有するものが、久しきに亘りこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められるような特段の事由がある場合には、もはや右解除は許されないものと解するのを相当とする。ところで、本件において所論解除権が久しきに亘り行使せられなかつたことは、正に論旨のいうとおりであるが、しかし原審判示の一切の事実関係を考慮すると、いまだ相手方たる上告人において右解除権がもはや行使せられないものと信頼すべき正当の事由を有し、本件解除権の行使が信義誠実に反するものと認むべき特段の事由があつたとは認めることができない。それ故、原審が本件解除を有効と判断したのは正当であつて、原判決には所論の違法はない。なお、論旨中には憲法二九条違反を主張しているけれども、その実質は、要するに民法上本件解除が許されないという見解に帰着するものであるから、違憲の論旨として採用することはできない。
同第二点について。
原判決が本件につき所論失効の原則適用の主張を排斥した趣旨であることは、原判決理由(ハ)の判文に徴し明らかであるから、原判決には所論のような判断遺脱はない。また、論旨引用の大審院判例は本件に適切でなく、原判決は右判例と相反する判断をしたものではない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 木村善太郎 裁判官 垂水克己)