最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)85号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔要旨〕選挙運動費として現金の支払に代えて手形を振り出した場合においては、振出人は、選挙運動費として実際に支出された金額の範囲内においてのみ支払う旨を約さなかつたとしても、その実際に支出された額を超えて手形金を支払う義務を負うものではない。
〔説明〕被上告人は、上告人が訴外甲にあてて振り出した金額各十万円の約束手形三通を甲から期限後裏書により譲り受け、現にその所持人である。右手形金の請求に対し、上告人は次のように抗弁した。すなわち、右手形三通は、上告人が昭和二四年一月施行の衆議院議員総選挙に立候補するに当り、訴外甲に選挙運動を依頼しその運動費の概算払のため振り出したものであるが、甲がその後選挙運動のため実際に支出した金額は十七、八万円に過ぎず、しかもその内約八万円は同人に支払済であるから、本件手形債務中甲に対して支払義務があるのは十万円を出でない。そして被上告人は甲から期限後裏書により右手形を取得したのだから、上告人は甲に対する右抗弁をもつて被上告人に対抗する、と。
原判決は、本件手形は、上告人が訴外甲に依頼した選挙運動の費用にあてさせるため、現金の支払に代えて振り出したものであるとの事実を確定しながら、「控訴人(上告人)の主張するように選挙運動の概算払のために振り出されたものであること、したがつて甲が選挙運動のため実際に支出した金額の範囲においてのみ本件手形の支払義務を負う趣旨で振り出されたものであることは、証拠上到底認められないから、仮に甲が実際に支出した選挙運動費が約十七、八万円に過ぎなかつたとしても、控訴人が本件手形金全額について支払義務を負担することに変りはない。」と説示し、上告人の右抗弁を排斥して上告人に手形金三〇万円全額の支払を命じた。
思うに、選挙運動費として現金の支払に代えて手形を振り出したものであるならば、振出人は受取人が実際に支出した選挙運動費の範囲において右手形の支払義務を負うに過ぎないと解すべきことはむしろ当然で、いわゆる概算払の約束がないから手形金全額につき支払義務があるとなした原審の判断は、契約の趣旨を誤つたものである。本判決はそのことを明らかにした上、原判決は理由不備の違法あるものとして破棄し、原審へ差し戻した。
なお、実際に支出した選挙運動費が手形金額に充たなくても手形金全額を支払うとの趣旨で本件手形が振り出されたと仮定しても、その実費を超える部分は結局選挙運動の報酬となり、これが支払は法律の禁止するところであるから(旧衆議院議員選挙法一一二条一項三号参照)上告人はその支払義務を負わない。本判決はこの点にも触れている(もつとも振出の趣旨が右の如くであつたことは上告人の原審において主張しなかつたところであるから、あまりこれを問題とする必要はない)。
(青山調査官)