最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)392号 判決 1955年10月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人橋本武人、同和田良一の上告理由第一点について。
所論の要旨は、本件解雇を不当労働行為と認定するためには、右解雇が被上告人等の正当な組合活動を理由とするものであることを認定しなければならないにかかわらず、原判決は、その組合活動が正当なものであるかどうかについてなんら判断をしていないのみならず、その前提となる具体的事実として、所論の指摘するような不当な組合活動の存在を認定しながら、結局本件解雇を不当労働行為と判断したのは、理由そご、理由不備があるというのである。
原判決の説明は、きわめて複雑な各個の事実関係を判断しつつ最終の結論に到達する判示方法において、必しも適切であるとはいい難く、所論の摘示する語句に即していえば、あるいは所論のような解説を生ずるおそれがないとはいえないが、行文全体を素直に通読すれば、その全趣旨は次のように了解できるところであつて、所論のような非難を認めることはできない。すなわち原判決は、労働組合法七条一号にいう「労働組合の正当な行為」のうちに、所論のいわゆる山猫的活動を含むという見解をとつていないことはもちろん、共産党細胞活動をも常に当然に含むという見解をとつているとは認められない。従つて原判決は、被上告人等に対する上告人の解雇は、かような活動を理由とするものであるから、不当労働行為を構成すると判示した趣旨でないこというまでもない。もつとも原判決は、被上告人等の組合活動を説示するに当り、被上告人等に職場の規律を乱し組合の統制を逸脱するような行動または共産党細胞活動のあつたことを肯定するような部分があることは所論のとおりであるが、原判決の趣旨とするところは、被上告人等の行為自体に事実として右のように目される行動がなかつたわけではないが、当時上告人たる会社の賃金の遅払が常態となつていた状況の下において、会社を唯一の職場としその賃金によつて生活を維持している被上告人等として、右のような事情を契機として一般従業員の間に発生した判示の各行動に参加するのは自然の成行とも認められ、またその行動が、被上告人等が従来職場の指導的地位にあつた関係上、多少注目を引くに至つたとはいえ、被上告人等の煽動ないし破壊的行動によつて事が起きたとまではとうてい認めることができないから、被上告人等の判示程度の行動をもつて、使用者として通常直ちに解雇の理由としてとりあげる程度のものでないと解すべく、してみると結局被上告人等に対する解雇は、同人等が日頃正当な組合活動を活溌に行つていたが故になされたものと見るのほかなく、従つて不当労働行為と認めるのが相当であるということを判示したものと認められる。原判決の右認定は相当であつて、論旨は、原審の右事実認定を攻撃するものであるか、もしくは右と異なる事実認定を前提とするものであつて、採用のかぎりでない。
同第二点、第四点について。
所論の要旨は、原判決は、被上告人等の活動が共産党細胞活動であつて、労働組合法にいう正当な組合活動でないのに、これを理由とする解雇を不当労働行為と認めたのは、事実の認定を誤り、労働組合法七条の適用を誤つた違法があるというに帰する。
しかし、原判決は、第一点において説示したように、共産党細胞活動が常に当然に正当な組合活動に属すると解した上で、かような活動をとらえて解雇理由とすることが不当労働行為となる旨を判示したものではなく、被上告人等の行動のうちには、前示細胞活動と目されるものがあつたとしても、原審の認定する事情の下では、本件解雇の真の理由は、被上告人等の前示細胞活動と目さるべき行為それ自体にあつたのではなく、むしろ同人等が日頃正当な組合活動を活溌に行つていたことにあるものと認むべきであり、かような正当な組合活動がたまたま、他面において細胞活動としての性格をもつていたとしても、かような活動をとらえて解雇理由とすることは、労働組合法七条の関係においては、正当な組合活動を理由とする解雇すなわち不当労働行為に当るとするにあるものと解すべきである。原判決の挙示する証拠によれば右認定は可能であつて、所論のような違法はない。
同第三点について。
所論の要旨は、原判決は、被上告人等に、それ自体職場の規律秩序を乱し、業務の運営を阻害する行為があつたことを認めながら、他方会社が自ら賃金の支払を遅怠していたという事情の下でそのことに基因する従業員の右のような行動をとらえ解雇の事由とすることは、公平の観念に反するから、整理基準に該当しないものと認むべきであると判断したが、かかる公平の原則を持ち来ることは、本来従業員を解雇することが企業主の自由であるにかかわらずこのことを無視し、解雇の自由に不当な制限を加えるものであつて、解雇の意思表示に関する法律上の解釈を誤つた違法があるというに帰する。
しかし原判決は、上告人の被上告人等に対する解雇が公平の原則上是認される理由を欠くが故に許されないと判断した趣旨ではない。原審は、被上告人等に多少職場規律を乱した行為があつたことは認められるが、当時の状況の下において(第一点の説示参照)、判示程度の行動をもつては、公平の見地からいつても、会社側が使用者として、これをとらえて通常直ちに解雇の理由としてとりあげる程度のものであるとは認められないから、本件解雇の真の理由は、被上告人等の正当な組合活動にあるものと認むべきであると判示した趣旨であることは、行文全体を精読すればうかがい得るところである。所論は、判文中の語句をとらえて判示と異なる趣旨を前提とする主張であつて、採用することはできない。
その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)